第1話 「風紀委員会と先輩と同級生」


「充光高等学校」


日本でトップクラスの名門学園として知られている。西東京に位置し、多くの銃特者と呼ばれる優秀な卒業生を排出している。


カリキュラムも学校独自のものとなっており、退学者も少なくない。それでも、手厚い支援などがあるため、この学校を目指す学生も多い。


銃が世界の中心になったのはもう10年も前の事だ。


突如として世界から核兵器や戦争で使われていた軍事兵器が全て消え去った。それらを再現しようとしたが、何故か再現する事が出来なかった。そんな中、1人の研究者がある物を開発した。


それが「銃」であった。


しかし、出来た銃は殺傷力のないものだった。それから、世界中で改良が重ねられてきたが未だに殺傷力のある物は出来ていない。


編入初日に理不尽先輩もとい九ノ宮先輩に撃たれたが、先輩の使っていた銃はコルクの弾を弱い威力で放つもので、長距離型のものだった。その為、ちょっと痛いだけで済んだ。


「お兄ぃ。私先に行くけどいい?」


妹の夏向かなたが真新しい制服姿で俺の前に立ち、そう問いかける。


「お、もう時間か。俺もすぐ出るわ」


「えぇ…お兄ぃと一緒に登校とか嫌なんですけど」


相変わらずつれない妹だな。


俺は朝ごはんの食器を洗い終えると荷物を持って、妹のいる玄関へ向かう。


「お待たせ…って先に行ったのか」


編入してから既に2週間が経っていた。未だに、妹と一緒に登校したことはない。正直、結構悲しい。


学校に着くと、玄関の前に見知った顔があった。またか、と思いながらその人物に近づき声をかける。


「おはようございます。九ノ宮先輩。今日もお元気そうでなりよりです」


「おはよう。三条。相変わらず嘘をつくのが好きなんだな。仕方ない、私がその性格を叩き治してやる」


相変わらずなのは先輩の方だが、そんな事を言ってしまえば発砲されるのは目に見えている。もっと砕いた感じで言うしかない。


「直すべきは先輩の性格の方かと思います。…あ」


思わず本音が出てしまった。これは発砲じゃ済まないのでは…。ふと先輩の方に目をやる。


「…なるほど。1度死んだら直るかもな、貴様は」


ツンとした目がいつもより怖く感じるのはきっと気の所為ではない。それに少し上がっている口角に恐怖を抱くのは初めての体験だ。


「今のは冗談です。完璧で憧れる先輩ですよ。…なので、銃を頭に突きつけるのはやめてください」


「全部、嘘なんだろ?そうなんだろ?そうなんだな。よし、ぶっ放す!」


撃つんじゃなくてぶっ放すは本当に死んじゃう。


「梓沙。そこまでにしてあげて、ね?」


この地獄の中に1人の天使が救いの手を差し伸べてくれた。


「ここ…。ちっ。今回は許してやる」


「ぐへ…っ。あ、ありがとうございます、四季先輩」


理不尽の手から解放された俺は、乱れた服を直しながら助けてくれた四季先輩にお礼をする。


「いえいえ。とは言え、三条くんも梓沙を揶揄うのは程々にして差し上げてくださいね」


「分かりました!肝に銘じときます!」


「私の時とはえらい態度の違いじゃないか。三条?」


自分とは違う態度に納得のいかない様子の九ノ宮先輩。だが、常に助けてくれる可愛らしい先輩と常に銃をぶっ放してくる先輩とでは態度が違っても致し方ない。


「そんな事ないと思います。ところで何か用でもあったんですか?四季先輩」


毎朝のように玄関で俺を待つ九ノ宮先輩はもはや恒例みたいなものだが、四季先輩がわざわざ玄関に来るなんて何か用があるに違いない。


「あ、そうなんです!先週お話していた例の件なんですが、生徒会から承認がおりたんです!」


「やっと承認されたのか。生徒会側はかなり愚痴を言っていたように見えたが…」


「そこは私が上手く交渉しました」


ふふんと言わんばかりに胸を張る先輩。


その姿に興奮…ではなく、ドキッとしてしまった。隣にいるもう1人の先輩の目付きにもドキッとしてしまったが…。


「流石ですね、四季先輩。あの例の件が通るとは思ってなかったのでびっくりです」


「ですよね!本当によかったです。詳しい話は今日の放課後にしますので、とりあえず中に入りましょうか。時間になりますし」


四季先輩の指示に従い、俺たちはそれぞれのクラスへ向かった。


その日の昼休み。


俺は妹の作ってくれた弁当を机の上に取り出し、蓋を開ける。中には手作りのおかずが色とりどりに詰められていた。


「相変わらず美味しそうな弁当してんな。これも妹ちゃんの手作りなんだろ?」


そう声をかけてきたのは、友人の蒲田悠斗かまだゆうと。顔はそこそこ整っていて、勉強も運動も出来る文武両道の男。女子からの人気も高いが、長い付き合いの彼女がいるのでその辺は色々と堅い。


