くまったくまった

白川津 中々

◾️

度重なる熊の処分報道に心を痛めた俺は捕獲した熊を保護するための山を購入し管理しようと計画したが、金が足りなかった。


山が八百万。それと管理費。山の生態系維持のために専門家も雇わないと……


苦慮の末、NPO法人を立ち上げクラファンによる資金調達を実施。同時に、熊の処分に反対する人間にコンタクトを取りカンパないし共同運営者を募るための合同説明会を開く事を決定。都内某所の会議室に三十名の人間を招待したのだった。



「というわけで今回、人里に降りた熊の保護を目的とした山の購入と管理を計画しております。事前調査によると管理を徹底すれば環境への影響も最小限に抑えられるとの事です。こちらにつきまして、皆様に活動へのご協力いただければと思い、今回説明会を開かせていただきました」


「……」


俺が話し終わると重い空気に満ちていた。何かやらかしたかと思い冷や汗が流れる。


「あの、ご意見のある方……」


溜まりかねてそう聞くと、方々から声が上がる。


「熊がさぁ。餌がないって街まで降りてきて捕まっちゃってさぁ。知らない土地に連れてかれるとかさぁ。可哀想じゃない」


「それに、金を払うのは国の役目だろう。日本に住んでる熊なんだから」


「だいたい上手くいくのか。綺麗事並べたってしょうがないよ」


批判。

聞こえてきたのは、ただそれだけだった。


結局この説明会で協力者は集まらなかったため、動物園、猟友会、自然保護団体などを周りなんとか資金と共同運営者を確保。保護山の運営開始までこぎつけた。山には今は、二頭の熊が招かれ平和に暮らしている。少しずつだが熊の命が守られていることに満足しつつ、俺は更なる拡大を決意していた。



ただ、問題が一つ。



「はい、もしもし」


鳴り響く電話の受話器を取ると開口一番「熊についなんだけどさぁ」との怒声が耳を突き刺した。


「おたくの活動、おかしいよ。熊を知らない土地へ移動させてさぁ。それで、人間が管理してるとかさぁ。熊にとってはありがた迷惑な話だよ。元の場所に返すべき」


「はぁ……」


週に何度か聞かされるこの手のクレーム。無益な時間である。

せめて問題解決に向けて代替案を提示してくれるなら有意義なのにと思いながら、俺はひたすら罵倒を浴び続けるのであった。


いやぁ、くまったくまった。

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