魔女

濡花 詩雨

魔女

彼女が魔女だと言うことを知ったのは彼女と付き合ってから

4回目のデートをしたときだ


僕らはいちょう並木をまっすぐに歩いていた

季節は秋の終わりでいちょうの黄色い葉は、彼女の魅力を引き立てた


「わたし、実は魔女なの」


と彼女は言った

なんて返せばいいのか分からなかったので、次の言葉を待った

が、続きはとくにないようだった


彼女は何事もなかったかのように、てくてくと並木道を歩いている

仕方なく僕は質問してみた。


「魔女ということは…つまり何か魔法を使えるってことなんだね」


「魔女だからね」


「どんな魔法を使うんだろう?」


「あなたは知らない方がいいのかも

でもあなたの前で魔法を使った事はあるわ」


彼女は答え、薄いピンク色のピーコートのボタンを外していった

てくてく歩いて暑くなってきたのかもしれない


僕は考えた。ほうきに乗って空を飛んだり?

しかし彼女は相当な運動音痴で、一緒にスケートに行った時も転びまくっていた

                                      

彼女はスカートを履いていたので、下着が見えてしまわないかひやひやした



自分でスケートに行きたいと自分で言い出しておいて、スカートを履き

僕の前で転びまくった                       

あのバランス感覚でほうきに乗るのは無理だ    

僕はハリーポッターのホグワーツ魔法学校で教えていた魔法を思い出した


最初に思い出したのは、エクスペリアームス(武器よ去れ)だったが

日常で武器を持った人に出会う事は滅多にないし、

僕が彼女に包丁を向けた事は今のところない。たぶんこれからもない


あとはどんな魔法があるだろう?


彼女はチェック柄のマフラーを取り、きれいに折りたたんで

ショルダーバッグの中にしまった


オキュラスレパロ (メガネよ直れ)


僕も彼女もメガネをしていない


「何かヒントをくれないかな?」


と僕は言った


「ホグワーツ魔法学校で習う魔法なんかわたしたち魔女は使わないわよ」


と彼女は言った


いちょう並木が終わり、ぼくらは交差点を曲がって静かな住宅街を歩いた

裕福な街なのか、2階建ての立派な家が並んでいる

クリスマスはまだ先なのに、どこの家もイルミネーションの装飾をしていた


彼女は茶色のショートブーツを子気味よくカツカツと音を立て、

リズミカルに僕の横を歩いている


彼女は心配そうに僕の瞳を覗き込んだ。そして少し微笑んだ



ホグワーツ魔法学校の可能性が消えると後はジブリアニメに出てくる魔女のキキがいたが

あの女の子はほうきにまたがって空を飛ぶことしか出来ないはず


「ジブリアニメも関係ない。魔女のキキとか架空の物語は参考にならないかも」

彼女は膝上の台形スカートのベルトを確認し、少し上に引っ張ってから言った


架空の物語は参考にならないという事は、

僕の目の前で何かを起こせるという訳では無いらしい


という事は人の内面に関すること?


そう言えば僕はどうして彼女をデートに誘ったのだろう?

同じ本屋さんの学生アルバイトとして出会い、自然に映画を見にいった

隕石が地球に落ちるのを阻止する映画だ


彼女が使える魔法は自分の事を好きにさせてしまうものだろうか?


「大丈夫。わたしは人の気持ちを操ったりしないわ

勝手に人のことを好きにさせたりとかはできないし

そうじゃなくっても、モラルに反するものね」


そう言った後、


「それにもうあなたの前で魔法を使う事も無いの」


と付け加えた

これ以上あれこれ考えても迷路に迷い込んでしまうだろうし

僕の前で魔法を使う事はもう無いそうなのでそれ以上考えるのをやめた



彼女は今、僕の少し先を歩いていて、彼女の後ろ姿は三つ編みに

青くて大きなリボンがふわふわと揺れている


青いリボンはまるで魔法をかけられたように元気に生きているかのように

そして僕にとってすばらしく魅力的にふわふわと揺れていた


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魔女 濡花 詩雨 @nurekashigure

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