第32話 戦いを終えた後(sideイヴ)

 ──今回のこと。


 隠しダンジョンでヴィオラたちを救出するだけではなく、その奥に潜むカジミールの陰謀すら阻止した『不滅の翼』のメンバーたち。

 さらに、【創造神】カサンドラとロイクの力もあり、十体もの上級魔族との戦いに勝利した。


 その後、急いでロイクたちは街に戻り、道中でカサンドラから話を聞いた。


『最近、魔族が各地でよからぬ動きをしていることには気付いていた。王都の近くで、隠しダンジョンが発見されたことも知り、嫌な予感がして急行したというわけだ。無論、ロイクが隠しダンジョンに向かったことも把握した』


 しかし、まさか十体もの上級魔族が待ち構えていたとは予想していなかったがな──。

 と、カサンドラは言っていた。


 カサンドラはロイクたちに事の顛末を話し、後始末を終えた後、すぐに他の国に行ってしまった。

 いつかの再会を約束して──。



 ギルドに戻ったロイクたちの話もしよう。



 彼らは隠しダンジョンで起こったことを話し、皆から英雄として迎えられた。

 なにせ、一体の上級魔族が出現したとしても、国の滅亡の危機なのだ。

 当初は信じられていなかったが……カサンドラの説明もあり、ロイクたちの偉業が認められることになった。


 そして今回の騒ぎが落ち着き、一週間が経ち──。

 ロイクを含む、『不滅の翼』は冒険者ギルドに呼び出された。




 ◆ ◆


「ねえねえ、ロイクにだけ大事な話があるって……なんなのかな?」


 ギルド内。

 イヴは待合室で『不滅の翼』のメンバー、ヘレナとエミリアにそう話しかけた。


「まず間違いなく、ランクの昇格だろうな」


 ヘレナが答える。


 ──ギルドに到着してすぐ。

 ロイクだけ、ギルドマスターに呼ばれて、奥の部屋に向かった。

 なんでも、大事な話があるらしい。


 その間、イヴたちが話が終わるまで待たされることになった。

 そして現在というわけである。


「ですが、ただのランク昇格だけではないでしょう。それならば、わざわざギルドマスターから直々に呼び出されることもないでしょうから」


 エミリアが神妙な面持ちで、そう口を動かす。


(エミリアちゃんの言う通りだよね……)


 ランク昇格はめでたいことではあるが、特段珍しいことでもない。王都に在籍している冒険者は多い。誰かしらのランクが変動するのは日常茶飯事であった。


 なのに、ロイクは一人呼び出された。

 これが意味するのは……。


「ロイク、SSSランクに昇格するのかな」


 冒険者の最高峰。

 この国では未だかつて、SSSランクに到達した冒険者はカサンドラを含む──『空白の伝説』のメンバーだけだ。


 今回、ロイクは上級魔族を十体まとめて倒した。

 カサンドラやイヴたちの協力もあったとはいえ、彼女たちがやったのはあくまで、ロイクが武器を作るまでの時間稼ぎである。

 これでは、ロイクがほとんど一人で倒してしまったと言われても過言ではない。


「まさか、レア度11の武器を作り出すとはな……」

「あの、カサンドラさんですらレア度11の武具は、一度たりとも作ったことがないそうです」

「だけど、それをロイクはやってのけた……ってことだよね」


 まさに規格外。

 SSSランク昇格は当然。なんなら、ロイクのためにさらに上位のランクが作られる可能性もあった。


(ロイク、遠いところに行っちゃったな)


『不滅の翼』の中で、SSSランク冒険者が出ることは喜ばしいことである。


 だが、イヴたちは気付いていた。

 自分たちとロイクとでは、実力に差がありすぎるのだ。


 わたしたちではもう、ロイクの足を引っ張ることしか出来ない。

 もし、ロイクのSSSランク昇格が実現されれば、わざわざ『不滅の翼』のメンバーであり続ける必要はないだろう。


「まあ、そんな顔をするな。よかったではないか。私たちもロイクを見て、勉強になった。なんなら、ロイクほどの男が私たちに付き合ってくれたことを感謝するべきだ」

「そりゃそうなんだけどね……」


 だからといって、簡単に納得出来ないというのも事実であった。


 複雑な気持ちになっていると、奥からロイクが出てくる。


「ロイク!」


 イヴはその姿を確認するなり、すぐに彼に駆け寄った。


「おお! イヴ、ヘレナ、エミリア! 待っていてくれたのか。時間がかかって、すまなかったな」


 そう手を上げるロイクの表情は、晴れ晴れとしたものである。


(ああ……)


 それを見て、イヴたちは確信する。


(SSSランク昇格を告げられたんだ)


 一瞬暗い顔をしてしまいそうになるが、イヴはそれをおくびにも出さず、ロイクにこう問いかける。


「で……ギルドマスターの話ってなんなのだったかな?」

「うむ」


 ロイクは頷き、イヴの両肩に手を置く。

 答えなど分かりきっているのに、イヴは思わず息を呑んでしまった。


「聞いてくれ!」


 ロイクは嬉しそうに──。





「俺、Eランクに昇格したんだ! ようやくFランクから脱することが出来た!」

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