第6話 おかしくなった僕の夢

 声をデッカくしてキレる傲慢に対して、ざわざわとした声が聞こえてくる。 


「カッカッカッカ! こりゃ傑作ぜよ! 傲慢極まりすぎてこんな横暴まで許されると思ってるぜよ?」


『許される。誰も我には何もできぬ』


 傲慢っていう位だから相当の自信家みてえだな。しかし、あまりにも勝手すぎる気がするが……。


「待て傲慢の王よ、虚飾の王足りうる思念はこの世界に存在している」


『それは、誠か。ならばなぜ虚飾は選ばれなかった』


「両断されたのでね、参加権を得たまま。半分は世界に、もう半分は人間の体内に残っている」


 真っ黒男の一言は、傲慢の赤い炎を一瞬で黙らせちまった。


『……言葉が……見つからぬ……』


『私にもからくりがわかりましたわ。虚飾の権能は終わりない上書き、だから奪われるはずのデザイアへの参加権を奪われる前に戻し続けてしまう。虚飾がデザイアの開始前に無力化されると、本来選び直されるはずの欲の王が選び直されなくなる不具合が、今更起こってしまったということですわね……』


『それは……前例がないな……』


 あまりにもルールの穴を突いていて、呆れるしかねえや。


「そうだ。だがあくまでも両断で済んでいる故、その思念……いや、魂を再び繋ぎ合わせれば虚飾の王は再び顕現する。」


『そうか……我が戦う理由はまだある、か。よかろう。話に乗ってやる』


「再考、感謝する。それでは、これを以て解散ということでよろしいか」


『よろしくてよ』


『構わぬ』


「うむ! 興が乗ってきたぜよ! 戦いとは、この様なイレギュラーがなければ面白くないぜよ!」


 炎が輝き、肯定の返事が聞こえる。今まで喋らなかった奴の声も聞こえた。だけどそれでも喋らなかったのが暴食と憂鬱。


 特に暴食はディルバンが回しモンつってたのを覚えてる。だから暴食は僕を襲うかもしれねえ。なんでかはわからねえけど。


「ではこれにて、解散。そして、開幕」


 真っ黒男が手を叩いた。その手の音と同時に、炎が強欲以外を残して消えた。


「さて、カナタ、お前ともう一人の無知をお互い見えないように残したわけだが、説明はまだ終わっていない。他の参加者はせっかちだからな。すまない」


「僕の名前、言ったら見えなくても意味ないだろ」


「安心しろ、もう一人にはこの会話すら聞こえていない」


 一体どうやってるんだか。しかし不思議な感覚だぜ。こいつ、話してるとやけに安心するんだよな。


「それでは、お前ともう一人の頭の中に、俺が知る全てのデザイアに関する情報を転送する。気を付けろ」


 真っ黒男が僕の頭に手を置いた。ん? 気を付けろって何をだ?


「情報流入速度が異常すぎて、吐くから」


 言われた通り、頭の中に異常なくらいの情報が流れ込んできて、しっかり吐いた。


「オエッ、ゲボッ、オ゙ォォォォォ!!!!」


「カーッカッカッカ!!!! 無様ぜよ! 無様すぎるぜよ! カーッカッカッカ!!!!」


 笑うな……笑うんじゃねえよ……。


「これで居残りは終わりだ。だけどお前には視る夢があと一つ残ってる。死ぬ程痛いけど……実際死んだ痛みだけど、頑張って耐えろよ」


 死んだ痛み……? まさか、あれか!? 僕が首を切られた、あの!?


