このTCGアニメは死ぬほど販促要素が強い

木蛾

第17話 リュウヤ大ピンチ!?インセクトデッキの恐ろしさ!

「行け!ボブドッグ・スカーレット・クイーン!」


「ハハハッ、貧弱!」


 "ミステリック・サーガ"は今、世界中が熱狂しているカードゲームである!


 数多の種族をまとめ上げ、君だけの物語を紡げ!


「俺のインフィニット・ドラゴンの咆哮の前にひれ伏せ!インフィニティ・エンド!」


 新ブースターパック"ドラゴンズ・デイブレイク"!5月10日発売!


「この俺に敵うかな?」




 ◆




 なんてことないオタクの成人男性だった俺は、寝て覚めたらとある5歳の少年の体になっていた。


 少年の人格を殺してしまったようで罪悪感が湧いたが、戻る方法も分からないし、自分の意志で乗っ取ろうとしたわけでもない。元に戻る方法を模索しながらも、第二の人生を歩んでいくことにした。


 この少年はキッズらしくカードゲームに熱中していたようだ。




 それから9年後の今、俺はカードゲームの全国大会控室にいる。


 これだけ聞いたら、頑張ったじゃないかと思ってくれる人はいるだろう。もしかしたら、元は社会人だったくせに、カードゲームなんかの大会にマジになるなんてと嘲笑する人もいるのかもしれない。


 しかし、ここはそんな一般に想像されるような場所じゃない。




 モニターを眺める。準決勝第一試合が行われていた。自分が第二試合で勝てば、ここの勝者と対戦することになる。


 数万人の観客に囲まれた会場で、巨大なモンスター同士が激突している。ド派手すぎる光景だ。


 この世界は元々自分が生活していた世界と異なり、"ミステリック・サーガ"というカードゲームがすさまじい人気を誇っている。前世で言うと本場のサッカーの人気を倍にしたくらいある。


 自分は不死しなず財閥の御曹司であり、生まれたときから"ミスサガ"の英才教育を受けてきた。噂によれば"ママ"と言うより先に"サーガ"と言ったらしい。


 個人的に"ミスサガ"をガチること自体は満更でもない。トレーディングカードゲームは好きだったし、それで食っていけるし、この体には才能もあったらしい。


 だが、問題がひとつあった…。


『行け!ボブドッグ・スカーレット・クイーン!』


 準決勝で戦っている、知り合いの少年──多分主人公の出したカードを見る。


 そのカード何?決勝トーナメントからはデッキを変えられないけど、ここ3回戦で見たことない。今回の試合で使ったカードのカードパワーがあれば前の試合とかもっと簡単に決着つけられただろ。


 ──"ミスサガ"プレイヤーはみな、非常に"販売促進効果"を強く意識しているのだ。


 みんなエースカードは当然試合ごとに変わるし、それどころか同じ大会中なのにテーマが変わることなんてしょっちゅうだ。一番ひどい時は試合中にテーマが変わったことすら見たことがある。どんなデッキレシピしとんねん。


 不幸中の幸いは、俺はライバルポジションかつドラゴンデッキ使いと言うことで、基本エンジンはおおむね変わらず出すデカブツが変わっていくだけであるということだ。


「次は準決勝第二試合ですね、リュウヤ様。当然、勝つと信じております」


 隣から声がかけられた。メイド服を着たコテコテのメイドで、俺の付き人だ。


 俺は財閥のボンボンであるが、冷静に考えて中学生に同じ年齢のメイドをつけるとか頭おかしい。労働基準法的に児童労働じゃないのか?


