第8話 鍛冶師は魔力測定も超チート級

「嵐のような女だったな」


 急にやってきたかと思ったら、急にいなくなった。

 下着姿で走り去るヴィオラの姿を思い出して、俺は頭を掻く。


「大丈夫ですか!」


 受付のリリさんが心配してくれる。


「問題ない。だが、冒険者っていったら荒くれ者が多いイメージだったが、あんなに優しい先輩もいるんだな。痴女だったが」


 なにせ、鎧の下に下着以外なにも身につけていなかったのだ。

 あれには度肝を抜かれた。

 そのせいで、大衆の前で女の子を剥くような形となってしまったが……不可抗力だと許してほしい。


「《鍛冶ハンマー》って、ああいうことも出来んだね」


 とイヴが口にする。


「そうだな。鍛冶に関することなら一通り出来る。鍛冶師にとって、必須のスキルだと師匠には教えてもらった」

「なんだろう……鍛冶師についてあまり詳しくないけど、それが普通じゃないことくらいは分かるよ」


 イヴが苦笑する。


「これがヴィオラさんの鎧ですか。こちらで保管しておきますね」


 エミリアの方に視線を移すと、彼女は先ほどまでヴィオラが身につけていた鎧を抱えていた。

 やっぱり重そうな鎧である。


「そうだな。あくまでヴィオラの装備を解除──解体しただけだから。鎧はちゃんと元の状態で残る」

「と、ということは、《鍛冶ハンマー》とやらを振るえば、どんな人間の服も脱がせることが?」


 ヘレナが震えた声で質問する。


「そこまで便利なものでもないさ。あくまで範囲は、その人のってだけ。防具でもない服を脱がすことは出来ないぞ」

「そ、そうか」


 ほっとヘレナは胸を撫で下ろす。

 彼女はなにを想像していたのだろうか?


「まあ……鎧はリリさんに任せるか」


 ついでにお詫びとして、鎧を聖装化しておくか……。

 これでちょっとは、彼女の溜飲が下がってくれると有り難い。


「なんにせよ、ロイクさんが無事でよかったです。先ほどは途中で説明が終わってしまいましたが、これから冒険者登録の続きをやってもいいでしょうか?」


 続けて、リリさんが俺の記入した紙を見ながら、そう問いかけてくる。


「まだ終わりじゃないのか?」

「はい。今のやり取りで十分かとも思いますが……冒険者としての資質を確かめさせてもらわなければならないんです。ご存知かとは思いますが、冒険者は危険なお仕事。弱い人が冒険者になっては、無用な被害者を生むだけですからね」

「試験……ということか」


 合格出来るかなあ。


「分かった。試験の内容というのはなんだ?」

「魔力測定で実技試験の二つです。簡単なものですので、今からでもよろしいですか?」

「もちろんだ」


 そう頷くと、リリさんは机の下から水晶を取り出して、受付テーブルの上に置く。


「こちらは魔力を測定するための水晶です。魔力を注ぎ込めば、水晶の色が『青』、『緑』、『黄』、『赤』、『黒』に変わる仕組みとなっています。青色が一番弱くて、黒色が一番強くなっています」

「便利なものがあるんだな」

「測定水晶を見るのは初めてでしょうか?」

「ああ」

「だったら……エミリアさん、試しに測定してみてもいいですか? ロイクさんにお手本を見せる意味で」

「分かりました」


 エミリアが首を縦に振り、水晶に手を当てる。

 すると水晶が一瞬光ったかと思えば、色が赤色に変わっていた。


「あっ! 前までは黄色だったのに、今は赤色になっています! 私、魔力が増えたみたいです!」


 その結果に、エミリアはパッと表情を明るくし、喜んでいた。


「上から二番目……か。これってすごいんだよな?」


 リリさんに質問する。


「はい! 水晶に赤色に変わるのは、冒険者の上位五%しかいないと言われています。エミリアさんは屈指の治癒士。魔力量の多さだけでいうと、当ギルドでも一、二を争います」

「そう褒められると、照れますね」


 リリさんの言葉に、エミリアは頬を赤らめていた。


「なるほど……すごいな、エミリア。さすがはAランク冒険者だ」


 俺の入った『不滅の翼』は、俺の想像以上にすごいパーティーなのかもしれない。


「では、次はロイクさんの番です。あっ、エミリアさんほどの結果は求めていませんから。色が変わるだけでも魔力があるということで、すごいことなんですから」


 とリリさんが俺を促す。


 魔力量……か。そういや、ちゃんと測ったことはなかったな。

 俺はただの鍛冶師だ。魔力量には自信がない。師匠が鼻歌混じりでやれていたことも、俺には無理だった。


 だから大して期待もせずに、恐る恐る水晶に手を当てた。

 その瞬間、眩いばかりの光でギルドが満たされる。


「この光、なに!?」

「こんな現象は初めて見たぞ!」

「もしかして、とんでもないことが起こるのでは……」


 それを見て、イヴとヘレナ、エミリアの三人が声を漏らす。


 俺、なんかやっちゃったんじゃないか──そう思っていると、水晶にヒビが入って。



 パリン!



 そんな音を立てて、水晶が真っ二つに割れてしまった。


「ん?」


 思っていた反応と違い、すぐに理解が追いつかない。


「す、水晶が割れました!? どうして? この水晶はどれだけ魔力を送っても、壊れないはずなのに……」

「リリさん! 不良品だったっていう可能性は?」


 俺が混乱している最中、イヴがリリさんに問う。


「有り得ません! もしそうだったら、エミリアさんの時に別の反応が出ているはずです!」

「だったらこれは一体……」

「なんにせよ、とんでもないことです! 水晶が割れるなんて、『空白の伝説』の【大賢者】以来で──」


 場が騒然とする。


 やべ……みんなの反応を見るに、やっぱり俺はやらかしてしまったらしい。

 だが、色が変わることで魔力を測定出来るはずの水晶が割れてしまったのだ。測定不能ということだろう。

 測定不能──つまり記録上、俺の魔力量はゼロということで……。


「あ、あのー……」


 恐る恐る手を挙げる。


「これって、俺の魔力が低すぎということだよな? 不合格ってことで──」

「「「「違う!」」」」


 しかし俺の言葉に、この場にいた女性が四人が揃って否定する。


「逆だよ、逆! 魔力量が多すぎて、測定出来ないっていうことだよ!」

「あのSSSランクパーティーにいた【大賢者】様と、同じ反応だったんだぞ!? ロイクはこのすごさが分かっていないのか!」

「ちょっと魔力量が多いだけで、調子に乗っていた私が恥ずかしいです……」

「なんにせよ、これはとんでもないことですよ! ギルドの歴史に名が残ります!」


 イヴ、ヘレナ、エミリア、リリさんが次々に声を発する。


 俺の魔力量が多い……? そうだったのか。

 そういや、ヴァイン武具屋ではたらていた頃は、三日三晩徹夜で仕事をしても疲れなかった。

 その頃から魔力切れもしたことなかったし、今思えばその頃から片鱗はあったのかもしれないな。


 それにしても……SSSランクパーティーの【大賢者】か。みんなの話によれば、その人も魔力量が多かったらしい。

 いずれ会ってみたいな。


「え、えーっと、とりあえず魔力測定の結果は合格ということでいいのかな?」

「文句なしです! 余裕で合格ですから!」


 俺の問いに、リリさんはすごい勢いで何度も首を縦に振っていた。

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