第5話 鍛冶師は魔族をワンパンで倒す
デスベアに襲われていた女の子──イヴを助けてから、俺たちは王都を目指していた。
「そういや、イヴの冒険者パーティーってどんな感じなんだ?」
森の中。
隣を歩くイヴに、俺はそう質問する。
「うん。すごくいい冒険者パーティーだよ」
自信満々にイヴが答える。
「わたしを含めて、女の子三人のパーティー。パーティー名は『不滅の翼』。他の二人はタンカーと治癒士でバランスも取れてると思う」
「お、女の子だけなのか? そんなところに、男の俺が入って大丈夫なのか?」
「まあ大丈夫じゃないかな? 女の子だけになったのも、たまたまだったしね。ロイクほどの強い人が来てくれたら、みんなだって歓迎してくれると思う」
なんでもなさそうに言っているが、本当に大丈夫だろうか……。
俺の師匠たちも全員女性ではあったが、俺より歳上だった。
イヴの仲間なんだから、彼女と同年代なんじゃ……そんな女の子の中に、俺が混ざるわけだ。
……ええい! 今更悩んでも仕方がない! なるようになれだ!
一抹の不安を抱えながら、森の中を歩き続ける。
「冒険者パーティーには強さによって、ランク分けがされているんだよな?」
「うん」
「だったら、Sランク──SSSランクを目指すってさっき言ってたけど、イヴの『不滅の翼』のランクはなんなんだ?」
「今はAランク! わたしくらいの歳でAランクになるっていうのは、結構すごいんだよ? えっへん」
胸を張るイヴ。
そういや、俺の師匠たちも元冒険者であったが、ランクはどれくらいだったんだろう?
特に理由はないが、聞いたことがなかったな。
デスベアに苦戦していたイヴが、Aランクなんだ。もしかして師匠たちはSランク?
……まさかな。
「なんにせよ、イヴのパーティーメンバーに会うのが楽しみだよ。足を引っ張らない程度に頑張──」
その時だった。
周囲の雰囲気が一変する。
「な、なに!?」
イヴも森の異変に気付いたのか、足を止める。
ずしーんと体が重くなる感じだ。
胃のところがもやもやして、気持ち悪い。
異変の正体を探っていると、
『──ほほお。膨大な力の奔流を感じたかと思ったら……まさか、あなたたちみたいな子どもだったとは。予想外でしたよ』
声は上から聞こえた。
見上げると、そこには空中で浮いている人形の『なにか』がいた。
「なんだ、こいつは?」
思わず顔を
男の人間に見える『なにか』は、背中から黒い翼を生やしている。
上空で滑空し、ニタニタとした笑みを浮かべて俺たちを見下ろしていた。
「も、も、もしかして、あいつは……」
イヴは心当たりがあるのか、震える手でその『なにか』を指さしている。
『ふんっ。そちらのお嬢さんはお気付きになられたようですね』
鼻を鳴らす『なにか』。
『そちらの冴えない顔をした男は気付きませんか』
「あいにくな。記憶力にはそこまで自信がないんだ」
『いいでしょう、名乗ってあげます。私は魔族ボドギャニエム。以後、お見知り置きを』
と『なにか』──魔族ボドギャニエムが頭を下げる。
魔族。
一説によると魔界の住民だと言われ、人間に仇なす存在。
神出鬼没の種族で、魔族による人間の被害は絶え間なく報告されていると聞く。
本来なら驚くべきところかもしれない。
だが。
「よかった……魔族か」
「なんで、ちょっと安心しているの!?」
安堵の息を吐く俺に、イヴがツッコミを入れる。
「だって、そうだろ? もっと強い存在……たとえばドラゴンなんて出てきたら、俺だってお手上げだった。魔族なんて、そこらへんの街のチンピラと変わらないだろ」
『ま、ま、魔族である私を街のチンピラ呼ばわり……』
俺がイヴに説明していると、魔族ボドギャなんたらは眉間をピクピクさせる。
『ここまで私をバカにしてくれた人間は、あなたが一人目ですよ。決めました。様子を見るだけのつもりでしたが、あなたたちをここで殺します。死になさい!』
魔族ボドギャなんたらはいきなり怒り出し、さっと手をかざした。
その瞬間、魔族ボドギャなんたらから黒い光線が放たれる。
俺は腰が抜けているイヴを抱えて、黒い光線を回避した。
「ちっ……いきなり攻撃してくんのか。やっぱ、街のチンピラと変わらないじゃないか。あいつら、こっちがなんにも言ってないのに、急に絡んでくるからな」
「ロイクから挑発してたと思うけど……」
俺の胸の内で、イヴがぼそっと呟く。
俺は少し離れた地点で顔女を下ろし、無限臭の袋から木の棒を取り出す。
「イヴはそこで待っててくれ。あいつならすぐに片付ける」
「わ、わたしも戦うよ! ロイク一人だけに戦わせてられない!」
「その心意気は嬉しいが……まともに戦える状態じゃないだろ? 立ち上がるのも難しいそうだ」