 ちなみに当然彼女もプレイヤー…通称"テラー"である。例の主人公くん、緋上デンジと俺の前座として戦って負けたこともある。


「フッ…俺の配下たちが負けるわけがないさ」


 この口調は帝王学の影響である。ずっとこの口調だったため、慣れたし使っている。それに、こういうキャラの方がキッズ人気は出る。




 ◆



 会場に悠然と赴き試合の相手と相対する。背が高く細い、ヒョロっとした男だった。


「ケヒャヒャヒャッ!お坊ちゃまはオレっちの操る虫たちを触っても平気かなァ?キモくて泣いちゃったらごめんなァ?」


 そういう三下ムーブはキャラ人気の低下、ひいては使用カードの売り上げに響くからやめた方がいいぞ。


 …!天啓が来た。


『この俺の配下になりたいか?これで貴様もトップ"テラー"!一気に駆け上がれ!我が右腕にしてやろう…』


 ……このデッキのストラクチャーデッキが近々発売されるらしい。


 稀に、"ミスサガ"をやっていると、謎のCGに彩られたりなぜか一切覚えがないが自分が喋ったりしている空間の映像が頭に浮かんでくることがある。


 それは俺を『スポンサーの思し召し』と呼んでいる。


「おっ、俺の新しいドラゴン&バードデッキは、大型ユニットいっぱいで豪快だぜ!お前の小型ユニットなんぞ全て踏みつぶしてやる!」


「ケヒャヒャッ!足元を疎かにすることの恐ろしさを教えてやる!」


 気づいたことがあるが、販促を狙った行動をするたびに自分が活躍できる機会が多くなるし、新たに多くのカードを得る機会も増える。


 こういう宣言を入れなければ、しょっぱい店舗大会で負けたり一生同じカードしかパックから出なかったりする。死活問題なのだ。


 試合開始の宣言と同時に、デュエルボードを構える。


「サーガ・スタート!」




 ◆




 8ターン目、もう勝負も大詰めである。相手のライフは早い段階でかなりの速度で削りリードしたが、そこから相手の怒涛の展開に翻弄され、決め手に欠けてしまっている。《守護》の能力を持つユニットがうっとおしい。


「おいおいそんなもんかァ御曹司ィ!このままオレっちの虫たちの体の髄まで吸い尽くす《エナジードレインデュエル》の餌食になりなァ!」


 対戦相手の煽りは留まるところを知らない。会場から僅かにブーイングが発生するが、ここで俺に勝つならある意味人気出るかもな…。


 現状を一枚で打破するカードは入っていない。一応「ブラッド・ドラグーン」が引ければワンチャン作れなくもないが…延命にすぎない。もし引けたとしても、まず勝てないだろう。


 半ば諦めかけたところで、ターンの開始のドローをする。…ん!?


「えっあ…あァ!?」


 俺の入れた覚えのないカードが入っている!こんなんジャッジ呼ばれたら一発で失格処分やんけ!


 いや、待てよ…。


 落ち着いてテキストを吟味する。破壊した相手ユニットの数だけバーンダメージ…。この状況を…ひっくり返せるのでは?


 それにこのイラスト…どこかで見たことがある…。


 頭の中にCMが閃いた。次回ブースターパック、"ドラゴンズ・デイブレイク"のパッケージ絵…!このカードが書かれている…使えということか!


 少し対戦相手に悪い気もするが、視聴者からの人気も実力の一つである。恨むなら脚本家を恨め!


「召喚!えーっと…インフィニット・ドラゴン!」


「なッ、なんだそのカードは!?」


 周囲を見渡すが、止められる雰囲気は無いし、デュエルボードも問題なく反応してる…いける!


「これが俺とドラゴンの絆の力だ!インフィニット・ドラゴンの能力発動!登場時、タフネス5以下のユニットをすべて破壊し、この時破壊した相手ユニットの数の3倍のダメージを与える!」


「なんだと…!?オレっちの、愛する虫たちがァッ…」


「がら空きだ!プレイヤーをインフィニット・ドラゴンで攻撃!インフィニティ・エンド!」


 相手が吹き飛び、俺の勝利が宣言される。




 精神的に非常に疲れたが、インフィニット・ドラゴンにもご褒美が無ければ。ここは決めてあげなければならないだろう。カメラを指さし腹から叫ぶ。


「これがッ、インフィニット・ドラゴンの力ァ!みんな買ってね!」


 ついに次は主人公、緋上デンジとの対決だ。多分もうエースの販促が終わったから商品展開上負けるけど!


 


 


 


 


 


 


 


 


 これ以降、俺の出番は無かった。直接的すぎる販促はコンプライアンス的にNGだったらしい。

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