学校の課題で作った趣味詰め詰めの異世界魔王討伐譚

@takuto20051124

第1話


およそ500年前、人類至上主義を掲げるアルカディア教の信徒達は、人間以外のすべての亜人種を魔族と呼び、迫害し、過酷な魔大陸に追いやった。



ここは魔族が住む魔大陸に位置する魔王城の最高階層。

古びた広間には長年散り積もった埃が舞い、無数に蜘蛛の巣が張っている。

その広間の中心にある大きな玉座には、薄暗い灰色の肌をした男が腰掛けていた。


男は魔族を統べる王であった。争いを好まず、善政を敷き、稀代の名君として民に慕われて暮らしてきた。幸せな日々を送っていた。

…亜人排斥主義を掲げるアルカディア法国に言いがかりをつけられ、戦争を仕掛けられるまでは。


ここにも昔は使用人が何人かいて、毎日箒や雑巾を持って忙しなく働いて回っていたものだ。

今になっては人っこ1人居やしないが。

…いや、居なくなってしまったというべきか…

おかげで自分で掃除できる玉座付近以外は酷い有様だ。


「1人になってしまったな…」


男はポツリと呟く。

妻や娘、使用人や側近などが集まり賑やかだったあの頃の魔王城は、もう無い。

みんな、自分の助けが届かない場所で戦禍に巻き込まれて死んでいった。

彼自身も敵襲に遭い、何度も生死の境を彷徨ったことがある。

それでも同胞たちの意志を背負ってなんとか生き延びてきた。

だが、それももしかすると今日までなのかも知れない。

広間の入り口に目を向ける。


「魔王ヴォイド!!!!」


目を向けた方向から階段を駆け上がる音と、煩わしいほどの大声が聞こえてきた。

その声の主達はすぐに広間に辿り着いた。

アルカディア法国が差し向けた勇者一行である。勇者一行の眼光は鋭く魔王を睨め付けている。


魔王

「…貴様らのような輩に入城を許可した覚えはないのだがな。…今なら見逃してやる。さっさと失せるが良い。」


勇者

「魔族の分際で偉そうに…!残虐な魔族の侵攻を今日終わらせる!!手始めにその腕を切り飛ばしてやるよ!」


魔王

「ほう…その鈍でか。試してみるか?いいぞ、来てみろ」


そう言って魔王は右腕を構える。


勇者

「ッ!…舐めた真似しやがって!!!」


勇者が剣を構えて跳び上がる。


ガキイイイイン  


「グゥっ…!」


剣の切先が装甲のような魔王の腕にぶつかり火花を散らす。

魔王は険しい顔で勇者渾身の剣撃を弾き飛ばすが、腕の外殻には小さくヒビが入っていた。

衝撃が骨を伝い、ビリビリと痺れるような鈍痛が腕の内部を襲う。


魔法使い

「汝の求める所に大いなる炎の加護あらん、ファイヤボール!!」


すかさず魔法使いが追撃を行うが、魔王は魔法が着弾する寸前に空中に飛び上がり回避した。

先ほど魔王がいた場所に高さ5メートルほどの火柱が立つ。

地面には小さいクレーターができ、高温により大理石でできた床はところどころガラスに変質していた。

魔王がクレーターの少し横のあたりに着地する。


魔法使い

「…さすが魔王というべきですかね?あのタイミングでかわすとは…」


魔王

「…腕を切り飛ばすと豪語するだけあって、膂力はあるようだな。並の魔族なら今の一撃で死んでいただろう。」


魔王の払いのけで後方へ吹き飛ばされた勇者は剣を地面に突き刺して静止する。


勇者

「クソッ…今ので死んどきゃよかったのによ…」


ヒーラー

「あれだけ動いたのに息ひとつ切らしてないなんて、アイツ正真正銘の化け物だね。」


魔法使い

「今の攻防で分かりましたが、怒り任せに動いて勝ち目のある相手じゃありません。素手で、ましてや片腕で貴方の攻撃をいなしていましたし…魔法と剣技の連携を意識して攻撃しましょう。奴を倒さないとガレアさんの魂が浮かばれませんから。」


