第14話 ここは普通終わる所では?

 ———レフェリカの魔法によって、俺の自室へと転移して戻ってきた俺達だったが、転移した後で、レフェリカが尋ねてくる。


「本当によろしいのですか? プリム様をドレイク辺境伯閣下の下に置いてきて」

「良いの良いの。どうせ自由にさせたらやらかすんだし。迷惑かけられるよりは、ドレイク辺境伯閣下の所で煮るなり焼くなりされてた方が圧倒的に安心だろ?」


 俺が自室のソファーに腰掛けつつ言えば、レフェリカも納得げに頷いた。


「……それもそうですね、流石です、ヒロト様」

「そうだろうそうだろう。もっと褒めてくれてもいいぞ!」

「流石です、ヒロト様。貴方様の御考えを越えるモノは、世界広しとは言え何処にもないでしょう。そう、貴方様が新たに御考えになられない限り」

 

 ヤバい、ウチのレフェリカ、ヨイショが上手すぎる。

 こんなこと言われたら、誰だって調子に乗ってしまうというものだ。


「フワーッハッハッハッ! 良いぞ良いぞ、もっとだもっと! もっと俺を褒めて褒めて褒め称え———」


 そこまで言ったところで、俺は横で炎をソファーに近付けるヴァイアさんの姿を視界に捉えた。

 お互いに目がバッチリ合い、数秒間見つめ合ったのち。


「……何してんの?」

「何か、だと? そんなの貴様のソファーとやらを燃やそうとしているに決まっておろう? 見て分からぬか? やはり貴様の目は節穴———」

「おいコラ、人のソファーを燃やそうとするんじゃない! これ、俺が特注で頼んだ最高級のソファーなんだぞ、俺の給料の3ヶ月分なんだからな!」


 俺がソファーを護るように手を広げてみるも、小馬鹿にしたような笑みと共に鼻で笑われる。


「フンッ、妾には関係のない話だ。ただ、貴様がこれを燃やすことによって少しでも大人しくなるのであれば……妾は喜んでこの部屋にある家具全てを燃やし尽くしてやろう」

「おい、何で被害に遭う物が増えてんだよ! こいつら全員関係ないだろ!」


 そう言ってみても一向に効果はなく、どんどん炎を近付けられるので、こちらも最終奥義を使うことにした。


「れ、レシアちゃーん、レシアちゃん助けてー! お母さんが俺のこといじめてくる!!」


 俺の部屋を物珍しげに見つめてウロチョロしていたレシアちゃんが、俺の言葉にタタタッと駆け寄ってくる。


「んぇ? どしたのー?」

「レシアちゃんのお母さんが俺のことをいじめてくるんだよ」

「なっ、き、貴様にプライドはないのか!?」

「そんなもんいるか。因みに俺の座右の銘は『何の価値にもならないプライドなんぞドブにでも捨ててしまえ』です」


 俺がキッパリと告げれば、ヴァイアさんが愕然とした様子で後ずさった。


「や、やはり、貴様にレシアを近付けさせてはならぬ……! 貴様の近くにいると、必ず悪い子に育ってしまう……!!」

「なんてこと言うんだよ。それだと、まるで俺が教育に悪い大人みたいじゃないか」

「そう言っているのだ」


 誠に遺憾である。

 俺はそこらの幹部や『力が全て! 力が全てを解決する!』とか思ってる魔族達よりよっぽど常識人だと自負しているのだが。


「貴様の周りの者がおかしいだけではないのか?」

「それはある。てかそれ以外ないわ」

「であろう? あのプリムとかいう魔族の女と同等以上が……」

「5人だよ、あんなのがあと5人もいるんだよ」


 げんなりとした様子で肩を落とす俺を、ヴァイアさんが同情の瞳で見つめてくる。


「……随分、苦労しているのだな……」

「……まぁね……さっきはホント悪かった。レシアちゃんの前でちょっと五月蝿くしすぎたし、教育に悪いことも口走ってたかもしれん」

「分かればよい。妾も少々カッとなりすぎたのでな、お愛顧というやつだ」


 そう言って仲直りをし、朗らかに笑い合う俺とヴァイアさんだったが、その穏やかな空気に水を差してくる物がいた。


「お待ち下さい、少々……いえ、大分納得のいかない部分があるのですが……」


 おかしい者の筆頭ではないものの、十分おかしい者に入るレフェリカだ。

 そんな彼女に、俺とヴァイアさんはノータイムで告げるのだった。


「「そんなものはない」」

「この方々、言い切りやがりました」


 レフェリカの弁明タイムがスタートした。









 ———レフェリカの弁明を左から右に聞き流しながら、お互いに幹部達がヤバいというので盛り上がりをみせたヴァイアさんとのお茶会は、レシアちゃんが眠ったことでお開きとなった。

 バルコニーでは、翼だけを生やしたヴァイアさんがすやすや眠るレシアちゃんを抱っこしており、部屋の中では、一切話を聞いてもらえなかったレフェリカが落ち込んで部屋の隅で蹲っている。


「ではな、ヒロト。今回のレシアの救出の手伝い、感謝しているぞ」

「あれは100:0でプリムが悪かったし感謝されるほどのことでもねーよ。部下のミスは上司が何とかしないといけないらしいからな。てか寧ろ、最近調子に乗ってるアイツにお灸を据えるいい機会ができて良かったわ。レシアちゃんにヒロトが『またいつでもおいで』って言ってたって言っておいてくれ」

「ああ、そう伝えておくとしよう」


 最初会った時より大分柔らかくなった笑みを浮かべているヴァイアさん。

 よほどレシアちゃんのことが好きらしい。


 何て微笑ましく思っていると、唐突に何かを思い出したかのような表情でヴァイアさんが言った。


「あぁそうだ。もしもの時は妾を呼べ、1度だけならば助けてやろう」

「本当にありがとうございます」


 ドラゴンの力が借りられるなんて百人力を越えて一万人力だ。

 魔王が不在の今、戦力は多いに越したことはない。

 勇者はどいつもこいつもチートキャラだから。


 俺が直角に腰を曲げてお礼をすると。


「フッ、最後までふざけた男よ」


 そう面白そうに笑って何処かに飛び去っていった。

 俺はその様子を見えなくなるまでずっと眺めていたのだった———。



 

「———ひ、ヒロト様! 今お時間よろしいでしょうか?」




 気持ち良く寝れるとベッドに向かおうとしていた所でノックをされたことにより、俺は反射的に言っていた。


「いや、今は非常によろしくない」

「で、ですが、これは緊急を要することでして……」

「———構いません、話しなさい」

「レフェリカ!?」


 意外にも言いくるめられそうだったのに、一番いい所であの迷惑命狙いが復活するもんだから、兵士もあっという間にペラペラと話し始めたのだった。






「———現在勇者軍が我が国に向けて進行しております。また…………マリー様が人族の街に行っていたのがバレて捕虜となっております」

「何してんねん、あのクソアマ」




 

 

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