第17話 鍛冶師は買い物に出かける
あれから俺は、『不滅の翼』のみんなと一緒に、いくつか依頼を受けていった。
もちろん、全て成功。
そのおかげで随分とお金も貯まってきた。
そこで俺は『不滅の翼』の本拠地で、イヴにこう声をかけていた。
「イヴ、一緒に街まで出かけないか?」
するとイヴは何故だか、「え!?」と肩を震わせ、
「きゅ、急にどうしたのかな?」
と、急にそわそわしながら問い返してきた。
「もしかして嫌だったか?」
「そういう意味じゃないよ! ただ、ロイクからそんなことを言ってくるのは珍しいと思って……」
俺が話しかけてから、イヴは落ち着かない様子である。
なんでだ?
「ああ、そういうこと……ある程度、まとまった金が出来ただろ? いつまでも木の棒で戦っているわけにもいかないし、ここらで一つ愛用の武器を作ろうと思うんだ」
鍛冶の力さえあれば、俺はどんなものからでも武器を作り出すことが出来る。
しかしSランクを目指すとなったら、即席で武器を作るだけでは不十分。
今までも、イヴたちからは何度か武器を購入することを勧められてきた。
だが、中途半端な武器を買っても仕方がない。
安物買いの銭失いという言葉もあるしな。
そこで俺はまとまった金が手に入ったから、一気に購入し、それを鍛冶の素材に使おうと考えていたのだ。
「王都に出てから、まだ俺も日が浅い。この街について詳しくない。だからイヴ
「全然無理じゃないよ! 超暇! 街を案内……ってイヴたち?」
イヴが首を傾げる。
俺は一旦イヴから視線を外し、他のメンバーであるヘレナとエミリアにも顔を向けた。
「ヘレナ、エミリア、二人はどうだ? 今日の予定はなにかあるか?」
そう話しかける。
しかし。
「すみません。魅力的なご提案ですが、私はこれから外出しないといけず……どうしても外せないんです」
とエミリアは首を横に振り、
「ならば、私は留守を任されよう。まだケルのことを完全に信頼したわけではないからな。ケルを一匹にはさせてられない」
ヘレナもそう断った。
ケル──先日、俺たちがアルヴァの洞窟で見つけた魔妖精のケットシーのことである。
ケルは現在、窓際で横になって日向ぼっこをしている。
俺たちで預かるとなった時は、散々文句を垂れていたというのに、今ではすっかり馴染んでるものだ。
「隷属の首輪のこともあるし、別に大丈夫だと思うけどな? それに今までも四人で依頼を受けて、ここを留守にしたことはあっただろ?」
「念のためだ。それに……イヴの表情を見ていたら、とてもじゃないが、私がお邪魔は出来ないよ。最近は働きっぱなしだったし、二人で羽を伸ばしていくといい」
とヘレナは苦笑した。
「邪魔……? 訳の分からないことを言うな」
まあいいか。
「だったら、イヴ。二人っきりになるが、街の案内をしてもらえるか? 男と二人っきりが嫌なら、日を改めてもいいが」
「嫌じゃないよ! 行こ! ……デートのお誘いだと思ったけど、そういうことじゃなかったんだね。あっ、でもこれもデートと言えなくもないし……」
イヴは快く承諾してくれたが、後半はぶつぶつと呟きよく聞き取れなかった。
「早速行こうよ! 時間をたっぷりかけて、ロイクを案内したいし!」
「イヴ、お待ちください。そのままの服装で行くつもりですか?」
「へ?」
エミリアの問いに、イヴはきょとんとした表情になる。
「そうだけど……」
「いけません! せっかく、ロイクと二人っきりのお出かけなんですよ? いくらなんでも味気なさすぎます」
エミリアがなにを危惧しているかは分からないが、確かに今のイヴは素材採取や魔物の退治をしている、いつも通りの服である。
別に今のままでも十分可愛いが、それでは仕事のオンとオフが上手く切り替わらないということだろうか?