勇者

「ガレア…ああ、そうだな…!どう動けば奴を倒せる?何か案はあるか?」


魔法使い

「奴は貴方以上の身体能力を備えています。魔法はまだ分かりませんが…僕以上の素養を持っていてもおかしくありません。僕達だけでは勝ち目はないでしょう…

ですが、ライラの持つ回復魔法は我ら人類の特権です。」


勇者

「回復魔法でどうやってアイツをたおすってんだ?」


魔法使い

「ライラさんには貴方にバフと回復を絶えずかけ続けてもらいます。これで貴方は疲労なく、普段以上の力で魔王と戦うことができます。そうして貴方が奴を押さえている間に、僕が上位魔法の詠唱を済ませてやつに打ち込みます。」


ヒーラー

「それは名案ね!やっぱりマルコは頭が良いからチームには欠かせない存在よね」


魔法使い

「ライラさん…あんまり他の男を褒めるとフィアンセに怒られるんじゃないですか?」


勇者

「他の男ならダメだがお前ならいいさ。いつだってチームを頭脳で支えてくれたのはお前だ。お前は年下だが、尊敬できるやつだぜ!」


ヒーラー

「だってさ。ビリーったらいつもマルコにだけは甘いんだから。私にももう少し優しければ良いのに…」


魔王

「…いつまでそこで喋っているのだ?そっちが来ないなら我から仕掛けるが」


勇者

「ハッ!てめえの息の根を止める算段を話し終えたところだ!今から遺言の用意でもしておけよ!!」


魔王

「……遺言か」


勇者

「俺をさっきやらなかったことを後悔させてやる!!」


ヒーラー

「時の流れを超える力を彼の者に与え賜らん!!ヘイスト!!

