ヒロインは恋愛未経験、ゆえに銃をぶっ放す
霧盛 かえる
エピローグ 編入と銃と風紀委員
夏の暑さがまだ残る9月頭。
編入の時期がこのタイミングになってしまったのは、父親の2度の転勤があったからだった。
昔から父親に振り回されるのは慣れていたので今更感はあるが、転校は未だに慣れないまま。
これ以上、転校するのは進路にも影響があるという事で俺はひとり暮らし、もとい妹と一緒に暮らすことになった。
そんな編入初日。
何故か、俺は頭に銃を突きつけられていた。
銃を突きつけている相手は、黒髪ロングでフリフリのリボンがついたカチューシャを身につけ、ツンとした目付きが妙にそそる女子生徒だ。
そんな彼女の姿に地雷系とまではいかないにしろ、ガーリー系のようなイメージが自然と思い浮かんでしまう。
「えっと…これは…」
「うるさい、喋るな。私の許可なく話すならばこの銃をぶっ放す。そもそも、お前は何者なんだ。うちの制服も着ないで校内に入り込んで。不審者か?不審者なんだろ?不審者なんだな。よし、撃つ。」
「ちょちょちょっ!ま、待って下さいよ!」
1人で話を進められて撃たれるのはさすがに嫌だ。撃たれても死ぬことは無いが、普通に痛いからな。痛いのは誰だって避けるものだろう。
あと、俺は不審者じゃない。
「……私の許可なく話したな?」
「許可を貰う前に撃たれそうだったので」
「ようやく認めたか。よし、撃つ」
「まてまてまてまて!とりあえず一旦話し合おうっ!」
躊躇いなく金具を引こうとする彼女を制止させ、俺たちは近くのベンチで話すことに。
「俺は今日から編入する事になった1年の
「はぁ…君が先生の言っていた編入生か…。私は2年の九ノ
真面目な顔をしてとんでもない事を言うなこの先輩。人としてのモラルが欠如しているというか。
「あ、そうだ。三条」
「何ですか、先輩」
何か悪巧みを思い浮かべたような表情で、先輩がサッと立ち上がる。
その動きに思わず体が反応してしまう。
「さっき、私にタメ語だったな?いや、タメ語だったはずだ。という訳で撃つ」
「いや、ちょっ…!」
俺の制止も虚しく、金具は引かれた。
パァンという音と共に俺の意識はどこか遠くに消えていった。
目が覚めると、俺はゆっくりと体を起こす。
あの理不尽な先輩に撃たれた箇所がまだ痛い。
頭ではなく、左胸を撃たれたのだが、これが結構な衝撃だった。
本当に頭じゃなくて良かったとホッと胸を撫で下ろす。
「あら、やっと起きたのね。先生死んじゃったかと思ったわよ〜」
先生と名乗った女性は、このベッドを囲んでいたカーテンを開ける。この部屋に他の生徒は居ないようだった。
「ここは保健室ですか?」
「そうよ。九ノ宮さんがあなたをここまで運んでくれたのよ。なんだかんだ優しいのよね、あの子」
優しいも何も、あの人が勝手にやってその後始末も勝手にやっているだけなんだがな。
理不尽の上に身勝手とかいうフルコース。
もう関わりたくない。
「そうだったですね。そう言えば今は何時ですか?」
「さっき12時を過ぎたばかりよ。もう昼休みだから残りは午後の授業だけね」
昼休みというワードを聞いた俺の脳は困惑していた。
編入初日にもはや遅刻とも言えないような失態をおかしてしまったからだ。
「お、俺、編入生なんですけど、どうしたらいいですかね?」
こんなこと保険室の先生に聞くことではないが、今は仕方ない、緊急事態なのだ。
「うーん、とりあえずクラスの方に行こっか。先生のクラスだし、案内するよ」
「え、担任の先生ってあなたなんですか?」
そう言えば、勝手に保険室の先生だと決めつけていたな。とは言え、白衣着てるし、そう思っても仕方なくないか?
