異星の王と光の蕾

青彩空

序章 邂逅


 僕の目の前で起こった出来事に、これは夢だと思わずにはいられなかった。


 僕はそもそも魔物と戦っていて、それはもう見事に苦戦していた。ここまでは良しとしよう。良くはないけど。

 そしたら突然空から隕石の如く何かが降ってきて、その衝撃波に周辺の木々や魔物は巻き込まれて全て吹き飛んだ。

 僕は偶然その範囲の外にいたから何とか助かった。けど、そういう問題じゃない。



 ……隕石!?なんで!?となるくらいには意味が分からなかった。



 この星の外の事は全然知らないしあまり興味もなかったけれど、隕石が突然降ってくるなんて誰が予想出来るんだろう。

何が起こったか確認すべくおそるおそる隕石を見に行ってみると、そこには隕石なんて欠片もなくて、代わりにあったのは一人の青年だった。


「……は?」 

 思わず口からそんな言葉が出た。


 目の前の青年がその言葉に反応してこちらを向いて、反射的に口を手で覆ってしまった。

 幸いにも青年は特に不快に思う様子もなく、こちらにゆっくり歩いてきて声が適切に届く距離まで来て止まると口を開いた。


「……あのさ。出会ったばかりの人にこんなことを聞くのは変だと思うんだけど、ここってどこでどういう状況なの?知っている限りでいいから説明してくれると助かるんだけど……」


 首の横に手を添えながら青年は僕に説明を要求していた。

 僕は少々固まってしまったが、問われていたことを理解しほぼ反射的に返答した。

「……あ、わ、分かった」


 色々と状況は飲み込めないけど、意図的か無意識か、それでも助けられたことに変わりはない。


「ひ、ひとまずここら辺だと落ち着いて話も出来ないから、安全なところまで案内するよ。付いて来て。」


 その言葉に青年は黙りながらも頷き僕の後ろを歩き始めた。



 気まずい雰囲気を感じつつもずっと無言で歩き続けること5分。

 見慣れた村のベンチに座って隣に「座って良いよ」と言うと彼はゆっくりと座った。


 大体、なんで僕が喋らなきゃいけないみたいな感じになってるんだ。コミュ力皆無の僕に話題を求められても困る……


 そんな愚痴を浮かべつつも話を始める。自己紹介はコミュニケーションの基本だ。

「あ、一応自己紹介しとくね。僕はルミナス・スターダスト。冒険者をやってる。」


「俺は、ソリッド・メテオライト。ソリッドと呼んでくれ。」


「よ、よろしく……。」


 互いに自己紹介を終え、やや間を置いて僕は本来の目的を思い出すと、慌てながら説明を始める。


「そ、そういえばさっきここがどこでどういう状況かっていうのを知りたいって言ってたっけ!?」


「お、おう。そんなに慌てなくていいから、ゆっくり説明してくれ。」


 彼より僕の方が落ち着いていないのは単に僕が人見知りでコミュニケーションが苦手だからである。

 本当なら見た時点で逃げ出してしまおうかと考えるくらいにはあまり人付き合いに慣れていない。指摘されて身体が少し固まっているくらいには緊張している。

 あぁ、ここが地獄か……。そう思うくらいにはここから逃げ出してしまいたいくらいだ。


「ちょ、ちょっとごめん、深呼吸するから。スーッ…………ハーッ…………スーッ……ハーッ……」


 ソリッドが僕を見てやや呆れているのは分かりつつも、人見知りをすぐに克服出来ていたらこうなっていないのでもはや割り切ってこういう風に振る舞っている。

 ……どうにかしたいとは思っているけど、初対面の人を前にするとどうしても緊張してしまうのだ。


 何回か深く深呼吸をしてようやく思考がまとまってきた。

「ちょっとだけ落ち着いたから、多分、大丈夫。それと説明する前に教えてもらいたいんだけど、ソリッドは何処から来たの?」


 質問をするとソリッドは難しい顔をしながら考え込んでしまった。


 そんな難しい質問だっけ……?

「あっ、答えにくいことなら別に話さなくても……」


「いや、答えにくいとかじゃなくあんまり覚えてなくて。思い出せないんだ。でもこの辺りの風景は見たことがないし、多分全然違う所から来たって考えてもらって大丈夫だと思う。」

 あんまり覚えてないって……それって頭をかなり強く打ったんじゃないの?

 大体、隕石と見間違えるくらい勢い付いてたのになんで五体満足で歩けてるんだろう……


不思議に思うのも無理はなかったが、ここで言うことではないので出かけていた言葉を飲み込むと咳払いをして説明を始める。


「わ、分かった。ここは、世界でもかなり稀な、迷宮がそこかしこに生まれる混沌の迷宮地区、ディセンドって呼ばれてる。」


 迷宮がそこかしこに生まれると言っても村の中にも突然とか見境がないわけではなく、人々が住むような場所には必ず簡易的ではあるが、結界が施されている。

この結界というのは、魔物の侵入を防ぐようなものではなく、あくまで迷宮の出現を結界の中にしないようにするためのものらしい。


せっかくだったら魔物も入れないようにしてくれればいいのにと思わなくはないが、そういう類の結界はかなり高度らしく、道具で維持し続けるものを用意するにはかなりお金がかかるとのことで断念したらしい。何とも生々しい話だ。


「で、この村は新人の冒険者が良く寝床として使ってる宿があることで有名な村、ランポーズ。冒険者以外は皆いい人だから、ソリッドも何か困ったら頼ると良いよ……って、どうしたの?」


 微妙な表情をしていたのでキリが良い所で話を中断してソリッドに問う。


「……あの、さ。説明してくれてる所悪いんだけど、さっきからちょいちょい出てる冒険者って?」


 説明忘れてた……そもそも初対面の人相手にこんな話すことになるとは思わないじゃん!僕はコミュ障なんだけど!?

