第5話
椿が向かった先は赤左がいる剣道場。
少し開いた窓の隙間から中を覗く椿に赤左が気付き、部員に一旦休憩と声を掛けた赤左は急いで外まで走ってきた。
こうして椿が来る事なんてなく、汗で濡れた髪をかきあげながら椿の隣に立ち、じっと椿の横顔を見つめた。
「あいつ、信じらんない」
「あいつって?」
「転校生の」
「あ、えーっと、影井くん…?だっけ」
「そ、あいつ私になんて言ってきたと思う?」
「なんて言ったの?」
「処女?って」
「わー……それまたド直球に言われたね」
椿は眉間に皺を寄せて火照った顔を手で冷ましながら赤左に話した。
赤左は「あははっ」と眉を下げて笑いながらも「思春期の男子は困るよね」と言い、必死に隣で怒っている椿をなだめる。
少しして感情的になり、赤左に迷惑かけてしまったことに気付いた椿は何度もごめんと謝り、赤左は全然気にしてないよと謝る椿を止め、剣道場へと戻って行った。
椿は長く息を吐き、戻る前に剣道場で部員達と練習する赤左を覗き、教室へと戻った。
「華くんは彼女とかいるのー?」
「どうやと思う?あんたが彼女になってもええんやで」
「ちょっとー!華くん私は?」
教室に戻ると早めに部活動が終わった生徒達や、所属していない生徒が教室におり、影井の席を女子生徒複数人が取り囲んでいた。
椿は何食わぬ顔で自分の席に座り、少し冷たくなったイヤホンを耳につけて音楽を流せば机に伏せた。
朝早く起き過ぎたせいか、椿は机に伏せると少しだけ寝てしまっていたようで。
目をゆっくり開けるとホームルームが始まっており、身体を起こしてイヤホンを外し、焦りつつある心臓を落ち着かせて目を擦る。
幸い周りの座高の高さのお陰で怒られる事を逃れた椿。そんな椿を見ていた影井は、平均よりも少し重さのあるボールペンのペン先を机に軽く打ち、首を回した椿と目が合えば表情は変えず目を合わせ続けた。
椿は少し睨みを利かし、黒板の方に顔を向かせた。
「なんで華くんは転校してきたの?」
三時間目も終わり、あと一時間でお昼ご飯の時間となっていた時、一人の生徒が影井に問い掛けた。
三年生の大事な時期にわざわざ転校だなんて、確かに少し不思議に感じる。
黒板消しで黒板を綺麗にしながら椿は耳を澄ませてその話を聞いている。
「んー、まあ、色々あるんよ」
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カメリアの涙雲 源 慶 @huyu11224
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