「そうだよ。私は
こんなゆったりとした人が担任だとは思ってもみなかった。まぁ厳しそうな先生じゃなかっただけ良かったと思おう。
昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
そんな中、俺は隣の席に座る女子に教科書を見せてもらっていた。
そもそも編入が決まったのがほんの少し前という事もあって、制服も無ければ、教科書も無いという一文無し状態だった。
クラスメイトの力を借りなければ、まともに授業1つも受けれない。
しかし、俺は自己紹介を終えたあと、すぐに席の周りのクラスメイトと色んな話をした。
そのおかげか、こうやって隣の女子に教科書を見せてもらえているという訳だ。
これが転勤族の力というものだ。これぐらいやれなければ、転校なんてやってられない。
午後の授業が終わると、放課後の時間がやってきた。
周りの生徒は部活やらなんやらで慌ただしい。
俺は特にやる事もないので、帰る支度をする。
今夜は何を作ろうかな、そんな事を考えていると教室の後ろのドアが大きな音を立てて開いた。
「三条ー!三条はいるかー!?」
聞き覚えのある声。
もう2度と聞きたくないその声の持ち主、それはー
「く、九ノ宮先輩…」
今朝、銃で俺を葬った先輩。
理不尽でありながら身勝手な先輩。
「お、いるじゃないか。元気そうでよかった。今ちょっと時間いいか?」
「おかげさまで元気です。この後予定があるので今日は失礼します」
早急にこの場を去らなければ。俺の勘がそう言っている。
まとめていた荷物を持とうとしたところで、先輩が腕を掴んできた。
それも、とんでもない力で。
「ちょっとだけでいいんだ、な?いいだろ?いいよな?よし、行こう」
相変わらずの理不尽さで逃げる隙も与えてくれなかった。俺は諦めて、先輩に着いていくことにした。
しばらく歩くと、「風紀委員会」と書かれた掛け軸のかかった大きなドアの前に着いた。
「着いたぞ。ここだ」
「風紀委員会…ですか?なんでこんな場所に俺を…」
「それは後で説明するから。とりあえず入るぞ」
ギィィとドアが開き、俺は先輩に続いて中に入る。中には3人の生徒が丸い机を囲うように座って、こちらをじっと見つめていた。
「連れてきたぞ。1年の三条鷹佐だ。」
九ノ宮先輩はそう言って近くにあった椅子に座り込む。
「ありがと。梓沙ちゃん」
そう言葉にしたのは真ん中に座る、金に近い明るい色のハーフツインテールをした女子生徒だ。
ツインテールの付け根の部分に赤いリボンをつけているのが特徴的だ。
「私は
九ノ宮先輩とは正反対な言葉遣いに少し戸惑う。
「合ってます。それで、俺に何か用ですか?」
「そうですね。三条さんに頼み事があるんです」
「頼み事ですか?」
編入したばかりの俺に出来ることなんて限られているはずだが。
「はい。私たちが所属するこの風紀委員会は風紀、特に銃に関する風紀を取り締まる活動を主にしてきました。正式名称は銃等風紀委員会なんて言われています。しかし、私たちの活動はそれだけではないのです。生徒たちの悩みであったり、相談なども受けているんです。」
そこで四季先輩は話をきって、ゆっくりと立ち上がる。
「その…悩みや相談の部分で三条さんの力が必要なんです」
「悩みや相談ですか。内容はどういったものですか?」
「その……恋愛ものです…」
「え?恋愛もの?」
小さく頷く四季先輩。そんな動作すら可愛い。
「恋愛の相談が多くてですね。私たちはみんな、恋愛未経験なんです。ですから、ちゃんとした解決策を出せないという訳です」
「恋愛…未経験…」
とはいえ、俺も恋愛なんかした事ない。
いつどこに行くか分からないのに恋愛なんて出来ない。
「俺も恋愛した事ないので難しいかと…」
丁重にお断りしようとするが。
「お願いします!私たちには三条くんが必要なんです!」
四季先輩が強く俺の手を握る。その強さから本気なんだと分かる。
「私たちに恋愛を教えてください」
「わ、わかりました…」
編入初日。
俺の銃と恋の物語が始まってしまった。
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