第15話 ……アイツの所に行くの、か? 嫌だなぁ……
「———これってさ、もしかしなくても先手を打たんと負けるくないか? どっかの馬鹿のせいで、もう先手は打たれてるわけだけど」
「負けますね、先手を打ったとしても勝てるという保証はありません。寧ろ負ける確率の方が遥かに高いと思われます」
兵士の報告に、聞きたくなかったと後悔に苛まれながら、結構詰んでいる現状に頭を抱える俺とレフェリカ。
「終わってる……マジでタイミング終わってるし詰んでるって……」
ただでさえ、今は魔王という最高の統率者が不在なせいで、ロクに魔王軍を指揮することもできないのだ。
そんな絶賛緊急事態中の魔王軍が、数でも特出する強者の強さでも負けている勇者軍に勝てるはずもない。
真正面で戦うなんざ以ての外だ。
「でも、先手を打つにしたって何をすれば良いんだよ……報告って王国に潜伏してた諜報員の奴のだろ?」
「そのようです。緊急時の使い捨て転移魔導具を使用したらしく、まだ出立して殆ど時間が経っていないか、はたまたまだ出立すらしていないかもしれません」
そうか、転移魔導具使ったのか。
でも確か、あの魔導具って最近使い過ぎてて在庫が殆ど無いとか魔王が言って……いや、深くは考えないでおこう。
他にもあの魔導具死ぬほど高いし貴重で、そうおいそれと買える代物じゃないとか何とか言っていた気がするが、きっと俺の記憶違いだろう。そうに違いない。
俺は早々に『転移魔導具で王都に突入すると同時に適当に暴れ回って、俺達に戦いを仕掛けることが出来なくさせる』という作戦を切り捨てる。更に勝率が下がった。
「うぉぉぉぉぉ……マジでどうしよう、ホントにどうしよう! そもそもの話、幹部が戦う前から1人抜けてるとかガチで意味分かんねーよ! あのクソアマは金を稼いでるんじゃなかったのか!?」
「……私めにはそう伝えられておりますが……」
苛立ちと共に頭をかきむしって吠える俺に、レフェリカが自信なさげな様子で尻すぼみに言葉を小さくしていく。
だが、今回ばかりはレフェリカを責めることは出来ない。
「クソッ、アイツが金稼いでるって聞いた時点で疑ってれば良かった……! 今までのアイツの行動を考えれば、そんなの新しい物を買うために抜け出してるって分かるのに!」
魔王が消えたという預言者もびっくりな事件に気を取られていたせいで、すっかり見落としてしまっていた。
こんなことなら、ドレイク辺境伯の依頼に行く前にとっ捕まえてくればよかった。
何て、今更手遅れなことを考えていると。
「……方法が、ないわけではありません」
横でレフェリカがポツリと呟いたのを、俺は聞き逃しはしなかった。
「お、おい、方法がないわけじゃないってマジか? 正直俺の頭じゃ『詰み』の言葉以外見つけられないんだけど。全方向駒に囲まれて王手取られた気分なんですけど」
「……はい。……ですが、それはヒロト様も既に考えついているはずです。もはや好き嫌いを言っている暇など、私達にはありません。———ヒロト様、貴方様が決めてください。全権は貴方様に委ねられているのですから」
そう言ってジッと俺を見つめてくるレフェリカ。
スッと目を逸らそうにも、逸らさせまいとレフェリカが目に輝きを灯す。
父親譲りの美しい銀髪がきらめき、相変わらず両親の良い所ばかりを詰め込んだ完璧な顔立ちをしている。
……そう言えばあの時もこんな感じだったなぁ……。
『———今、数多の選択肢が君の手の中にある。選択権は、君に委ねられている。君が決めるんだ、他でもない、君自身が』
あの時、魔王は俺にそう言った。
決して自分の意見を主張することなく、完全に俺に選択を任せた。
…………。
俺は数年前の人生の岐路たる場面を思い出したのち、小さくため息を吐きつつ、依然として俺を見つめるレフェリカに告げた。
「———行くぞ、セフィラの所に」
「———承知致しました、
「———……何年振りに来たんだ、ここ」
「恐らくヒロト様は2年と数ヶ月振りだと思われます。私はヒロト様の代わりに、定期的にこの場所に訪れていますが」
「その節は大変お世話になっております」
俺達が嫌々やって来たのは、王都の外れの自然豊かな森の中にポツンと位置する質素な木製の家———そう、魔王軍幹部の1人であるセフィラが住む家だ。
見た目は物凄く俺好みで良いのだが、如何せん住居者が俺の大の苦手な相手なので評価の天秤がマイナスに傾くのは必然だった。
「あぁぁぁマジで来ちゃったよ、何してんだよ、今直ぐ帰りたいよ」
「……それほどお離れになられる必要はあるのですか?」
そう、家から大分離れた場所にある木からひょっこりと顔を出した俺を、遠くからでも分かるくらい呆れを孕んだ瞳を向けてくるレフェリカ。
だが、レフェリカは分かっていない。
あの女の恐ろしさを分かっていれ———
「———何だか少し離れた所から、ヒロトの匂いがするわっ! もしかして私に会いに来てくれたのっ!?」
「ヒッ」
まるで逐一見ていたかの如きタイミングで、バンと玄関の扉を開け放って現れる黒髪黒目の美少女———セフィラの姿に、俺は小さく悲鳴を漏らす。
しかし直ぐに自分のミスに気付いて口を押さえるも……何故かしっかりセフィラと目が合ってしまった。
途端にぱぁーっと表情を明るくするセフィラに対して、俺はこれでもかと顔を真っ青にしながら引き攣らせると。
「———ヒロト〜〜えへへっ、やっと私に貴方の全てを捧げる気になってくれたのかしらっ!? ヒロトに色目を使う、あのクソアマをゆっくり斬り刻んで、ぐちゃぐちゃに潰してぶっ殺していいって言ってくれるのっ!?」
「これだから来たくなかったんだよ! あとレフェリカに手ぇ出したら一生口聞いてやらねーからな、このクソイカレ女が!!」
恐ろしいことを笑顔で宣いながら近付いてくるセフィラから逃れるべく、罵声を浴びせながらレフェリカの下へと駆け寄るのだった。
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