そう告げると、イヴはハッとした表情になる。
彼女の全身は震えており、腰に携えている剣に手を伸ばすことすら叶わない。
魔族を前にして、恐怖で身がすくんでいるのだろう。
こんな状態の彼女を、一緒に戦わせるわけにはいかなかった。
『ほお? そのようなもので、私と立ち向かうつもりですか?』
その間にも、魔族ボドギャなんたらは興味深そうに俺が持つ木の棒へ視線を移す。
『先ほどは躱わされたので驚きましたが……どうせ、ただのまぐれでしょう。どんどんいきますよ』
魔族ボドギャなんたらが軽く指を曲げると、無数の光線が発射される。
俺は即座に木の棒で、光線を弾き返そうとした。
だが。
「む……」
光線が木の棒に当たると、全体が黒くなりそのままポロポロと崩れ去ってしまう。
瞬時にその場から飛び退いて、魔族ボドギャなんたらの攻撃を
「なるほど。ただの光線もどきじゃないというわけか」
『ほーほっほっほ! どうですか? 驚きましたか? たかが人間風情では、私の呪いを防ぐ手段はありません!』
独特な高笑いを上げ、魔族ボドギャなんたらが悦に入る。
『さらに私のこの体も、呪いによる結界が張られています! 通常の手段では、私に指一本触れることは出来ないでしょう!』
わざわざ説明してくれる、バカ親切な魔族。
呪い──自身の怨恨や邪悪を込めて、他者に攻撃や状態異常をかける術である。
大した攻撃じゃないのに、俺の木の棒が崩壊したのも、呪いの効果によるところが多いのだろう。
「面倒な真似をしやがるな。これじゃあ、さっきの木の棒が何本あっても足りない。となると呪いを無効化する武具を作るしか……」
『なにをブツブツ呟いているのですか?』
魔族ボドギャなんたらは訝しむような表情を見せる。
『さて、次こそ本当の終わりです。それなりに楽しませてもらいましたよ。あの世で悔い改めなさい!』
続けて魔族ボドギャなんたらが光線を放とうとする。
またあの呪いが込められた光線だろう。
──だったら、あれしかないか。
俺は視界に入っていた木の棒、そして毒キノコをむしり取る。
「《鍛冶ハンマー》」
そう呟くと、俺の右手に光をまとったハンマーが現れた。
こうしている間にも、黒い光線が迫ってくる。俺はそれを適当に躱わしながら、採集した木の棒と毒キノコを《鍛冶ハンマー》で叩き、ある武器を完成させる。
「出来た」
--------------------
『
呪いと毒が染み込んだ木の杖。毒が持つ邪悪な力に侵され、変質している。
--------------------
即座に地面を強く蹴り、魔族ボドギャなんたらと同じ位置まで跳躍する。
『ひょ?』
魔族ボドギャなんたらは呆気に取られた表情。
「じゃあな。いい運動になったよ」
木の棒を軽く払う。
魔族ボドギャなんたらは避けようとするが、到底間に合わない。
木の棒が魔族の体に当たる。
『こ、これは……!? 私の体が消えていく?』
変化はすぐに訪れた。
魔族ボドギャなんたらの体が、ポロポロと音を立てて崩れていく。ヤツは死から逃れようとするが、もう手遅れだ。
「呪いには、それ以上の邪悪──だ。この木の棒には、魔族にだけ効く毒を仕込ませてもらった。この毒からお前は逃れられない」
『わ、私がこんな人間なんかにいいいいいいい!』
断末魔を上げるが、やがて魔族ボドギャなんたらの体は完全に消滅した。
「よし」
「よし!?」
額に浮いた汗を腕で拭うと、イヴが俺に駆け寄ってきた。
「お、ようやく動けるようになったか。それにしても、どうしてそんなに驚いているんだ?」
「そりゃそうだよ! 魔族はどうなったの? それにその木の棒──
ようやくまともに喋れるようになったかと思えば、感情豊かに質問を矢継ぎ早にしてくるイヴ。
「魔族なら倒した。あんなの取るに足らない。魔族と戦うのは、初めてのことでもなかったからな」
師匠たちは魔族と関わりがあるらしく、よく因縁をつけられていた。
その際、訓練の一環で俺も魔族と戦ったが……一度も負けたことはない。
ってか、負けたらそれは即刻死に直結するわけだが。
「とはいえ、ヤツの呪いが厄介だったからな。だから即座に周辺にあった、木の棒と毒キノコを組み合わせて武器を作った。俺は鍛冶師だ。戦いは苦手だが、武器を作るのはお手のものだし」
「色々と突っ込みたいところがありけど……一つだけいい?」
「なんだ?」
俺が質問すると、イヴがすーっと息を吸い込んでから、こう叫んだ。
「デスベアや魔族をワンパンする──それ、普通の鍛冶師には出来ないから!」
彼女の声は森中に響き渡った。
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