第16話 良いか、俺の半径3メートル以内———
「———良いか、俺の半径3メートル以内に入るんじゃ」
「ヒロト〜〜っ、ホントに会いたかったよ〜〜っ!!」
「寄るな、くっつくな、話を聞け!!」
「聞いてるわよ? 嫌も嫌も好きの内ってやつでしょ?」
「た、退避っ!!」
そう言って、俺の膝の上に向かい合う形で座ってキョトンと首を傾げる黒髪黒目の少女———セフィラを俺は全力で押し退け、ササッとレフェリカの後ろに隠れる。
「ちょっと! どうして私じゃなくてそこの泥棒魔族にひっつくのよ! 確かにそこの泥棒魔族に比べたら身体付きは貧相かもしれないけど、ヒロトは貧乳が好きって言ってたじゃない!」
「い、いいいい言ってねーし! そんな根も葉もないデマを流すなよ! ほら、お前が頭のおかしいこと言うから、レフェリカがちょっと信じちゃってるじゃん!!」
もちろん男として貧乳だって嫌いじゃないが、そんな性癖的なことを俺がコイツに告げるわけない。
そう自信を持って言える俺が否定すれば、身長こそ160くらいあるものの、レフェリカとは比べ物にならない
「言ってたもん! 魔王軍に入る前に、私がアルコール度数90%のお酒を飲ませたら『貧乳? 俺の好物だ』って言ってたもん!!」
「おまっ、おい、巫山戯んなよ!? 俺が酒あんま強くないって知ってて、どんな酒飲ませてんだ! その度数は酒豪でも1発KOだろ!」
「貧乳好きは否定はしないんですね、ヒロト様」
ジトーっとした目を、自らの後ろに隠れ、ビシッと固まった俺へと向けてくるレフェリカ。
だが、直ぐに小さくため息を吐くと。
「まぁですが、ヒロト様が貧乳より私めのような巨乳の方がお好きなのは把握済みです。因みにセフィラ様、貴方は貧乳なのではございません———」
しれっと恐ろしい大暴露をかましつつ、一息置いたレフェリカが、何処か憐れむような表情と目でセフィラを見ながら言った。
「———虚乳です」
「———殺す」
ノータイムでレフェリカに飛び掛かる、殺気マシマシのセフィラ。
だが、対するレフェリカは涼しい顔で続ける。
「乱暴な御方は、ヒロト様の好みではございませんよ?」
「っ!」
レフェリカの言葉に、空中で急停止するという無駄に高等な技術を見せつつ目を見開くセフィラだったが、どうやら思い当たる節があったらしく、相変わらずレフェリカを殺気混じりに睨んでいるものの、大人しく向かいの席に座った。
だが、ギュンと俺に視線を向けてくると。
「……どうして泥棒魔族と来たの? 私がいるじゃない。私がいるんだから、他のどの女も要らないでしょ? 貴方は私のモノで、私はもちろん貴方のモノ。だから、私が嫌だと言えば———」
「おい待てよ、いつから俺がお前のモノになった?」
「そうですよ、セフィラ様。寝言は寝て言え、という言葉を知りませんか? あ、ご存じないから、ヒロト様に嫌われていると気付いていない勘違いイタ女がご誕生なされたのですね」
「———ッッッ!!」
必要以上に煽りまくるレフェリカに、セフィラが魔力を漏らしながら飛び掛かってくるが、すかさず俺が2人の間に入る。
「おい、こんな狭い所でドンパチはやめろ! ———俺が巻き込まれて怪我するだろうが!!」
「清々しいほどに自己中心的な御発言ですね」
「この中で1番弱いのは俺だからね」
だってプリムより肉体強度が雑魚いんだってよ。
そんなの誰にも勝てないじゃん。
何て胸を張りつつ言えば……。
「「…………」」
「お、おい何だよ、2人揃ってその胡散臭げな目は……」
「いえ、何でもありません。ヒロト様がそう仰るのであれば、私はそれで良いと思いますよ」
「そうね〜、私はヒロトがどうであっても愛してるからね〜」
…………。
「よし、本題に入ろうか」
「そうしましょう」
「ちょっと待ってよ! どうして私の告白を無視するの!? ねぇヒロト、良い加減私を付き合って! そして結婚しようよ!! 私の全部……何でもあげるから!」
何事もなかったかのように話題を変える俺達の姿に、セフィラが俺の腕を引っ張ってギャーギャー言ってくるが。
「おい、なら付き合ったら、俺と幹部達はどうなる?」
「まずヒロトは死ぬまで私の近くに居てもらうでしょ? だって恋人だもんね。あ、一生離れない神話級の手錠でも掛けようかしら。それで、幹部の皆んなは……まぁ普通に殺すよ? だってヒロトの半径数キロ圏内に女が居たら危ないもん」
「今回は御縁がなかったということで……おい殴るな! お前が力を抜いてたとしても俺には十分痛いんだよ!」
「やだやだやだやだやだ! ならヒロトを殺して私も死ぬ! ヒロトを1万回刺して、その血を全部飲んだ後で私も死ぬから!!」
もうコイツが一体何を言っているのか考えたくもない。
死ぬなら1人で死んでもらいたい……寧ろ今殺しておいた方が、未来の魔王軍のためになる気がするのは俺だけじゃないはずだ。
まぁ流石に嫌いというだけで殺しはしないが。
「……セフィラ」
「ん? ———!?!?」
何かこれ以上話していたらヤバいと全細胞が訴えかけてきたので、手早く済ませて帰るべく、グッとムカつくほど綺麗な顔に顔を近付けつつ手を握り、目をアニメや漫画みたいにぐるぐる回すセフィラに言った。
「———お前の力がどうしても必要なんだ、手伝ってくれ」
「———ま、任しぇて!!」
大噛みしたセフィラは、何とも頼りなかった。
———セフィラ。
超絶ヤンデレ勘違い女でバイオレンスを地で行く頭のおかしい女でありながら、魔王軍に入る前、俺と共に勇者をしていた現地の勇者にして……歴代でも類を見ないほどに神に溺愛されている神巫女である。
魔王が逃げやがりました!〜残ったのは、人徳ないNo.2の俺とポンコツな幹部達〜 あおぞら@書籍9月3日発売 @Aozora-31
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