SSSランク鍛冶師、解雇されてから世界最強に至る 〜パワハラオーナーにゴミだと捨てられたもの、全て超チート級の武具でした〜
鬱沢色素
第1話 鍛冶師は解雇される
「ロイク。君は今日でクビだ」
朝の工房。
俺はボンクナーからクビを宣告されていた。
「なっ……!」
突然のことすぎて、言葉を失ってしまう。
「ま、待ってくれ。俺が急にクビだって!? どうしてそんな……」
「急に……だって?」
眉をひそめるボンクナー。
「分からないのかい? それは君が、ただの鍛冶師だからだ。鍛冶しか取り柄のない人間は、この店には必要ない」
「だ、だが! そもそもここは武具屋だろ? 武具がなかったら困るはずだ。俺の代わりは──」
「君はずいぶんと自己評価が高いみたいだね」
ボンクナーは俺の言葉を遮って、吐き捨てるように言う。
「君の代わりなんて、いくらでもいるんだよ。先代に言われて、惰性で雇い続けたものの……本当はずっとクビにしたいと思っていた」
「だ、だが……」
「うるさい!」
ボンクナーはぴしゃりと言い放つ。
「これ以上、僕に口答えをするな! 君がなにを言おうが、この決定は覆らない! 鍛冶師としてまともな成果を出せなかった自分を悔やむんだな!」
怒り心頭のボンクナーに、俺はなにも言い返せなかった。
俺──ロイクは元々孤児だった。
記憶も朧げな頃に、師匠であるカサンドラに拾ってもらい、手塩にかけて育ててもらった。
カサンドラ師匠、そして彼女の仲間は冒険者パーティーだった。
今はもう冒険者を引退してしまっているが、俺は優しい師匠たちの力になりたいと考えた。
しかし戦いは苦手だ。彼女たちのようになれる気がしない。
そこで、俺が選んだのは『鍛冶師』という道だった。
彼女たちのようになれなくても、せめて武具を作ってサポートしたい。
そう考えた俺は、師匠たちによって鍛冶師のイロハを叩き込んでもらった。
師匠たちの訓練は厳しかった。
時には逃げ出したくなることも度々あった。
だが、拾ってもらった恩に報いるため──そしてなにより武具を作ることが好きだったから。
厳しい訓練にも耐え、鍛冶師として一人前になれた。
そんなある日、カサンドラ師匠の知り合いのツテで俺は『ヴァイン武具屋』で鍛冶師として働くことになった。
そのことを打ち明けた時、師匠たちは悲しんでくれたな。
しかし独り立ちする最終的には俺の背中を押してくれて、快く送り出してくれた。
風向きが変わり始めたのは、先代が高齢のために隠居し、その息子であるボンクナーに店を継いでからだ。
優しかった先代とは違い、ボンクナーの俺に対する態度は熾烈を極めた。
毎日、朝早くから深夜まで働かされる日々。
寝る時間もろくに与えられず、俺は武具を作ったり修理をさせられる。
ここ一年は、ずっと店内にある工房に籠りっぱなしだった。
いつしか俺は感情を殺し、機械のように武具を作り続けるようになった。
それでも俺は逃げ出さなかった。
鍛冶が大好きだったから。
今、逃げ出したら師匠たちが悲しむから──。
そう思って今日まで必死に頑張ってきたが……結果はこれだ。
俺のやってきたことは、なんにも報われなかったのだ。
「それに……鍛冶師である君がいなくなっても、この武具屋はなにも問題ない」
立ち眩みがしている俺の一方、ボンクナーは気持ちよさそうに話し続ける。
「実は、『ゴールド商会』がうちの取引先になってくれたんだ。今後、うちはゴールド商会から武具を仕入れる」
ゴールド商会とは、この国で一、二を争う大商会である。
彼らの取り扱う商品は高価で、基本的に貴族を相手にしている。
俺がいなくなってどうするつもりだ……と思っていたが、どうやらこの後の算段はついているようである。
「君の武具の地味なものばかりで、主に冒険者に売っているだろ? 冒険者の中には、資産を築いている者もいるが……貴族に比べると数も少ない。このままではうちの実入りも少ない」
「そ、それは……先代の『良いものを安価に売る』という教えがあったから……」
「しかも冒険者どもは臭い!」
俺の言葉を全く聞かず、ボンクナーは顔を
「正直、あんなヤツらを店内に入れることすら嫌だった! 育ちも悪い連中が多かったし、あんなヤツらに接客するのは苦痛だ!」
「散々な言いようだな……」
冒険者の人たちは確かにそういった側面もあるが、ほとんどが驚くほど気の良い連中だった。
遠方からわざわざ俺の武具を求めて来るお客さんも多かったし、彼らのことを悪く言うのは許せなかった。
「ヴァイン武具屋は生まれ変わるんだ。もっと高貴で美しい店にね。そのためにも君はこの店に不要だ」
「方向性の違い……ってやつか」
巷には経営者が変わって、方針がガラリと変わったところもあるという。
つまりこれは、そういうことなのだ。
ボンクナーにとって、俺はただの一介の鍛冶師であり、奴隷でしかなかったのだろう。
「どれだけ言っても、俺のクビは変わらないのか?」
「くどい! さっきから何度も言ってるだろう! 貴様のクビは絶対に変わらない!」
「……分かった。口惜しいが、それがお前の方針なら仕方がない。だったら、俺が作った武具をいくつか持っていってもいいか? 経営方針が変わるんだろ。だったら、もう必要ないはずだ」
「ん……ああ、それならもうとっくに捨てたよ」
「す、捨てた!?」
さすがに予想外だったことを言われ、俺は前のめりになってしまう。
「なんということを! 俺がどんなに苦労をして、あの武具を作ったと思ってんだ!」
「ふんっ。あんなの、ただの
ゴミ……か。
確かに、俺の作る武具は上等なものじゃないかもしれない。
しかしあんなに厳しい師匠たちが、俺の作る武具を身につけた時は優しい表情になった。
半身とも言える武具やゴミだと雑に捨てられるなんて、怒りよりも悲しさが込み上げてくる。
「これで言いたいことは全て言い終わったかい?」
悔しさでぐっと拳を握りしめている俺に、ボンクナーはこう告げる。
「クビになった従業員をいつまでも置いてやるほど、僕も優しくない。荷物をまとめて、さっさとここから出ていけ!」
──こうして鍛冶師である俺は、ヴァイン武具屋を解雇されたのだ。
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