第12話 鍛冶師は素材採取でも度肝を抜かれてしまう

 王都で冒険者を始めようとした俺だが、イヴとヘレナ、エミリアたちの『不滅の翼』という冒険者パーティーに加入した。

 順風満帆である。


 冒険者登録も無事に済ませた俺は、翌日──早速、依頼をこなすために街の外に出ていた。



「ねえ、ロイク。本当にこの依頼でよかったのかな?」



 目的の場所に到着して。

『不滅の翼』のリーダーであるイヴが問いかけてきた。


「ああ、問題ない。なにせ初めての依頼だからな。いきなり高難易度の依頼だったら、失敗するかもしれないし……」


 そう答える。


「とはいえ、今回はただの素材採取だがな。ロイクがいて、失敗するとは思えない」


 と苦笑するのはヘレナ。

 パーティーでタンカーの役割を担っている少女だ。


「ですが、足元をすくわれないとも限りません。気を引き締めて行きましょう」


 そう口にする治癒士のエミリア。


「素材採取だったら、鍛冶師の頃もやってきた。これなら俺でもみんなの力になれるはずだよ」


 俺は彼女たちに言う。



 俺たちが今訪れている場所は──アルヴァの洞窟。



 依頼の内容は、この洞窟で鉱石を取ってくること。

 冒険者として初めての依頼だが……失敗しないように頑張るぞ!


「あ」


 洞窟内を歩いていると、不意にイヴが声を上げた。

 前方からは複数の全身が漆黒の毛で覆われた生き物が、こちらに向かって飛んできた。


「なんだ……ただの蝙蝠こうもりか」

の蝙蝠じゃないよ! 魔物のナイトバットだよ!」


 イヴからツッコミが入る。


 そうなのか……?

