転生悪役令嬢の犬

ヒラヲ

第1話

「レティシア・カルデーラ! 黙ってばかりいないで、何とか言ったらどうなんだ?」


私の名を呼び、大きな声で詰め寄ってくるのは、短く刈り上げた藍色の髪に黒い瞳を持つ男子生徒。

背は見上げる程に高く、その体躯は制服がはち切れんばかりの筋骨隆々さだ。


「カルデーラ嬢。あなたが彼女に嫌がらせをしたことはわかっています。素直に認めたらどうです?」


嫌味ったらしい口調で告げてくるのは、長い深緑の髪を一つに束ね、銀縁の眼鏡をかけた神経質そうな男子生徒。


「大人しそうな顔して、女の嫉妬は怖いなぁ」


楽しそうにクスクス笑うのは、橙髪に焦げ茶色の瞳を持つ、女の子かと見間違うくらいに可愛いらしい顔立ちの男子生徒。


ここは、貴族の子息・息女たちが通う学園の中庭。


放課後、話があると呼び出された私は、突然このように男子生徒三人に詰め寄られ、ほとほと困り果てていた。


周りには大勢の野次馬の生徒たち。

しかし、誰もが興味深そうにこちらを見るだけで、仲裁に入る者はいない。


そして、私に詰め寄る三人の男子生徒の後ろには、緩やかなピンクの長い髪に大きな翠の瞳を持つ、愛らしい小柄な女子生徒が不安気な表情で立っていた。


対する私は、真っ赤な長い髪を二つのおさげに結い、分厚い大きな眼鏡をかけている誰が見ても地味な女子生徒。

学園ではいつも俯きがちなので、背が高くとも猫背がデフォルトだった。


「あの……? 一体何のお話でしょうか?」


彼らが返事をしろと煩いので、仕方なく私はそう答える。

すると、待っていましたと言わんばかりに、彼らは私に対する口撃を再開した。


「婚約者を取られそうになったからって、ララに危害を加えるとは……卑怯だぞ!」

「セドリックが愛想を尽かしたのは、あなたの魅力が無いからでしょう?」

「誰が見たって、セドリックの隣にはあんたよりララのほうが似合ってるよ」


ちなみに、彼らの後ろにいるピンク髪の美少女の名前がララで、私の婚約者であるバートランド公爵子息の名前がセドリックだ。


彼らはララに好意を寄せているはずなのに、恋敵のセドリックとの仲を応援するとは一体どういう心境なのか……。

やはり、これもゲームの強制力だろうか……。


──そう、ここは乙女ゲームの世界である。


ゲームのヒロインはララで、私に口撃をしている男子生徒たちが攻略対象者。

そして、これまた攻略対象者であるセドリックの婚約者で、ヒロインの邪魔をする悪役令嬢がこの私……レティシア・カルデーラである。


なぜ、そんなことを知っているのかというと、私が転生者だからだ。


前世ではしがない地味なアラサーのOLだった。

私自身はゲームに興味はなかったが、妹が聞いてもいないのに延々とお気に入りの乙女ゲームについて力説していた。

そんな妹のおかげで、私はこの世界が乙女ゲームの世界であると気づくことができたのだ。


ただし、実際に私がゲームをプレイした訳では無いので、自分が悪役令嬢であることと、ヒロインや攻略対象者の顔はわかっても、ゲームの詳しい内容まではわからなかった。


わからないのなら仕方が無いと、私は私としてありのままに生きていくことを決める。

十歳になってすぐの頃、初めての顔合わせで婚約者のセドリックに会った時も、私の思うがままに振る舞った。


その結果が、今現在のこれである。


セドリックがララと共に過ごしている姿を、学園内で何度も見かけたことはあった。

だからといって、私は嫉妬に駆られ、可憐で儚げなヒロインを虐めるような趣味はない。


だから彼らが言っていることは、きっと言い掛かりなのだろう。


(それとも、これもゲームの強制力かしら?)