内心逆ギレしつつ、手を合わせて頭を軽く下げる。


「冒険者は主にダンジョンの探索や攻略、人々からの依頼を請け負ったりする人達の事、かな。後は貴族とか国の王様から緊急の任務とかも冒険者が請け負ったりするね。」


「なるほどな。ルミナスも冒険者って言ってたけど、生活とかって大丈夫なのか?お金とか……」


 気になるのは仕方ないとは思うんだけど、普通そんなダイレクトに聞くか……?まあ、そんな稼いでるわけじゃないから別にいいけど。

「僕の場合はメインは簡単な依頼を受けて、そんなに難しくないダンジョンの探索とかをたまーにで上手いこと生活してるけど、実際の所はギリギリ、だね。ハハハ……」


 もっと楽に生活できる手段があればいいが、冒険者以外となると地味でつまらないし、冒険者である程度の暮らしをするためにはそれなりの特技か強さがないとなかなか難しい。世知辛いにも程がある。

 自嘲していると、そんなソリッドもどうやら考え事をしていたようで、数秒の間を置いてこちらを急に向いたソリッドが突然提案をしてきた。



「なあ、ちょっとダンジョンに行ってみてもいいか?」


「『……え?』」

 

 思っていたことが実際に口に出てしまった。まあ聞かれてまずいという言葉でもないから別に良いけど。


……ってそういうことじゃなくて。ダンジョンに、行く?僕とソリッドが?知識も碌にない、準備もしていない、武器も防具も大した物を持っていない僕達が?今から?……え?嘘、だよね?聞き間違いかな?


 …………いや、聞き間違いなんかじゃない。ソリッドはダンジョンに行くって言った。なんでとは思うけど、どうしよう僕が弱いのはさっきやんわり説明に混ぜたけど、理解してるかは分かんないし……。


 ひ、ひとまず、理由を聞いとかないと。

「ね、ねえ、なんで突然ダンジョンに行きたくなったの?」


「いや、今のルミナスの説明を聞いててちょっと興味が、と言う程ではないがどんな場所なのか見て見たくてな。」


「そ、それってやっぱり中に入る、ってことだよね?」

「ん?ああ。大丈夫。俺は一応素手でもそれなりに戦えるくらいには鍛錬はしてたからな。」


 素手でもそれなりに戦えるって……どれほどのものかは分からないけどそれが魔物に通用するとは思えない。というか、僕が無理に付き合う必要はないんじゃないか?


確かに案内はすると言ったが、ダンジョンの中にまで付き合う道理も義理もないはず……多分。


 ただ、案内をすると言ってしまった以上入口までは同行する必要がある。

 ……正直勘弁してほしいけど。

「言っておくけど僕、戦えないからね!?入口までは行くけど、それ以降は本当に知らないからね!?」


「大丈夫大丈夫、ちょっと中を見てちょっと魔物と戦うだけだから。というか付いて来てくれないと出口分からなくなるかもしれないし俺の後ろでいいから付いて来てくれよ。」


 なんて恐ろしいことを言うんだ。見ず知らずの人間に命を預けてくれって言ってるようなものじゃないか。

 ……そんな心の声は口が裂けても言えるはずもなく。

「わ、分かったよ……」

 自分の命を他人に無意識に賭けられても拒めない自分が嫌になってきた。


 そんなこんなで僕及び冒険者ですらないソリッドは下級冒険者用の迷宮である冒険者の迷宮にやってきた。

 ――本音を言うと、ソリッドに会ってなかったら今日は宿に帰るつもりだったんだけど……という愚痴を独白する。


 迷宮の入口には迷宮らしからぬ親切な壁掛けがあった。


 『~冒険者の迷宮~ 冒険者になりたての方は奥へお進みください』


 何だよこれ。大体ソリッドは冒険者になりたてどころかなってすらいないよ。


 帰りたくなってきた。


 数分後――

「……ここはダメだな」


 行きたいって言ったの、君だよね?と疑問に思いつつも問い返してみる。


「な、何がダメなの?」

「魔物が弱すぎる。」


 至極当然の答えが返ってきた。文字読めないのか、それとも見てすらなかったのか……真実は彼のみぞ知る。


「そりゃ、冒険者の迷宮は冒険者志望の為の腕試し用の人工的な迷宮だからね……迷宮主はいないし、出てくる魔物もそんなに強くないんだ」


「そうなのか、じゃあ、もうちょっと強い所に……」

 待て待て待て、それはもう案内対象外ですー。てか、僕の役目は迷宮への案内(2回以上やるとは言っていない)だけでしょうに……。


「え?そろそろ帰ろうと思ってたところなんだけど……強い所はそもそも入れないよ……ソリッドは冒険者じゃないし。」


「そうなのか、じゃあまず冒険者になるか!」



「……え?」


身の毛もよだつような発言に嫌な予感が止まらないルミナスだった。

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異星の王と光の蕾 青彩空 @aoi_sora507

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