第4話

皆の前ではあんなに笑顔を見せてワイワイと騒いでいたのに、と思った椿は



「なんなの」



と一人呟き


教室に戻って鞄を肩に掛ければモヤモヤした気持ちを抱きながら下校した。





____






「……早いんだね」



早く目が覚めた椿はそのままいつもよりも三十分早く登校し、誰もいない教室で音楽でも聴こうと登校中からイヤホンを耳に付けていた。



誰もいない道に、まだほんの少し冷たい風に当たりながら登校できた椿はいつもよりも気分が高まっていた。



朝練を始めようとしている部活動生を見ながら昇降口に入り、階段を上り、開いている教室に入ると、そこには席に座って風に当たりながら本を読む影井の姿が。




椿は少し驚いた表情を浮かばせながら、イヤホンを耳から外し、声をかけた。



「……」



影井は集中しているのか、はたまた意図的に無視しているのか分からないが言葉は返ってこなかった。



椿はまた昨日と同じ気持ちが湧いてきたが、しっかり抑えて自分の席につき、左耳にだけイヤホンを付けて止めた曲を再開させた。



その時、ガタッと椅子を引く音が聞こえて音の方へ顔を向けると、影井は椿の方へと本を持ちながら向かってきており


隣の席の椅子を私の真横に持ってくるとドカッと座って付けていない右耳のイヤホンをつけた。




頭の中がクエスチョンマークだらけの椿を差し置いて影井は平然とした顔で本を読み始める。



「影井くん」


「喋らんといて、今ええとこやろ、この曲の」



椿は左耳のイヤホンを外して恐る恐る影井に声をかけると、影井は本に目線をやりながらも応えた。



椿の好きなアーティスト曲のサビ部分にさしかかっており、確かに良い所だった為に椿はそれ以降喋らず、用もないのにひたすら携帯をいじり続けた。



あまり男子生徒と絡む事が少ない椿は、緊張のあまり心拍数が上がり体温が上がっている。



「なあ」



曲が流れ終わり無音の間となった時、影井が口を開いた。



「あんた、処女?」



イヤホンを外して表情を一切変えずに椿の目を見ながら問いかけた影井に、椿は一気に顔を赤らめて「きも!」と声を上げ、席から立ち、携帯とイヤホンを持って教室から走って逃げ去った。




残された影井は、逃げ去る椿の背中が見えなくなるまで見つめ、見えなくなると黒板の方を向いて「はあ」とため息をついた。



「玲?」

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