第2話
「今日関西の方から転校生が来て、朝のホームルームで皆に紹介するつもりなんだ」
「この時期にですか?」
「何でもまぁ家庭の事情とかいうやつよ、あ、そんで放課後でも昼休みでも何でも良いから校内案内を頼みたいんだけど、今日時間ある?」
「大丈夫です」
部活動やバイトはしておらず、比較的時間のある椿は快く承諾した。
まだ登校していないというその転校生の事をほんの少し頭に入れ、教室に入り鞄を机の上に置けば、ベランダにある小さな花壇に水をやりに行く。
ジョウロを持ってベランダに出て、水をくもうと一歩出した時、ふと校庭の方に顔が向いた。
後三分程でチャイムが鳴るというのに、校門に一人、ズボンのポケットに手を入れて佇んでいる人の姿があった。
風が吹き、前髪がなびいて一歩引くと、その人は髪をかきあげて歩き始める。
明るい茶色の髪が瞳に残った。
「____ ま、連絡事項はこれで以上かなー、てことで、こっからは転校生を紹介しまーす」
「え!転校生!?」
「女!?男!?葵先生どっち!」
「落ち着け落ち着け、今から入ってくっから」
ホームルームが終わり、皆一旦一息ついた。
転校生という言葉に食い気味に反応する生徒達は今か今かと教室の扉に視線を送り続け、飯塚は「入っていいぞー」とドア越しに声を上げた。
ガラガラッと開いた扉、転校生が来ることは先に知っていたのにも関わらずやっぱり少し緊張する椿。
時が止まったみたいだ。
「大阪から来ました、影井 (かげい) 華 (はな) です、不束者ですがよろしくお願いします」
「結婚の時にする挨拶だわ」
彼だ。校門にいた人だ。
ほうぜいをついていた椿はハッとした表情をしながら、教壇に立ち、忽ち皆を笑顔にした彼を瞳の中心に捕らえた。
あの時見た明るい茶色の髪は目にかかりそうで、少し右の口角が左よりも上がっていて、垂れた目元にはホクロがある。
赤左よりも少し高く、細身で色白が目立つ。
耳を澄ますと「かっこいい」と教室のどこかから聞こえる。
「まあ3年のこの時期に転校っつうのも何かの縁だ、お前ら仲良くするように」
「不束者ですが」
「もう良いんだよ、あ、席はー……田中の隣空いてるな」
椿の席は廊下側の前から三番目
影井は窓側の後ろから二番目、窓側から二番目の席。
目の前に座る女子生徒はまるで一目惚れしたかのように影井の方を見ていた。
チラッと同じく影井を見ると、既に周りの男子生徒と仲良さげに話している。
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