第3話 「インテリ女子は結構強い」


第1回恋愛会議を終えた3日後。


この日、初めて”擬似恋愛もしくはドラマや漫画のようなデートを学校で再現しよう”作戦が行われる。


俺は期待で胸を膨らませる一方で、多少の不安も心のどこかにあった。


今朝、珍しく早起きしてしまったのはそのせいだろう。


妹に驚かれたのはショックだったが。


そんなに兄が嫌いか、妹よ。


いつも通りの準備をして、いつも通りに先に行った妹のあとを追いかけるように家を出る。


こんなに妹のことばかり考えているなんてシスコンなのでは、と疑われることがあるが、そんなことは無い。


歳が近いこともあって喧嘩する事は日常茶飯事だ。


大抵、俺が負けてアイスやらなんやらを奢る羽目になるのだが。


しばらく歩くと学校が姿を現す。


しかし、学校の近くにある信号に引っかかり、俺は少しばかりため息をついた。


この信号は待ち時間がとても長い。


しかも、この近くには他の横断歩道も無く、車通りも多い。


本当は使いたくないが否応なく使わざるを得ない。


そんな俺を見かねたのか、ある人物が声をかけてきた。


「あの…おはようございますです。三条君」


「二嵐…!お、おはよう」


その人物は、今日の主役であり、今日限りの俺の彼女である、二嵐すみかだった。


にこやかな表情で見つめてくる彼女がとても眩い。


今日の彼女はどこか新鮮味がある。


それもそのはず。いつもつけている伊達メガネがない。


目がいつもより大きく見え、いつも以上に幼い感じだ。


それに、いつものおさげ三つ編みでは無く、髪を全て下ろし、程よく整えた髪型になっていた。


幼さとどこか大人びた雰囲気が絶妙なバランスを作り出していたからか、今の彼女に深入りするのは危険だと本能が察知してしまった。


「あ、えっと…き、今日は」


「ご、ごめん…!俺、用事あったの忘れてたわ!ま、また放課後にな!」


「え、、?、あ、、」


彼女の言葉を遮り、逃げるようにその場を離れた。









「はぁ…ぁ…はぁ…ぁっ…はぁっ…」


「どうしたんだよ。随分お疲れのようだけど」


足りない酸素を無理矢理取り込むように、呼吸が乱れる俺に悠斗が話しかけてきた。


今朝のことは正直まだ話したくない。話したら話したらで面倒そうだし。


それに、上手く話せるかどうかも怪しい。今までの流れをまとめて話すのは困難だ。


俺は息を整えると、冗談っぽく話す。


「女の子に追いかけられてたんだよ。大変だわ、モテる男は」


「おいおい、冗談は顔だけにしとけよ。銃を持った九ノ宮先輩にでも追いかけられたんだろ?」


「それは昨日な。ってか、冗談は顔だけにって何だよ」


「まぁまぁ、それは良いとして。九ノ宮先輩じゃないなら八葉あたりか?あいつは性格的にもお前と合わなさそうだしな」


悠斗はいつも通りのトーンとテンションで話す。いつも通りという所にどこか安心感を覚える。


こういう日だからこそ、このような日常が良いものに見えてしまう、感じてしまうのだろう。


本当にありがたいものだ。


「そんな所だ。今日の委員会でちょっと色々しないといけないからな。…ま、八葉とは仲良くしたいとは思っているんだけどな、そう上手くいかないって感じだ」


「へぇ…。色々と終わったら聞かせてくれ。アイス奢ってやるからよ」


「分かった。高いやつな」


「100円までな」


カリカリ君ぐらいしか買えねぇだろ。さすがはケチ野郎。


「あ、委員会と言えば、聞きたかったことがあんだよ」


何かを思い出したかのように彼は問い掛ける。


「鷹佐って、ぶっちゃけた話、あの委員会の中で誰が1番良いと思ってんの?」


恐れていた質問が飛んできた。


めちゃくちゃ正直な話をすると、俺は年上派だ。


同級生や後輩にはない、あの大人の余裕のような雰囲気というか、年上にしか出せない色気のようなものが堪らなく好きなのだ。


ある意味、これは癖なのかもしれない。


これらの事を考慮するのであれば、四季先輩か九ノ宮先輩のどちらかになるだろう。


また、この2人を比較するとなると、やはり礼儀正しく、大人びた四季先輩に軍パイが上がる。


九ノ宮先輩は、まぁ…色々アレだしね?


