第2話 「恋愛会議は難しい」


時は1週間前に遡る。


「はい。では、今週も会議始めますね。私たち、風紀委員会がより良いものになっていくのに必要なこと、と言えばズバリなんでしょうかっ!?」


いつになく元気な四季先輩が、聞いたことも無いような声量で俺達に問いかけてきた。


「はいっ!私たちが恋愛をもっと知ることですっ!」


目には目を、歯には歯を、元気には元気を。


と言わんばかりに俺の隣に座っていた女子生徒が立ち上がり、問いに答える。


「そうです!よく分かってますね。カレンちゃん」


そう呼ばれた彼女の名は八葉花蓮。


俺と同じ1年生で風紀委員会の庶務を担当している。


正直、俺はこいつが苦手だ。その理由は…


「何よ、ジロジロ見て。私たちが恋愛未経験なのが気に入らないの?」


「嫌、そうじゃない。俺だって未経験だしな」


「あっそ。じゃあこっち見ないでよ。変態」


そう、何を隠そう。彼女は恋愛未経験だが、男(主に俺)を毛嫌いしているのだ。これでは話ならない。


俺も最初はどうにか距離を縮めようとあらゆる手を尽くした。しかし、どれもこれも上手くはいかなかった。その結果がコレだ。


ちなみに、俺は八葉が苦手ではあるが嫌いという訳では無い。


身長が平均以上あるからか、スタイルが良く見えるし、同じ歳とは思えないような大人びた顔立ちをしている。


それに、長く伸びたポニーテールの髪がより、彼女の良さを際立たせていた。


「えっと…話を続けますね。私たちに足りないのは恋愛の知識では無く、経験だと私は思っています。ですが、本気の恋愛をしてしまうというのは本末転倒です」


四季先輩が話を続けることにしてくれたおかげで、八葉は大人しくなり、席に座り込んだ。


「ちょっといいか?」


「はい、大丈夫ですよ。どうぞ、梓沙」


発言の許可を貰った九ノ宮先輩が立ち上がる。


「先にはっきりさせておきたい事があってな。三条に聞きたい」


「はい、なんでしょうか?」


何だろうか。九ノ宮先輩からの質問はちょっと怖い。予想がつかないという意味で。


「お前はこの中の誰かと付き合っている、もしくは好いている者がいるなんて事は無いな?」


「は、はい…っ!付き合っている方はおろか、好いている方もおりませんっ…!」


「本当だな?」


九ノ宮先輩の顔が怖い。決して眉間にしわが出来ているなんてことではなく、無表情であるのにこの圧だ。


「四季先輩や二嵐さん、八葉さん。皆さんお綺麗なので自分には勿体ないとすら感じてます。もちろん、九ノ宮先輩も僕の手では負えない…じゃなくて、手すら届かない存在だと思ってます」