「じゃあな」


「待ってくれ! お前は! 僕のこと……」


 その時、目の前は完全に真っ暗になった。次の夢に移るまでの間、僕はずっと流れてきた情報を反芻してた。


 *


欲望と賭命の伝承テールズ・オブ・デザイアとは

・神が人間の体を媒体とし、その力を振るう祭典。勝利したただ一対の神には理想郷への片道切符、人間はあらゆる願いが一つ叶えられる。勝利した神は伝承が世界に刻まれ、それが世界の維持を補足する。そのため、祭典が妨害されることは世界の維持を妨げることであり、人間は本能的にこの祭典を妨げることはできない。

・初めて開かれたのは全ての神が亡んでから50年後、西暦にして1836年、行われた回数は今回を含めて7回

・8対には与えられた欲にまつわるメインの固有能力と、神そのものの伝承にまつわるサブの固有能力が与えられる

・開催に必要な人材は神と人間が8対、戦いを監督する管理者が1人以上必要

・戦いによって起こった周りへの被害は、手段は様々だが管理者によって人間に関して以外は復元される(人間は死んでいない場合は祭典の進行に様々な影響を残すため放置、死んだ場合は戻す手段が現在存在しない。残された人間が影響を与える場合があるため、こちらも放置)。ただしそこを復元することが祭典への影響の失わせる場合は放置。



神、思念体について

・神はかつてこの世界に存在していたが、段々と世界の質が変わっていった事により肉体の維持ができなくなった。今は魂だけの思念体として各地に点在している。神は本来、過ぎたる欲を抱いてはならない崇高な存在であるべきであり、それは肉体を失った今も変わらない。

・八つの枢要罪にまつわる暴食、色欲、強欲、憂鬱、憤怒、虚飾、怠惰、傲慢のうち、一番近い称号とメインの能力が祭典への参加権を得た瞬間与えられる

・仮に選ばれた神が入り込んでいる人間が死んだりして人間の外に出た場合、神が抱いてはいけない程の大きさの欲に罰が下り、存在が抹消される。ただし人間に入り込んでいる間はその限りではない

・神は適性を持った人間のみ媒体とすることができる。神に適合する人間は全人類の中でも一握りであり、さらにその人間も適合できる神とできない神がいるため、媒体を見つけ出すのは至難の業。そのため、外に出た神はほとんどが新たな媒体を見つけ出せずに消える


媒体について

・基本的にこの祭典を知る、叶えたい願いのある人間が神を見つけ出し、その身を媒体として捧げることで神と人間両者が参加権を獲得する。稀に神の方から適合者に勝手に入り込む場合もある。この祭典を知らない媒体が現れるのはこのため。ただし、それができるのは肉体さえ得れば確実に祭典への参加権得られる程の強大な力と自信が必要である。この事例は主に傲慢に多い。


戦いについて

・基本的に固定されたメイン能力と、切り札、初見殺しであるサブ能力、自分の能力を他者に分け与え生み出す眷属を駆使し、媒体を殺害、または神と媒体両方の戦意を喪失させる事が勝利条件

・戦意を喪失させた場合、神と媒体は自動的に勝者側の眷属となるが、神は誇り高く、従うより死を選ぶ者の方が多く、媒体を生かして終わらせるのは至難の業


 以上が、カナタに与えられたデザイアに関する基本情報。


 *


 クソみたいな量の情報だ。こんだけ考えても、まだまだ残ってやがる。頭に色んなことを残したまま、目の前が明るくなる。隣にはアキナがいた。


「カナタ、そろそろお昼にしよう」


 夢の中のアキナは現実と全く同じ様に喋った。僕の片手には服の入った紙袋、アキナの手には食べ物が入ったバッグ。


「うにゃー」


 猫の鳴き声が聞こえた。横を見たら路地裏に黒と白の猫がいた。


「猫……」


 なんとなく歩きを止めてその猫を見た。なんか傷ついてるように見えて、心配だ。


「きゃーーー!!!!」


「おい! なんだあれ!」


 叫び声が聞こえてくる。叫んだ奴らが見てたのは上だった。


「危ねえ!」


 上から降ってくる3本の鉄骨が、僕が止まったことに気づかずに先に進んでいたアキナに向かっていた。


 僕の足は速い。すんでのところでアキナを押し出した。でも、僕は間に合わなかった。


「ガッ!!」


 1本目は右足、2本目は左肩から右脇へ、3本目は、僕の脳天へ突き刺さった。


「カッ……カナ、タ……?」


 恐怖で一杯のアキナの声が僕の耳に届いた。これは……起きたら痛えだろうな……。

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回顧の未来視《プレコグニション》〜色んな奴が僕を殺そうとするけど僕には分かっている〜 居屋鳥亜 @ga6shara

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