第2話 鍛冶師は女の子を助ける
鍛冶師として働いていた俺は、勤め先であるヴァイン武具屋を解雇されてしまった。
「くそ……っ! ボンクナーのヤツめ!」
悪態を吐きながら、森の中を歩く。
「しかもクビにするだけじゃなく、俺が大切にしていた武器も全部捨てた? ふぜけてやがる!」
最近では工房にこもりっぱなしだったので、武具屋が今どういう状況にあるのか分からなかった。
そのせいでボンクナーの凶行を止めることも出来なかったし、自業自得かもしれない。
しかも退職金もなく、無一文の状態で放り出されてしまった。
おかげで今俺が持っているのは
「まあ……クビになってしまったものは、仕方がないか。問題はこれから、どうするか……だな」
繰り返すが、今の俺は金を持っていない。
このまま無収入の状態が続けば、近いうちに野垂れ死ぬだろう。
師匠たちのところに帰って、情けない思いもしたくない。
早急に次の仕事を探さなければ。
「とはいえ、ボンクナーの近くで働きたくないし……このまま王都に行ってみるか? あそこだったら、俺みたいな人間でも就ける仕事はたくさんあるだろうし」
それに俺は、前々からやってみたい仕事があった。
──冒険者だ。
戦いが苦手で、師匠のサポートのためと鍛冶師をやっていた俺。
しかし冒険者として魔物を倒し、人助けをしていた師匠たちを憧れていないわけではなかった。
だからといって、鍛冶師を辞めるつもりもなかったが……いい機会かもしれないな。
「あの武具屋に、もう筋を通す必要もないしな。これからは好きに生きてみるのもいい」
よし──決まりだな。
王都に行き、冒険者になる。
そこで依頼をこなしつつ、生活をしていく。
俺があの強かった師匠たちのようになれるわけではないと思うが……少しでも、師匠たちに近付きたい。
今後の方針を決めたら、やる気も湧いてきた。
「そうと決まったら、さっさとこんな森から出よう。ジメジメしてて気持ち悪いし……」
その時であった。
「誰か助けてーーーーーー!」
女の子の悲鳴。
「誰かが助けを呼んでいる? 魔物に襲われているのか? くっ──!」
気付けば、俺は真っ先に駆け出していた。
一介の鍛冶師である俺が、どうにか出来るとは思えない。
しかし師匠たちはどんな困難な状況でも、困っている人を見捨てなかった。
俺がこれから、師匠たちを目指すとするなら──。
助けを呼ぶ声を無視するわけにはいかないのだ。
走り続けていると、やがて森の開けた場所に出る。
そこでは女の子が剣を振り、魔物と戦っていた。
「な、なんで! こんなところに強い魔物が!」
女の子は悲愴な表情を浮かべ、魔物と立ち向かっている。
彼女の右手には剣。
さらには炎や氷を出して──魔法だろうか? 華麗に立ち回っている。
思わずその身のこなしに舌を巻いてしまう。
しかし状況は女の子の圧倒的劣勢だ。
彼女が戦っている魔物は、全長二メートルほどの熊のような外見である。
一見恐ろしい魔物だが……俺はほっと安堵の息を吐いた。
「なんだ、デスベアか……」
俺では対処出来ない魔物がいたら、どうしようかと思っていた。
デスベアは魔物の中でも、かなり弱い部類に位置している。
師匠たちのところで魔物との戦いも教えてもらった俺にとっては、ちょっとした狸みたいなものだ。
とはいえデスベアは大きく、魔物に慣れていない者にとっては脅威だろう。
女の子が助けを呼ぶのにも頷ける。
俺は木の棒を握り、女の子の前に躍り出た。
「え……君は!?」
「俺はロイクだ──っと、自己紹介をしてる場合でもないな。君は下がっていてくれ。この熊なら、俺が相手をする」
「む、無茶だよ!」
女の子が叫ぶ。
こうしている間にも、デスベアが大きな手で攻撃を仕掛けてくる。
だが、俺はそれを難なくかわして、女の子の話に耳を傾けていた。
「相手はデスベアだよ!? 君──ロイクさんじゃ勝てないよ! 強い武器があったら別かもしれないけど、そういう風にも見えないしさ!」
「確かに、今の俺はほとんど丸腰のような状態だ」
だからといって、手ぶらではない。
「しかし俺には、
そう言って、握っていた木の棒を女の子にかざす。
「強い魔物相手なら無茶かもしれないが、デスベアくらいなら問題ないはずだ」
「そ、その木の棒のこと? やっぱり無茶だよ! そんなのじゃデスベアは──」
女の子が言葉を続けようとするが、最後まで聞いている暇はさすがにない。
俺は一瞬でデスベアとの距離を詰め、懐に入り込む。
そして木の棒を横薙ぎに振るった。
「よいしょっと」
木の棒がデスベアの腹に命中する。
ドガアーーーーーーーン!
爆発音。
「グオオオオオ!」
デスベアが悲鳴を上げ、後方に吹き飛ばされる。
デスベアの体が木の幹に激突するが、勢いは止まらない。
勢いに負けて木が倒れ、そのまたさらに後ろの木に……と連続で続けられていく。
およそ十本ほどの木に打ち付けられたのち、デスベアは地面の壁に激突して、ぐったりと項垂れた。
瞳に宿っていた生気も消えている。
「よし。倒した」
「なんでえええええええええ!?」
女の子が驚きの声を発する。
「そんなに驚くことか? だって相手はデスベアだぞ? 昔は訓練のウォーミングアップに、よく狩っていたもんだ」
師匠たちいわく、『雑魚を狩る練習』とのこと。
百体同時に相手にした時は、さすがに骨が折れたが、一体くらいなら今の腕が鈍っている俺でもさすがに倒せる。
しかし。
「ウォーミングアップで、デスベアを狩る人なんていないよ! いたとしても、伝説のSSSランク冒険者くらいなんだから!」
と、イヴからツッコミが入った。
「……? まあいっか。そんなことより怪我はしてないか?」
「だ、大丈夫、ありがとう。でも、今はそんなことより……」
ずいっと顔を近付ける彼女。
「さっきのはなに!? ただの木の棒に見えたけど、もしかしてわたしの見間違いとか!?」
「そんなことはないぞ。極々平凡な木の棒だ。ほら」
そう言って、戦いに使った木の棒を女の子に見せてあげる。
「まあ、ちょっと使いやすいように加工しているけどな。君がなにを考えているか分からないが、大したものじゃない」
「ほんとに、ただの木の棒……だよね? でも、それでデスベアをワンパンな訳が……ごめんだけど、鑑定魔法を使ってみてもいい?」
「おお、君は鑑定魔法が使えるのか。構わないぞ」
数ある魔法の中でも、鑑定魔法は才能がある一部の者しか使えない貴重なものだ。
師匠たちの中には使える者がいたが、それを彼女が使えるのは驚きだ。
「じゃ、失礼して……」
女の子が木の棒に手をかざした。
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『神木の根杖』レア度:7
大地を貫くほどの攻撃が放てる根杖。持つ者に大地の神の力を与え、触れた者に温かな鼓動を感じさせる。
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「しっ……!」
女の子がわなわなと震える。
「神木の根杖!? しかもレア度7って……やっぱり、ただの木の棒じゃなかった!」
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