危なかった。思わず本音が漏れるところだった。いや、ちょっと漏れていたな。


「はぁ…お前は。まぁいい。くれぐれもお前からは間違えを起こすなよ?分かったな?」


「分かりました。俺は紳士ですのでご安心下さい」


九ノ宮先輩は呆れたような表情で席にポスッと腰を下ろした。


「梓沙はそう言ったけど、私は三条君なら本気の恋愛…してみたいかも…」


入れ替わるように四季先輩が小さな声で、しかし、全員に聞こえるようにつぶやく。


「先輩がその気なら、俺もやぶさかではありません」


と、カッコつけたは良いものの…


「……冗談なので、銃を下ろして下さいませんか?」


目の前で無表情のままライフルを向ける理不尽先輩こと、九ノ宮先輩。


それと、俺の隣で怪訝そうな表情を浮かべながらもハンドガンを突きつけている八葉。


今、俺は2人に命の手綱を握られているのだ。俺の未来は、輝かしい未来は彼女達の手の中なのだ。


「2人ともそこまでです。銃を下ろして下さい。時間も押してきましたし、話を続けますね」


四季先輩の一声で2人は銃を下ろした。まぁ、元を言えば先輩のせいではあるけど。そこは言及しないでおこう。


「私たちの恋愛経験を増やす良い方法はありませんか?一応皆さんには事前に伝えておきましたので、考えて貰ってはいると思いますが…」


確かに事前に考えてきてはいる。しかし、ちゃんとした解決策とは到底言えない。


俺は周りをじっと見渡すが、みんな何とも言えないような表情を浮かべている。


「私も考えてはいたんですが…生憎何も思い浮かば無くてですね…すみません」


委員長が頭を下げる必要はないと思うが。だが、リーダーと言うのはそういうものなのだろう。


静寂の中、1人の女子生徒が声をあげた。


「あの…すみに提案があるです」


自分をすみと名乗り、ですを語尾につける彼女は二嵐すみか。


俺や八葉と同じ1年生で、風紀委員会の庶務を担当している。


「すみかちゃん…!どうぞ、お願いします」


二嵐さんの提案…。一体どんなものなのだろう。


口数が少なく、お淑やかなイメージが強い彼女の恋愛に関する提案と聞けば、気になるに決まっている。


「は、はい。私の提案は、擬似恋愛を体験してみるということです。もっと言えば、ドラマとか漫画とかでよく見る体験をこの学校で再現してみるんです」


「なるほど…。擬似恋愛ですか…。確かに再現をするとなれば、1から恋愛の場を作る必要はないですからね。とても良い案だと思います」


四季先輩にはとても好印象だったらしい。


正直な所、俺もこの案は良いと思っている。あくまで擬似恋愛という所がみそだ。誰かの恋愛を再現する事でリアリティさを感じることが出来るのは良いポイントだ。


「うん。私も良いと思う。男役は三条で良いのか?」


「今更知らない男の人を用意するのも大変ですし、皆さんが嫌でなければ彼に頼もうと思っています」


「私は構わないぞ」


九ノ宮先輩は納得したような表情で1年生の女子達を見つめる。


「す、すみは三条君が良いです…ぅぅ」


二嵐さんは恥ずかしかったのか、顔を赤らめて縮こまってしまった。とても、可愛いらしい。


「私も反対はしないです。彼しかいないので」


一方で、八葉の方は相手が俺で嫌そうだ。まぁ、分かっていたが。


「では、中身をもう少し吟味してから学校の方に申請しておきます。学校内を使うともなれば、申請はしておいて損はないでしょうし」


しばらく話は続き、内容をまとめあげた。


内容はこうだ。


まず、題名は”擬似恋愛もしくはドラマや漫画のようなデートを学校で再現しよう”というもの。


内容は、よくある恋愛シーンなどを再現したり、1歩進んでデートを再現してみたりする、である。


例をあげれば、教室でのワンシーンを再現したり、部活恋愛を再現したり、時にはちょっとしたデートのようなものを再現したりなどだ。


デートの定義は不明だ。なんせ、俺たちは恋愛未経験なのだから。


兎にも角にも、内容はまとめあげられた。あとは、承認してもらえることを祈るしかない。


話し合いが終わり、各々が帰る支度を始める。


そんな中、俺は二嵐に声をかけた。


「二嵐さん。ちょっといいかな?」


「えっと…どうしたのです?」


彼女は困惑したような様子でこちらを伺っている。


「そんなに警戒しなくてもいいよ。今日の案がとても良かったからさ、それを伝えようかなって」


「それは…ありがとうございますです」


彼女は微笑みながらお辞儀をする。


「気楽に話してくれると嬉しいからさ。固くならずにね」


「分かりましたです。これからよろしくです!」


俺たちは他愛ない話をしながらそのまま帰路についた。


これが1週間前の話だ。


時は戻って現在。


学校の承認もおりたということで、俺たちは早速、擬似恋愛をすることになったが、ある問題が生まれた。


”誰が最初にどんな恋愛をするのか”


そんな一見、問題にもならなさそうな問題が生まれてしまった。


そんなこんなで、今第1回作戦会議が行われようとしていたのだった。

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ヒロインは恋愛未経験、ゆえに銃をぶっ放す 霧盛 かえる @ryu428

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