豊穣なる大地の女神よ、我の求めるところに癒しを与え賜え!!ヒール!!」


勇者

「喰らえ!!」


魔王に先ほどよりも重く、鋭く、素早い勇者の一撃が降りかかる。

片手でこの技を受け切ることはできないと判断した魔王は両手で勇者の剣技を受け止めた。

あまりの衝撃に魔王の装甲の傷は広がり、足元がひび割れ陥没する。



魔王

「!なるほど…ヘイストか、厄介だな!」


勇者

「もうさっき見てえな舐めた真似してられねえだろ!!いつまでてめえが素手で保つか楽しみだぜ!!」


魔法使い


「魔を焼き尽くす赤き閃光、灼熱の舞、 全てを灰燼に帰す炎よ!我が呼びかけに応え、灼熱の怒りを解き放て!ヘルフレイムバレット!!!!」


人1人をすっぽり覆い隠すほどの火炎が魔法使いの前に出現する。

勇者の攻撃を一身に受け防御に徹することができない状況の今、上位魔法がまともに当たれば軽い火傷では済まないだろう。


魔法使い

「ビリーバーさん!撃ちます!!注意してください!」


凄まじい熱を帯びた炎の塊が魔王めがけて迫ってくる。

対象を追尾する炎の魔法だ。すぐには避けられない。


魔王

「チィッ…仕方ないな…!」


勇者は巻き添えにならぬように一旦攻撃をやめてその場から離れようとする。

が、…魔王はその攻撃が止む一瞬の隙を見逃さなかった。

勇者の腕をがっしり掴む。


勇者

「てめ…何しやがる!」


魔王

「どうせ喰らうなら巻き添えにさせてもらおう…!」


魔法使い

「なっ…!まずい…!!消すのが間に合わない…!」


炎の塊は炸裂し、凄まじい轟音と共に、灯りのほとんどない魔王城の広間が赤い光に覆われていく。


ヒーラー

「ビリー!!」


2、3秒して爆発地点からはプスプスと煙がたちのぼる。

その煙の中から魔王がゆっくりと歩いて出てくる。

皮膚がところどころめくれて出血しているが、大きなダメージはなさそうだ。



魔王

「コイツを盾に使ったとはいえ、上位魔法にしては威力が低いな…咄嗟に威力を弱めたのか?普通はできない芸当だ。褒めてやる」


そう言いながら魔王は勇者を2人のいる方に放り投げる。

勇者は全身に大きな火傷を負っていた。特に背中は酷く、服が焼き切れて肌が露出しており、赤黒く変色して肉の焼けるような匂いがする。


魔法使い

「クソッ…!!ビリーバーさん…大丈夫ですか!?」


ヒーラー

「ビリー…!ビリーしっかりして…!!」


勇者

「うぁ…ライラァ…上位の回復をかけて…くれ…」


ヒーラー

「うん、うん…!!待っててね、すぐ治してあげるから!!豊穣なる大地の女神よ……」



勇者一行の様子を見ながら、魔王は魔法使いに話しかける。



魔王

「おい、そこの賢いの。そいつが治るまで待ってやるから、少し話をさせろ。」


魔法使い

「…なんですか?遺言でも考えたのなら聞いてあげますが」


魔王

「いや、そうではない。此度の戦について貴様らはどう聞かされておるのかが気になってな。さっきそいつが魔族の侵攻を終わらせるだの言っておったろう。誰からその話を聞いた?」


魔法使い

「…魔族が法国を滅ぼすために軍を率いて我が領土に侵入したと…法皇様からお言葉を預かりました。」


魔王

「我ら魔族は基本的に集団では行動せん。知力も体力も種族によって個体差が大きすぎて、全く統率が取れないからだ。そんな我らが軍を率いて攻め入るだと?」


魔法使い

「…!?まさか法皇様が嘘を…!?そんなわけーー、」


魔王

「法皇、人間のクズめ…我らを滅ぼしたいがために適当な嘘をでっち上げたな。会ったこともない我らのことがよほど憎いらしい…まるで生まれたての子鹿のように臆病な奴だ。君主の風上にもおけん」


魔法使い

「そんな……!!」


勇者

「てめえ…今法皇様を侮辱したな…!絶対許さねえ!」


魔王

「む…貴様、もう傷はいいのか?さっきより弱ければ我には通用せんぞ。」


勇者

「ぐぅっ…だまれ!!マルコ!!コイツの言うことなんか信じるんじゃねえぞ!!お前もずっと教わってきただろ!?魔族は人を騙し、欺き、喰らう悪魔なんだ!!絶対に根絶やしにしなきゃいけねえんだぁぁあ!!」


魔王

「自らの知見で物事を判断できず、教えに縋り盲信し、思考を放棄する…貴様は哀れだな。」


勇者

「うるさい…もう2度とその口を聞けなくしてやる!マルコ!!ライラ!!さっきのやるぞ!!」


魔法使い

「は、はい…!あんまり無茶しないでくださいよ!!雷の精霊よ…」


ヒーラー

「無理しないようにね!!ヒール!!ヘイスト!!」


勇者

「うおおおおお!!」


ガキンッ キンッ カンッ

勇者が繰り出した剣撃によって途轍もない数の金属音が広間に響き渡る。

しかし、心なしか先ほどの攻防よりも魔王が押している。


魔王

「どうした、やはりまだ癒えていないのか?さっきよりよほどやりやすいぞ…!」


勇者

「ウッ…クゥ!!まだまだぁあ!!アアアアア!!!!」


勇者は声を張り上げて剣を振るスピードを上げようとする。が、時間が経つにつれて少しづつ、勇者の足が後ろに下がっていく。傷のせいで治癒による体力の回復が追いついていないのだ。

