何人だっていい

Gura

人間10%OFF!

ある日、地球の外にて。


「ん?タコがおらんぞ!蛸はどこじゃあ!」


そう叫んだのは、地球の海に生息する軟体動物『蛸』。地球のそれと比べると少し大きいが、どの角度から見ても蛸である。


「船長!見当たらないとは、どういうことですか!?二億年前に我々の同族を派遣したはずでは?」

「ううむ……分からん。我々ほどの高等生物がこんな辺鄙な惑星で絶滅する訳もあるまいが―――」


困惑を露わにする蛸だが、その周りの設備は人の技術を卓越している。地球周回軌道に乗る船の窓から、船長が望遠鏡を触手に持ち地球を覗き込む。


「んむ、なんと!水の中におるぞ!?陸上は発展しておるのに、何のためにそんな場所におるんじゃ!」


再び叫ぶと同時進行に、偵察を続ける―――すると


「っ!?食われておる!二足歩行の動物に食われておるぞ!」

「そんなことがあり得ますか!?見間違えでは!?僕にも見せてください……うわぁ!」


衝撃的な光景を前に、二匹は動きを止める。数秒間の沈黙と静止を挟み、徐々に息遣いが荒くなる。


「ううっ……ゆ、許せん……我々の上に立つとは許せん!こうなったら、無理やりにでも食物連鎖を逆転させてやるぞい!」

「くっ、うう……やっちゃってください、船長!これ以上蛸としての尊厳を失いたくありません!」


二匹はそう言い放ち、八本の触手を手際よく動かし始める。複数のボタンやパネルを操作し終えると、最後にレバーを引く。


「今に見ておれ!ゆけっ生態系破壊ビーム!人類めっ、皆蛸化するんじゃー!」

「そ、それ、範囲広すぎせんか!?」

「あ、あれ?うわっ!間違えちゃった!」


気づくも虚しく、修正は間に合わなかった。


「て、撤収!」


寸分の処理がなされた後、船の先端から地球を覆う程の広さの光線が放れた。光速に乗ったそれは轟音を尾に突き進み、細かい粒子は反対面の土まですり抜ける。

突如の眩しさに人々は驚き、後日に届く音波から、根源の存在の近さに恐怖した。

しかし、その気づきは遅く、既に地球内の全生物に関するスキャンと遺伝子変更は遂行されていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


20XX年、生まれてくる人間の割合が10%減った。だが、これは人口が減ってしまったということではない。


その10%は人族ではなく、異種族に変わってしまったのだ。


光線を受けた日を境に、一定数の人々の遺伝子が書き換わった。人の命に別状は起きなかったが、社会には大混乱が巻き起こった。というのも、地球内に存在するあらゆる生物の特徴が、一部の新生児に現れ出してしまった。蛸化を始めとした、犬・猫の耳や尻尾、爬虫類の鱗の発現など、到底数えきれない変化が起きた。


そう、蛸の計画は失敗に終わったのである。







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何人だっていい Gura @caocaza

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