第13話 鍛冶師はゴーレムを倒す
それから俺たちは、アルヴァの洞窟の中で鉱石を採取しまくった。
「これくらいで十分かな……?」
イヴたちに質問する。
素材採取を始めてから、既に一時間が経過しようとしている。
おかげで千個くらいは鉱石が集まったと思うが……これではまだ不十分だろうか。
「十分だよ」
「というか集めすぎだ」
「ロイクさんが楽しそうでしたから、止めませんでしたけどね」
イヴとヘレナ、エミリアから答えが返ってくる。
「そうか? 普通、素材採取って言ったら一万個は必要じゃないか? 素材も鉄や銅ばっかで、黄金やオリハルコンは見つからなかったし……」
「そんなに必要ないよ! 黄金もオリハルコンも、こんな洞窟にはないから!」
イヴが声を張り上げる。
「そもそも、依頼票にも書いてあったでしょ? 鉱石は十個だけ集めて、持ち帰ればよかったんだよ」
「……そういや、ちゃんと見てなかったな」
先入観というやつだ。
素材採取といったら、最低千個は必要。なんならこれでも足りない……と。
「まあなんにせよ、十分ならよかった。そろそろ王都に帰る──」
その時だった。
ゴゴゴゴ……!
地響きを上げ、洞窟全体が震え出した。
「地震!?」
咄嗟にイヴたちが身構える。
振動はなかなか収まらず、なんならどんどん大きくなっていくようだった。
地震にしてはおかしい気がするし、これは……?
「……! なにかが来ます!」
それに最初に気付いたのはエミリア。
俺も気配を察知しようとするが、確かに大きな魔力の反応が俺たちに接近していくのが分かった。
やがてすぐ隣の壁が崩壊し、爆発音が響き渡る。
「きゃっ!」
イヴが短い悲鳴を上げる。
俺たちは即座に距離を取り、崩壊した壁の方に視線を向けると、そこには異質な存在が現れていた。
『大きな音で目が覚めて、何事かと思ったが……人間か。ずいぶんと我の棲家を荒らしてくれたようだな』
そいつは人間の言葉を発していた。
一見すると、巨大な岩の塊である。
しかし全長はおよそ三メートルある。二足歩行をしているようで、人間のような形をしていた。
そいつは物々しい雰囲気で、俺たちを見下ろしていた。
「ゴーレム!」
ヘレナが声を上げる。
「ゴーレム……?」
「ああ! 周囲の岩が集合し、意思を持つ魔物の一種だ。国によってはゴーレムを魔導兵器として使っているところもある。種類によって違うが、危険度はS級──くっ! どうしてゴーレムがアルヴァの洞窟に!?」
ヘレナの顔と声には緊張感が滲んでいた。
それは他の二人も同じで、ゴーレムを前にして安易に動けずにいる。
『くくく……我に恐怖しておるな。良い気分じゃ。恐れよ』
表情こそ変わらないものの、ゴーレムの声からは絶対的な捕食者としての余裕を感じ取れた。
『貴様らの行い、万死に値する。我も最近では退屈しており、暴れ足りない。死ね──』
「よっと」
なんかごちゃごちゃ言っていたが、俺は跳躍し、ゴーレムの脳天にツルハシを叩き込んだ。
ドガーーーーーン!