まあ、いつも通りの服は俺も同じだが。
「それもそうだね。でも、これ以外に自信のある服なんてないし……」
「よかったら、俺がイヴの服を作ろうか? 布もいくらか持っているし、日々の恩返しとして作らせてもらいたい」
「ロイクが!?」
イヴが驚く。
「ダメだったか?」
「ダメじゃないってば! うん。じゃあ……そうしてもらいたいな。ロイクからのプレゼントは、なんでも嬉しいよ」
「分かった。じゃあ少し待ってくれ」
俺は無限収納袋から素材を取り出し、イヴの服を作り始めた──。
少し時間が経過したのち。
イヴは俺が作った服に袖を通した。
「わあ! 可愛い!」
表情を明るくして、イヴはその場でクルリと回る。
現在、イヴは白色のワンピースを身に纏っている。
夏を思わせる涼しげな服で、それがイヴにマッチしていた。
「気に入ってくれて、よかったよ」
ほっと安堵の息を吐く。
「ほお……そういうイヴの姿を見るのも新鮮だな」
「イヴさん、とてもお似合いです」
ヘレナとエミリアにも好評である。
「ありがとっ! ロイクって、服を作るセンスもあったんだね!」
「デザインのセンス……については、あまり自信がなかったんだがな。それだけじゃないぞ?」
「え?」
イヴを目をクリクリさせる。
「そのワンピースには、ありとあらゆる魔法の耐性があるんだ。それでいて軽量化にも実現している。仮にデスベアの一撃にも、容易に耐えることが出来……」
「ちょ、ちょっと! 服っていうより、防具になってない? しかもかなりオーバースペックの!」
「まあそれも否めない」
なにせ、王都は人がいっぱいいる分、田舎に比べて治安が悪いと聞いたことがあるのだ。
街中でなにが起こるか分からない。
そう思っての配慮だったんだが、
「そうなんだあ。嬉しいけど……ちょっと思ってたのと違ってたかな。なんだか鎧を身に纏ってるみたい」
とイヴは腑に落ちない様子であった。
「す、すまない。なにか不快だったか? 防具性能はオマケみたいなもんなんだ。俺は純粋に、そういうワンピースがイヴに似合うと思った」
「似合う……わたしに?」
「もちろんだ。いつもイヴは元気にパーティーを引っ張ってくれる。だから、なんというか……そういう服を着ているイヴも、見てみたかったというか……」
今、俺は少し気持ち悪いことを言っているだろか?
不安が湧いてきたが。
「──そうなんだ! わたしって、ロイクからそう思われてたんだね! ありがと! ロイク、やっぱり好き!」
と笑顔で答えてくれた。
◆ ◆
そんなこんながあって。
俺はイヴと二人きりで、街の色々な武具屋を回っていた。
「こんなものか」
昼頃に差し掛かってきた頃、俺は足を止める。
「結構、買ったね」
「金なら持ってたからな。これもイヴたちが冒険者として、俺に手解きをしてくれたおかげだ。今日のこともあるし……いつもありがとな」
「お礼なんて必要ないよ! なんならわたしたちこそ、ロイクにはいつも助けてもらってばっかりだから!」
イヴは俺に気を遣わせないためだろうか、明るく答えた。
優しいなあ。
彼女と結婚する男は、さぞ幸せもんだろう。
家を出る前、『好き』と言われた気がするが、勘違いしてはいけない。
あれは『鍛冶師として好き』という意味で、特に深い理由はないのだろう。
勘違い男の末路は、いつも悲惨だと聞いている。彼女の言葉を真に受けて、勘違いしないようにしなければ……。
そう考えていた時だった。
「へ〜い、そこの美少女ちゃん。そんな男なんかより、オレらと一緒に遊ばな〜い?」
不意に後ろから声をかけられた。
……何事もなく終わってくれればよかったが、そうもいかないらしい。
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