とは言え、同級生の二嵐や八葉が恋愛対象にならない訳では無い。


あれ程の美少女達を好ましく思うなという方が難しい。


そういう意味では、委員会の全員を良いと思っているとなる訳だが…。


俺はしばらく考えてから口を開く。


「今のところは…二嵐かな。1番話してるし、結構気が合うところが多い」


委員会に入ってから結構時間が経ったとはいえ、まだまだ知らない事が多い。


唯一、色んな話をしたことがある二嵐が1歩リードしているような感じだ。


「二嵐さんね。結構インテリ系ってイメージだけど、実際はどうなの?」


「インテリ系だよ。でも、自分らしさを持ってる。ちゃんとした大人の女性って感じ」


「へぇ…。意外だな。ってか、ちゃんと仲良くしてんだな、鷹佐」


「嫌われたりした日にはもう二度とこの学校の土地には入れないだろうしな。主に九ノ宮先輩のせいで」


俺たちは、冗談まじりの話をしながら授業始まるのを待った。









放課後のチャイムが鳴り、多くの生徒が教室を後にする。


悠斗や俺も、例に漏れず、支度をして教室を出る。


「じゃ、また明日な」


「おう、九ノ宮先輩にしごかれてこい」


嫌味か、あいつは。


悠斗と別れてからしばらく歩くと、委員会の部屋の前に着いたが、ドアの前に女子生徒2人組が中を覗き込むようにしゃがんでいた。


「何してるですか。四季先輩に、八葉さん」


そう声をかけると、2人は驚いた表情で俺の方を振り向いたかと思いきや、またすぐに中を覗き込む。


誰かがいるのだろうかと不思議に思い、近づくが…。


「ダメ!鷹佐はまだ入っちゃダメ!」


高らかに、しかし、中には聞こえない声量で八葉は言った。


「なんで…?中で誰か着替えてるとか?」


もし、着替えているのだとしたら、2人がここにいる必要はないので、可能性としては低いか。


じゃあ、なんだ?


考え込む俺を見かねた四季先輩が一呼吸つくと、落ち着いた表情で口を開く。


「中には、すみかちゃんがいます。しかも、準備万全です。あと、私たちがここにいるのは今日の事を記録する必要があるからです」


予定されていた場所は空き教室だったはず。


「予定が変わったんですか?」


「昨夜にすみかちゃんから相談を受けまして、今朝、三条くんにも伝えると言ってましたが…聞いてませんでしたか?」


今朝…。あ、


俺は思い出した。今朝の一連の流れを。


「すみません…。色々あって聞けなかったです。申し訳ないです」


全て俺が悪かった。二嵐よ。すまん。


「ま、まぁ…結果としてはこのような状態ですし、問題無いですから」


慰めてくれる四季先輩の横では、「あんたバカなの!?」みたいな様子の八葉がいた。


「えっと…それで、俺はどのタイミングで中に入ると良いんですかね?」


「私たちの準備は終わってますし、後は三条くん次第ですね。いけるならいつでも良いですよ」


設定や、ある程度の段取りは頭に入れてきている。


最悪の場合はアドリブを上手くできるか、といったところだ。


「…あれ?そういえば、九ノ宮先輩はどうしたんですか?」


いつも突っかかってくる…じゃなかった、いつも大人しい九ノ宮先輩が見当たらない。


「あぁ…。梓沙なら風紀委員として仕事してますよ。何やらトラブルがあったらしくて。元々、今日は来ないと言ってましたし、仕方ありません。今日の内容は記録しますし、結果的には梓沙も知れますから」


仕事ならば仕方ないな。


そうして、俺はゆっくりと深呼吸をして、ドアノブを回し、二嵐のいる部屋の中に足を踏み入れた。


初めての擬似恋愛がデートが始まる。

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ヒロインは恋愛未経験、ゆえに銃をぶっ放す 霧盛 かえる @ryu428

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