やがて勇者は魔王の前蹴りを腹部に喰らい、後方に吹き飛んでしまう。


勇者

「グァぁあっ…、、!」


勇者を心配してヒーラーが駆け寄る。


ヒーラー

「ビリー!」


思惑通りではないが、勇者が魔王から離れた事で、今が魔法を放つ好機だと魔法使いは判断した。撃たなければ勇者は魔王の追撃によって死んでしまうだろう。

雷魔法は発動が早い上に広範囲に作用する。おそらく魔王にも当たるだろう。


魔法使い

「撃ちます!!!!注意してください!!ライトニングバレット!!」


魔法使いは警告を発してから魔法を放った。

だが、満身創痍の勇者にはその声は届かなかった。


勇者

「まだだぁ…!!」


力を振り絞り、立ち上がり、魔王の元に全力で駆ける。

ライトニングバレットが炸裂する前に勇者は魔王の元に辿り着いた。

雷魔法は水魔法の派生形で習熟が難しく、魔法の極致とされる魔法だ。

故に炎魔法のようには制御が効かない。一度発動したら絶対に間に合わない。

勇者も巻き添えになってしまう。


ヒーラー

「ビリー!危ない!!」


ドオオオオオンッッ  バチバチッ バリィッ


再び広間が光で満たされる。

ライトニングバレットが2人に直撃し、炸裂する。


魔王

「ウグッ…ガアァアアアアア!!!!」


体の内側から肉が裂け、血が沸騰する苦痛が魔王を襲う。

身体が電流により制御を失い、筋肉が収縮し、骨が折れる。


魔王

「ガァッ…ハァッ、ハァ…オェエッ」


あまりの苦痛に魔王は吐瀉物と血が混ざった液体を吐き出す。

おそらく内臓が傷ついている。治癒魔法が使えない魔族にとって致命的な傷だ。

魔法抵抗力の高い自分がこれだけのダメージを負う大魔法を手負いの状態で受けたのだ。

まず間違いなく勇者は死んでいるだろう。

そう思い、自分の目の前にある煙を出して横たわる体に目を向けた。


勇者

「…ライラ…?待ってくれライラ!!おまえ…!」


魔王

「女……?」


倒れているのはヒーラーだった。彼女は勇者の危険をいち早く察知し、

彼の元に駆け寄った。手負いで思うように身体が動かない勇者の腕を掴み、力の限り投げ飛ばし、彼を庇ったのだ。

勇者は彼女の亡骸を抱えながら泣き崩れる。


勇者

「…ぅぁあ…ライラ…!!ライラ!!俺を庇っ…て…ライラァ!俺を置いていくなぁ!」


魔法使い

「ライラさん…!そんな…ライラさん、死んじゃダメです…!!」


魔王

「……ゲホッ…ハァ」


魔王は苦しそうにしながらも悲しげな目でその様子を見ていた。

自分が妻と娘を失った時の悲しみを思い出し、目の前の光景と重ねた。

よろめきながら魔王が立ち上がる。

顎先から血を滴らせながらも、確かな足取りでゆっくり玉座に近づいていき、腰掛けた。




魔王

「…愛する者を失った貴様の傷心に免じて、此度の無礼は不問にする。即刻この城から立ち去れ。」


勇者

「は…?………ふざけてんのか?、、てめえ俺達のこと馬鹿にしてんのか!!!?」


魔王

「ふざけてなどいない…少し1人になりたいのだ。貴様らは我を殺せと言われてきたのだろう…?我は、じきに死ぬ。もう碌に動くこともできん。目的は果たしたも同然であろう…」


勇者

「…まだてめえは死んでねえだろうがよ…俺達は殺せって命令されてるんだぜ?息の根を止めろって言われてんだ…!」


勇者はふらついた足取りで、片手に剣を持って魔王に近づいていく。


魔法使い

「ビリーバーさん、ライラさんのことは残念でした…。でも、奴はもう長くは生きれないですし…最期くらい」


勇者

「うるせえ。俺の言うことに口出すと魔王より先にお前をぶっ殺すぞ?」


魔法使いはそう言う勇者の目を見る。復讐の炎を灯した生気を感じさせない目だった。

今の勇者なら本当に自分を殺しかねない。


魔法使い

「……!わ、分かりました…」


魔王

「…そうか。それが、貴様の答えか…ならば受け入れよう。自分の死に方も選べんとは、君主などやるものではないなーー、」


勇者

「ーー死ね!!」


ドスッ!!