 師匠たちに訓練を付けられている頃には、夜になるとよく見かけていた生き物だった。

 目が赤く光っており、見ようによると可愛いかもしれない。

 どうやら俺は強い師匠たちに鍛えられたせいで、世間の常識とズレているようなのだ。


「まあ、なんにせよ早くやっちまうか」


 木の棒(※正式名称は『神木の根杖』というらしい)を構える。


「このままじゃ、作業にも集中出来ないしな」


 とナイトバットを掃討しようとすると、


「待って」


 イヴが制してきた。


「ロイクにばっか任せてられないよ」

「ここは私たちに任せてくれ」

「これでも私たちはAランクパーティーなんですから」


 ヘレナとエミリアも一歩前に出て、お互いに武器を構える。

 ……ここは彼女たちを信頼してもよさそうだな。


 やがて三人は散らばり、ナイトバットに立ち向かっていく。


「ヘレナ! 守り、よろしく!」

「ああ!」


 ヘレナが盾(※聖装化済み)でナイトバットの攻撃を防ぐ。

 その間に、イヴは剣に炎を纏わせ斬りかかる。次々とナイトバットが地面に落ちていく。


「エミリア! 回復をお願いしてもいいか!?」

「任せてください!」


 タンカーのヘレナに疲れが見え始めた頃、即座にエミリアが治癒魔法をかける。

 見事な連携だ。

 あっという間に、全てのナイトバットの討伐が完了した。


「おお……! やるな、三人とも!」

「へへ、ありがと。なんだか、ロイクに褒められると照れるね」


 頬を掻くイヴ。


「特にイヴの攻撃、あれって瞬時に属性魔法を付与したんだよな? 俺には出来ない」


 イヴは剣と魔法を両方使いこなすアタッカーだった。

 先ほどの華麗な戦い振りを思い返す。


「ロイクは魔法攻撃が出来ないのか? 君だったら、なんでも出来そうなものを」


 そう口にするヘレナ。


「ああ。鍛冶のために《鍛冶ハンマー》は魔法で出せるが、俺にはイヴみたいな器用な真似は出来ないよ。俺は人並み──いや、人より体力があるだけだ」


 肩をすくめる。


「ちょっとどころではない気がしますけどね」


 とエミリアは苦笑する。


「今度は俺の出番だな。イヴたちがナイトバットを倒してくれたおかげで、素材採取に集中出来る」


 そう言って、俺は巾着袋──じゃなかった。無限収納袋からツルハシを取り出す。

 このツルハシは素材採取のため、イヴたちから借りたものである。

 ゆくゆくは自分のお金で購入したいが、なにせ今の俺は無一文。せめて自分のことは自分で出来るくらいには、お金を稼がねば。


「このツルハシ、ありがとな」

「礼なんていらないよ。それにこの洞窟の岩盤はとても固くてね。ツルハシでもなかったら、鉱石なんて取り出せないから」


 と説明してくれるイヴ。


「本来は岩盤に小さな穴を空けるだけでも、時間がかかるからな。こうして男手がいてくれると、助かる。」

「ロイクさん、疲れたら言ってくださいね? 交代しますから」

「いや……大丈夫だ。実は素材採取は少し得意なんだ。ナイトバットは三人がやってくれわけだし、ここは俺に任せてくれ」

「少し……ねえ」


 イヴがぼそっと呟く。


 よし、久しぶりの素材採取だ。

 俺は岩盤に向かって、ツルハシを大きく振り上げ──




 ドカーーーーーン!




 下ろすと、大きな音と共に衝撃波が出る。


「「「なに!?」」」


 三人とも衝撃波に吹き飛ばされないように踏ん張りながら、驚きの声を上げた。

 粉塵が収まり、視界が開けた先には岩盤に大きな穴が出来ていた。


「よし」

「「「よし!?」」」


 声を揃えるイヴたち。


「とりあえず、岩盤に穴を空けたぞ。だが……三人とも、どうしてそんな顔をしているんだ?」

「そりゃ、こんな顔にもなるよ! 一発で穴が空いたじゃん!」

「最早これは素材採取というより、鉱山開発だな」

「まあ、なんとなくこうなる気はしていましたが……」


 イヴとヘレナ、エミリアの順番で口々に言う。


「まあ……イヴたちに借りたツルハシがすごいだけで、俺自身がすごいわけじゃないし……」

「十分すごいよ! ってか袋から取り出した時から思ってたけど、そのツルハシ光ってるよね? なんの変哲もないツルハシだったはずだけど」

「聖装化しただけだが」

「やっぱり、そうだった!」


 声を大にするイヴ。前から思っていたが、感情表現が豊かな女の子だ。


「ですが、ロイクさんのおかげで後は素材を採取するだけですね」


 これ以上驚いてもキリがないと思ったのか、エミリアが前方に視線を移す。


 鉄や銅──アメジストといった素材が地面に落ちていた。


 しかし今は散らばっているし、周りの石や砂も取らなければ、素材としては使いにくい。

 このまま納品しても、ギルドは依頼達成と認めてくれないだろう。


「よし、ここからは私たちも──」

「いや、まだ俺のターンだ」


 意気込むヘレナを制して、俺は手をかざす。


「素材よ、来い」


 そう口にする。

 すると散らばった素材がカタカタと動き出し、一人でに俺の元に集まった。

 ご丁寧に周りの砂や岩も取り除かれている。

 さらにそれだけではなく、自動的に仕分けされ、俺の前に並んでいた。


「終わった」

「「「終わった!?」」」


 再び三人が前のめりになる。


「い、今のなに!? 素材が一人でに集まってきたように見えんだけど!」

「見た通りだぞ?」

「なんでそんなこと出来るの!」

「これは師匠の教えなのだが──」


 イヴに説明する。


 俺に鍛冶師としてのイロハを叩き込んでくれた、カサンドラ師匠。

 彼女は常々、俺にこう教えてくれた。



『ロイク。自分から素材を集めにいくようではダメだ。いい鍛冶師には、素材も応えてくれる。素材から来てくれるような鍛冶師になれ』



 ……と。


「だから、俺が『来い』って言ったら、素材が集まってくれるんだ。まあレアな素材は来てくれないし、こうして岩盤を崩す必要もある。師匠の元にはそんなことをしなくても、素材が集まってたし……俺なんてまだまだだよ」

「そんなこと、聞いてないよ!?」

「規格外すぎる」

「これだけで食っていけますね……」


 三人は頻りに驚きっぱなしである。


「これくらい、鍛冶師なら誰でも出来るぞ。そう驚くことじゃない」


 鍛冶師ではない三人には分からなかったかもしれないが、そう威張ることでもないのだ。

 ……と思っていたが、イヴはすーっと息を吸い込み、こう叫んだ。


「そんな鍛冶師は、どこにもいないからあああああ!」


 ここにいるんだが……。

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