第20話
ヘレンたちとのお茶会を終えるとアンジェリーナは自室に戻った。
マーガレットも戻っていった。寝室に入ると夜着に着替える。明日になったらまずは学園に行き、大学部に行かない旨を伝えないといけない。大学部はまだ、試験を受けたりはしていないから行かないとだけ言っておいたら何とかなるだろう。
アンジェリーナは予定を決めるとジェマを呼んだ。
「どうなさいました。姫様」
「ジェマ。明日は早速、スルティア学園に行くわ。そのつもりでいてちょうだい」
「はあ。わかりました」
それだけを伝えるとジェマに寝室を出てくれるように言った。アンジェリーナは今度こそ深い眠りに入ったのだった。
翌日、アンジェリーナは朝食を食べて身支度を済ませると付き添いにアンソニーを呼ぶように侍女に言いつけた。すぐにアンソニーはやってきた。
「アンジェ。どうしたんだい?俺を呼ぶとは何かあった?」
「ええ。今日はスルティア学園に行きますので。同行をお願いしたくて」
「学園に?」
「はい。大学部には入学できそうにないので。その旨を学園長や高等部の担任の先生に説明しに行くんです。卒業証書はいただいているので。大学部の事でややこしい手続きはないと思います」
アンジェリーナがそこまで説明するとアンソニーは成る程と頷いた。
「わかったよ。俺も高等部までは学園に通っていたからね。アンジェが行くんだったら同行する」
「そうしてもらえると有難いです。じゃあ、ジェマに伝えてきますね」
アンジェリーナは言葉通り、ジェマに学園に行く事を伝えにいった。戻るとアンソニーがまた昨日のように手を差し出した。それに手を重ねると二人して王宮の外へ歩き出したのだった。
その後、アンジェリーナはアンソニーと二人で馬車に乗り学園に向かった。外には護衛役の騎士が四人、馬に乗って随行している。御者も手慣れた者がしていた。
「アンジェリーナ。二人で馬車に乗るのは初めてだね」
「そうですね。ソニーと乗るのは初めてです」
「…それよりさ。アンジェリーナ」
「何ですか?ソニー」
「何で俺に対して敬語なの。昨日は違ったのに。よそよそしい感じで嫌なんだけど」
アンソニーが不満そうに言うとアンジェリーナは不思議そうにきょとんとした顔になった。
「え。そうでしたか?」
「ほら。今もそう。昨日みたいに普通にしゃべってよ。その方が良い」
「…わかった。ごめんなさい、緊張していたみたい」
アンジェリーナがため息をつくとアンソニーは苦笑した。
「まあ、まだこちらに戻って日がそんなに経ってないからね。少しずつでいいから直してくれるといいな」
「わかった。善処します」
アンジェリーナが頷くとアンソニーは頭を撫でてきた。結っている髪を乱さないように軽くだが。しばらくそのままでされていたアンジェリーナだった。
学園に着くと真っ先に職員室に急いだ。引き戸を開けて声をかけた。すると、他の教師が応対に出てきた。
「…おや、どうかしましたか?」
「あの。私、高等部に通っていたアンジェリーナ・ラ・ルクセンです。担任をなさっていたレフェリー先生はおられますか?」
「ああ。ルクセンの留学生のアンジェリーナさんでしたか。レフェリー先生だったらおられますよ。呼んできますね」
教師はアンジェリーナにそう言ってから職員室の中に戻って担任のレフェリー氏を呼びにいった。レフェリー氏は驚きながらもアンジェリーナの許にやってくる。
「アンジェリーナさん。春休みも終わったのに学園に来るとは。どうかしたんですか?」
レフェリー氏は男性にしては高めの声で聞いてきた。アンジェリーナは頭を働かせて背筋をぴんと伸ばした。
「はい。今日は先生にお話したい事があって参りました。お時間をとらせてはいただけないでしょうか?」
「…良いですよ。大事な事なんですね」
「そうです。いいでしょうか」
「わかりました。お話を聞きましょう。けど、ここでは目立ちますから。職員室の接客スペースに行きましょうか」
わかりましたと言ってレフェリー氏に付いていった。
アンジェリーナはレフェリー氏に勧められてソファに座る。アンソニーも同じように座った。
レフェリー氏も同様にするとアンソニーの姿を見た。
「…アンソニー殿下、お久しぶりですね」
「こちらこそお久しぶりです、レフェリー先生」
「ええ。それはそうとアンジェリーナさん。お話とは何ですか。聞いてもいいですか?」
「はい。その、私は先生に大学部に入学するのを薦められていましたけど。諸事情によりそれができなくなったんです。その事をお伝えしたくて今日は来たんです」
アンジェリーナが言うとレフェリー氏は大きく目を見開いた。
「そうだったんですか。それで学園まで来たんですね」
「はい。すみません、先生。せっかく、お薦めしてくださったのに」
「…いいえ。気にしていませんよ。何かあったらしいと言う事はアンドレイ殿下より聞いていますから。わかりました、これから学園長にも会うのですよね」
アンジェリーナがそうですと言うとレフェリー氏は立ち上がった。
「でしたら、僕が案内します。学園長にお話するんだったら僕もいた方がいいでしょうから」
「ありがとうございます」
では行きましょうとレフェリー氏に言われてアンジェリーナとアンソニーも付いていったのだった。
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