魔王

「…グゥ……!」


魔王の心臓に深々と剣が刺さり、玉座をも貫いた。

口元から赤黒い液体が伝い、滴り、玉座を真紅に染めた。

勇者は剣を突き刺して、すぐにライラの亡骸の元に戻り泣き始めた。


勇者

「ライラ、ガレア…仇はとったぞ…!!」


歓喜に打ち震え涙を流す勇者とは対照的に、魔法使いは目を細めて魔王をじっと見つめていた。


魔王

「…ーー賢いの、何か、グッ…言いたげだな…」


魔法使い

「…考えたか知りませんが、遺言があれば一応お聞きしようかと思って」


魔王

「遺言、か…そんなものはない…遺言とは…生者に遺す言葉、だ…。

孤独の身の我には…必要ない…ものだ…」


魔法使い

「……僕が聞きますとも。いくらでも…。」


魔王

「…フッ、、貴様は…いい奴だな…魔族に産まれていれば…酒でも、…酌み交わせたろうに…

だが…今際の際に、、、貴様と…話ができて………よかっ、、た……」


魔法使い

「………」


口元に僅かに笑みを浮かべ、魔王はゆっくりと目を閉じた。





魔大陸から帰還した翌日、法国では勇者たちの活躍を祝して盛大にパレードが行われた。



民衆

「勇者様御一行、ばんざーーい!!!」

「魔王討伐、ばんざーーい!!!」

「汚らわしい魔族の血を絶やしてくださってありがとうございます!!!」


勇者

「ああ!!ライラとガレアの仇も取れたし、俺が魔王に止めを刺したんだぜ!!」


民衆

「わーーーかっこいい!!」

「魔王を倒した時のこと教えてください!!」

「勇者様!ライラ様の代わりになるとは思えませんが、この娘を嫁にもらっていただけませんか!街1番の美人と評判で…!」


勇者

「うーん…残念だけどもう皇女様との結婚が決まってんだわ!!ごめんな!」


民衆達に持て囃されて、勇者はすっかり天狗になってしまった。

法国に帰り着くまではライラが居なくなった事を嘆いていたが、今では皇女との結婚が決まったことを民衆に自慢してばかりいる。


民衆

「魔法使い様!忌まわしい魔族を滅ぼした冒険譚を聞かせてくださいませ!!」


魔法使い

「…いや、今実はあんまり気分が優れなくですね…あんまりお喋りする気分じゃないんです」


民衆

「それはいけない、魔王にやられた傷がまだ痛むのでしょう。ぜひうちの宿でーーー」


民衆の誰も彼もが勇者達に近づきたい、何かしらの縁が欲しいと、必死に擦り寄り、媚を売ってくる。

純粋な感謝の気持ちを持って自分に接している人間がこの中に一体どれほどいるのだろうか。


「ーーーーーーーーーー!!」「ーーーーーーー、、、!」


たくさんの民衆の声が混ざり合って、聞き取ることができない雑音となる。

まるで知恵を持たない家畜の鳴き声のように、、、

自分たちが旅の道中で殺して回っていた魔族達の方が、よっぽど清らかな心を持っている気さえした。少なくともあの魔族の長は、ここにいる誰よりも高潔な精神を持っている男だった。

彼らは姿形は人間とは違えど、仲間を思いやり慈しむことができる「人間」だった。

自分は「人間」を大勢殺した。そう思えば思うほど、罪の意識に苛まれ、気分が悪くなった。


彼らが悪だと教えられ、信じ込んでしまった自分に絶望した。

彼らを悪だと自分に教え込んで、洗脳した教会に憤怒した。

貼り付けたような笑顔を向け、取り入ろうとしてくる民衆に嫌悪を覚えた。

権力に溺れ、かつての婚約者との過去を簡単に切り捨てた勇者に嫌気がさした。

今まで正しいと思っていたことが全てひっくり返った。

今まで人だと思っていたものが、醜い獣のように見えた。

この国の全てが大嫌いになった。こんな国で生きていても意味がない…。

………こんな国、、、こんな国……






こんな国、無くなればいいんだ………。






パレードからしばらく後、アルカディア法国首都を中心に不審な大火災が発生し、

国土の9割以上が焦土と化した。

これを機にアルカディア法国は衰退の一途を辿り、数年後には

歴史の表舞台から姿を消した。

放火が原因の災害だったと言われているが、真相は誰も知らない…。









  ーーーENDーーー









 













































































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