大きな破裂音が鳴り、ゴーレムがバラバラになる。
「倒した!?」
「ああ……話が長かったからな。それになんか悪そうなヤツだったから……ダメだったか?」
「ダ、ダメってわけじゃないよ。でも、一発でゴーレムを倒して驚いているだけで!」
バラバラに散らばったゴーレムの破片を前にして、イヴだけではなく他の二人も唖然としている。
ふう……ちょっとはいいところを見せられたか。
さっさと帰って、ギルドに鉱石を提出し……。
『はあっ、はあっ……まだ我が話している途中だというのに、攻撃をしてくるな! 死ぬかと思ったぞ!』
そんな声が聞こえたかと思うと、バラバラになったゴーレムの破片が白く光りだす。
一体なにが──と身構えていると、ゴーレムの破片は一人でに集まり形を成していく。
あっという間に、完全復活してしまったのだ。
「む……バラバラにしただけじゃ、ゴーレムを倒せなかったのか?」
『ふはは! 人間の軟弱な力ごときでは、我を完全に殺せぬ! 何度でも復活してみせよう!』
高笑いするゴーレム。
ふむふむ……なるほど。自動修復機能を持った兵器と考えれば分かりやすいか。これはなかなか……。
「面白いな!」
「なにを面白がってるの! 来るよ!」
今度はゴーレムが間髪を入れずに、拳を振り落としてきた。
躱わすことには成功するが、先ほどまで俺がいた場所にでかいクレーターが出来ている。
一発でも当たれば、タダでは済みそうにない。ぺっちゃんこになり、死ぬのは俺たちの方になるだろう。
「いや……これは鍛冶師としての性分かな。面白い仕組みの武具や兵器を見ると、心が躍るんだ」
「楽しんでいる場合ではありません! ロイクさん、ゴーレムを倒す手段はないのですかっ!」
焦っているようなエミリア。
こうしている間にも、ゴーレムは猛攻を仕掛けてくる。
今のところ、なんとか避けられているが、それも時間の問題。いずれは俺たちの体力が尽き、ゴーレムの攻撃が命中するだろう。
俺一人だけなら逃げることも可能だが、イヴたちがいる。
彼女たちを置いて逃げることは、有り得なかった。
「そうだな……」
俺はゴーレムを観察しながら、こう続ける。
「ああいうのには、『核』のようなものが存在しているんだ。その核がゴーレムの自動修復機能を司っているわけだな」
「だったら、その核さえ壊すことが出来れば、この窮地を切り抜けられるのか!」
ヘレナが盾でゴーレムの攻撃を受け止めつつ、そう問う。
「簡単な話でもない。急所とも言える核が、目立ったところにあるとも考えにくいからな。だから……きっとヤツの核は体の中心。装甲をぶち抜き、同時に核ごと破壊する必要がある」
別々にやったところで、すぐにまた復活してしまうだろうからな。
ちっ……面倒な敵だ。
「ロイクの力でなんとかならないのか!」
「言っただろ? 俺はちょっと体力があるだけの鍛冶師だ……って。武器があれば別だが、今手持ちのものだけでは不可能だ」
「だったら、ここで死ぬしかないってこと……?」
恐る恐るイヴが問いかけてくる。
俺は彼女を安心させるように、ニカッと笑って。
「武器がなければ、作ればいいだけだ。幸い、ここまでの行動のおかげで、素材はたっぷりとあるしな」
現在、俺の無限収納袋の中には、およそ千個の鉄や銅、アメジストが入っている。
これらを使えば、ゴーレムの核ごと破壊させる武器を作ることが出来る。
「だが、そのためには時間が必要だ。一分……いや、三十秒だけヤツの気を俺から逸らしてもらうことは可能か?」
「うん! それくらいなら!」
「私たちの冒険者ランクを忘れたか? Aランクだ! その程度の仕事、きっちり果たしてみせよう!」
「ロイクさんが武器を完成させるまでの時間、稼いでみせます!」
俺の問いかけに、三人は力強く頷いた。
心強い。これが仲間と戦うってことか──としみじみと思った。
『なにやらごちゃごちゃと喋っているようだが、我も飽きた。全力で貴様らを叩き潰してくれる!』
ゴーレムの攻撃がさらに激しくなる。
しかしイヴたちは見事な連携で、ゴーレムの攻撃を防ぎ続けていた。
ゴーレムの頭に血が昇っているためか、ムキになって彼女たちに追撃を仕掛ける。
「よし……! 今だ!」
ゴーレムの気が逸れているうちに、《鍛冶ハンマー》を顕現させ、一つの武器を作り始めた。
……丁度、二十秒後。
「出来た!」
俺は声を上げる。
それにイヴたち三人、そしてゴーレムも気付いたのか、一斉に俺の方へ顔を向ける。
今──俺が担いでいるのは、大きな筒状のものである。
鉄がたくさんあったおかげで、短時間で作ることが出来た。
あとは魔力を装幀し、ゴーレムに照準を合わせれば……。
「イヴ、ヘレナ、エミリア! ゴーレムの前からどいてくれ! ド派手な一発を打ち込むぞ!」
俺が指示を出すと、三人は俊敏な動きで散らばった。
「発射──」
『ちょ、おま』
ゴーレムもすぐに逃げようとするが、今更もう遅い。
筒から魔力の塊が発射され、ゴーレムに炸裂する。
魔力がゴーレムに当たったかと思うと、その大きな体が破片も残さずに消滅してしまったのだ。
「「「ええええええええ!?」」」
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