「当たり前だ。俺は妹の美味しい美味しい料理で体のほとんどが出来てんだ。妹が居なかったら、俺は既に死んでいる」


「大袈裟だな…って思ったが、シスコンのお前なら本当に死んじゃいそうだな」


「褒めるなよ、照れるだろ」


「褒めてないから。そう言えば、風紀委員の方はどうなんだ?」


悠斗は購買で買ってきたであろう菓子パンを片手に俺の前の席に座り込む。


「風紀委員か。特に何かあった訳でもないしな。恋愛相談も今のとこ来てないし」


大体くる相談内容は、どうでもいいような話ばかりで、別に相談なんかしなくても良いようなものも多い。そんなこんなで、ここ2週間は暇に暇を持て余していたというのが風紀委員会の現状だ。


「鷹佐も大変だよな。恋愛未経験なのはお前もなのに、恋愛の事を教えて欲しいって」


「まぁな。正直なとこ、恋愛相談なんか持ってこられたら何も出来なさそうなんだよな」


恋愛未経験のグループに恋愛未経験のやつが入っても何も変わらない。0に0を足しても0なのと同じだ。


「だろうな。でも、委員会のメンバー、可愛い子ばっかなんだろ?羨ましいぜ」


「見た目はそうだな。可愛い人が多いな。というか、全員可愛いと思う」


これはお世辞ではない。本音だ。見た目だけは本当に可愛いのだ。


「お嬢様の四季先輩に、密かにファンクラブがある九ノ宮先輩。それに1年の三大美女の1人である八葉花蓮。同じく1年の天才少女、二嵐すみかときたもんだ」


「すげぇ、役揃いだよな。漫画とかアニメとかなら、全員ヒロイン候補だわ」


もちろん、それは漫画やアニメの中の世界での話。残念ながら現実はそうでは無い。


「そんな彼女たちと一緒に活動できるなんてずるいぜ。風紀委員会なんて入ろうと思って入れるもんじゃないしな」


悠斗の言う通り、この学校で委員会に入るにはその委員会のメンバー全員から承認してもらう事が絶対条件になっている。その為、委員会に入るのはとても難しいのである。ちなみに委員会への参加は強制されていない。


「まぁな。つーか、お前も1年の三大美女である海原沙月うなばらさつきと付き合ってんだからいいだろ」


散々俺を羨ましがっていたこの男も、周りの男子からは疎まれるレベルの彼女持ちなのだ。


ちなみに俺も結構羨ましいと思っている。


「沙月は可愛いからな。可愛いは無敵なんだよ」


「はいはい、惚気はいいから。そろそろ昼休み終わるから元の席に戻れ」


俺は悠斗にそう促し、自分の席へと帰らせた。


その日の放課後、俺は荷物を持って風紀委員会の部屋へ向かっていた。その途中で見知った顔と偶然出会ったので声をかける。


「よ、二嵐じゃん。委員会の部屋に向かってるとこ?」


「あ、三条くん。こんにちはです。そうです、三条くんも向かってる感じです?」


語尾にですをつけるこの小さな女の子こそが、天才少女と呼ばれる二嵐ふたあらしすみかである。


茶色がかった髪をおさげ三つ編みにしているからか、年齢よりも幼く見えるのが彼女の特徴だ。

あと、レンズの入っていない丸メガネをファッションとしてつけているのがお気に入りらしい。


「うん。一緒に行こ」


「ですです」


俺たちは一緒に風紀委員の部屋に向かうことにした。


「そう言えばもう聞いたかもしれないけど、例の件が通ったんだって」


「そうなんですかです!?」


「うん。良かったな。あの件の発案者は二嵐だったもんな」


「嬉しいです…!本当に感無量です…」


嬉しさ全開の表情を浮かべる彼女があまりにも可愛すぎてニヤけそうだったので、俺は自分の太ももをキュッとつねった。


そうこうしているうちに、俺たちは部屋に辿り着く。ドアを開け、中に入るとメンバー全員が揃っていた。


「三条きました」


「二嵐もきましたです」


「2人とも来たね。じゃあ荷物置いたら席に着いて」


四季先輩の指示を聞き、自分の席に座る。


「全員揃ったので、今日の風紀委員会の活動を始めますね。早速ですが、先週みんなで話し合った例の件が承認されました。すみかちゃん、おめでとね」


「あ、ありがとうございますです!」


「うん、じゃあ例の件である、擬似恋愛もしくはデートを学校でやってみようの会議を行います」


俺にとって初の風紀委員の活動が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヒロインは恋愛未経験、ゆえに銃をぶっ放す 霧盛 かえる @ryu428

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画