第3話

休み時間になると影井の席は囲まれ、記者会見のように沢山の質問を投げかけられている様子だ。



他クラスからも続々と来て、廊下の窓や扉から顔を出して見ている。



椿は廊下の壁に寄りかかって人集りが去るのを隣でいちごミルクを飲む赤左と待っていた。



「この時期に転校生とか珍しいね」


「うん、私もびっくりした」


「あ、もしかして今日校内案内する感じ?」


「放課後にしようかなって、昼休みはまたこんな感じっぽいし」


「そっかー、委員長も大変だね」



ずずずっと飲み終わった紙パックを潰し、ゴミ箱に入れたと同時にチャイムが鳴ると一斉に生徒達はクラスや自分の席に戻り、解放された椿は一息付きながら席へと着いた。



それから暫くして六時間目まで無事に授業は終わり、放課後となると部活動に行く生徒やバイトに行く生徒やそのまま帰宅する生徒と別れ


事前に校内案内を伝えられていた影井は一緒に帰ろうと誘われても断っていた。



椿はゆっくりと身支度をし、いつでも帰れるよう鞄を机の上に置いて教室を見渡すと


自分と影井の二人だけになっていた事に気付く。



「委員長やんな」


「あ、うん、よろしくね」


「うい、じゃ、校内案内よろしく」



この一日目に入った時だけ少し観察していた椿は、俗に言う子犬系男子だなと感じていた。



ズボンのポケットに手を入れ


「ここは理科室」


「ここは多目的室」


と案内しても返事のひとつもなく、窓の外を見ながら歩く影井を椿は横目で見ていた。



「ここは音楽室、今は吹奏楽が居るから入れないけど」


と立ち止まり、扉の間から中を覗きながら呟いた。



強豪校という訳では無いが、演奏しているところに出くわしたら思わず足を止めてしまう程の綺麗な音色を響かせてくれる。



影井はそっぽを向いていた顔を音楽室に向かせ、少し前かがみになって中を覗く。



「ええやん」



と影井の表情は見えなかったが、少し微笑んだ気がする。



一通り案内を済ませた椿は


「何か他に分からない事があったら私か、皆に聞けば分かるよ」


と話して、既にリュックを背負っていた影井と昇降口前で解散しようと歩き始めた。



「屋上とか、行けへんの」



背中越しに聞こえた影井の声に、椿は振り向く。



「屋上……確か出入り禁止だよ」



と言うと、影井は「ふーん」と階段を見て、数秒経つと「ほな」と言って昇降口に身を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る