第1話-⑧
燃え盛り、今にも崩れ落ちそうな屋根の上に少女がふたり、立っていた。その顔には石から生まれた仮面がはり付いている。
「なんだぁお前らは」キョウイチは屋根を見上げていった。
次の瞬間には彼の視界からふたりは消えていた。否、空中に飛び上がっていた。キョウイチはワンテンポ遅れて刀を上段に構えた。が、一人はいつの間にか地面に足をつけ、懐へ一撃を食らわそうと膝で弾みをつけていた。
「なっ」
腕が上への防御に回っている状況で出来ることはすくない。キョウイチは刹那の間に考え、顎を引いて背中を丸めた。最善とは言えないが、これで体の中心線への攻撃は防げると踏んだのだ。
その予想は裏切られた。足元でバネのように力をためた少女が繰り出したのは、打撃ではなく足払いだった。完全に直接攻撃が来ると思い込んでいた相手はまんまと策にはまった。
「うぐっ」キョウイチは呻き声をあげた。背中から倒れたからではない。胸の上を足で踏まれたからだ。岩のように重い。とても少女の力とは思えなかった。
彼の胸を踏み押さえていたのはもう一人の方だった。足払いを食らったあと、一瞬で入れ替わっていたのだ。
(敵ながら見事なコンビネーションだが)キョウイチは仰向けのまま刀で胸の上の少女に突きを入れる。避けられるはずもない速度で頭を狙った一撃だったが、人間離れした反射で少女はそれを避けた。その上で刀身を素手で掴んでしまう。
「ありかよ」
掴まれた刀はキョウイチがいくら動かそうともビクともしなかった。仮面の少女は試すようにしばらく彼の好きにさせていたが、最後は手にギリギリと力を込めて、刃もろとも握り砕いてしまった。
「バケモンかよ!ナニモンだお前」キョウイチは叫んだ。
「光の使者」仮面の少女は言葉を発した。と同時に手刀をキョウイチの胸に突き刺した。肋骨をいとも簡単に砕き、彼女の手はキョウイチの心臓を鷲掴みにする。
(ああ、さっきのガキか) キョウイチは最後にそう思った。
刀を砕いたときより容易く、心臓は握り潰された。血飛沫が仮面を汚す。仮面の少女が胸から手を引き抜くと、赤い血が胸の穴から湧いてこぼれた。
「なるほど。領主様が欲しがるわけだ」青銅の仮面を付けたザーレは呟いた。数刻前から様子をうかがっていた彼は、丁度いい所にいた野盗でその力をはかっていた。
顔を隠した少女ふたり。明らかにアレを使っている。ソレを奪うことが、ザーレに課された仕事だった。
烈女ふたり Φland @4th_wiz_u
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