攻略対象たちからの罵詈雑言を聞き流しながらそんなことを考えていると、ずっと無言だったララが彼らの後ろからずいっと前に出てきた。


「レティシア様。あなたが罪を認めて謝って下さるのなら全てを水に流します」


その大きな瞳をうるうると潤ませながら、ララが私に訴えてくる。


「ララは優し過ぎる……」

「全く、君のそういうところが放っておけない」

「ほんと、ララは甘いんだからぁ」


彼女の言葉を聞いた攻略対象たちも、各々で盛り上がっている。

そんな中、ララは私に向けて言葉を続けた。


「だけど、セドリック様のことは……あなたから解放してあげて欲しいの!」


胸の前で両手をきつく握り締めながら、そう強く言い切ったララは、ついにその大きな瞳からポロポロと涙を零す。


いろいろ思うところはあるが、とりあえずララの訴えに耳を傾けることにした。


「えっと……それはつまり、セドリックとの婚約を解消しろという意味でしょうか?」

「彼はとても優しい人よ。だから、あなたから受けた嫌がらせの数々を相談しても、怒りに満ちた顔をしながら何も言わずに耐えているの」

「…………」


しかし、質問に対して明確な答えがもらえない。


「セドリックが私に怒っているから、婚約解消をしてほしいってことですか?」

「政略結婚は家同士の約束だから。彼は責任感のある人だもの……自分からそんなことは言えない。でも、私にはわかる!」

「…………」


やはり、質問に対して答えにならない台詞が返ってくる。


「セドリックは婚約解消をしたがっているけれど自分からは言えないので、私から婚約解消を願えばいいんですか?」

「だから、私にした仕打ちを少しでも悪いと思う気持ちがあるのなら、あなたから彼を解放してあげて!」

「…………」


微妙に噛み合わない質疑応答と、結局同じ内容を繰り返すヒロインに若干苛ついてくる。


(もう面倒だわ……)


彼らを相手にするのにもそろそろ飽きてきた。


これが前世の妹が言っていた断罪イベントというものなら、私が罪を認めれば退学なり追放なりで貴族というしがらみから解放されるのかもしれない。


正直なところ、前世とは違う貴族令嬢という自分の立場に不自由さを感じていた。


(このまま追放されて平民として暮らすほうが自由で楽しいのかも……。それなら婚約解消したほうが……)


ゲームの強制力に乗っかろうかと前向きに考え始めた時、私たちを遠巻きに眺めている野次馬の輪が割れ、一人の男子生徒が姿を現す。


柔らかな金髪に明るい空色の瞳、すっと通った鼻梁に白磁のような肌、背は高く手足がすらりと伸びていて見惚れてしまうほど綺麗な男性……。


そう、彼こそが私の婚約者であるセドリックだ。


「こんなところで一体何をしているんだ?」


不機嫌そうに眉根を寄せながら、セドリックはこちらへやって来る。

私とヒロインたちの姿を見ると、さらに不機嫌さに拍車がかかったようで、眉間のシワが凄い。


「セドリック様!」


そんな彼の不機嫌さをものともせず、ララはセドリックに駆け寄る。


「ララ、これはどういうこと?」

「実は……今までレティシア様から受けていた嫌がらせについてお話をしていたんです」

「嫌がらせって……ララが僕に言っていた、あのこと?」

「はい!」


私から受けた嫌がらせについて、ララはセドリックに相談をしていたらしい。

だが、私はセドリックからそのような話は何も聞かされていなかった……。


改めてその事実を突き付けられ、私はさらなる苛立ちを覚える。


「それで? 彼女は何と……?」

「今からレティシア様に謝っていただくところでした」

「レティシアが認めたというのか?」


空色の瞳を大きく見開くセドリック。


「婚約者のことを信じたいセドリック様のお気持ちもわかります。でも、ここで罪をはっきりさせないとレティシア様のためにならないと思うんです!」

「…………」


ララの言葉を聞いたセドリックは、その顔を苦しげに歪ませた。


攻略対象者が全員揃い、ヒロインは彼らを味方に付けて悪役令嬢と対峙する。

どうやら、これが断罪イベントで間違いないようだ。


私と向かい合うセドリック。

そんな彼の隣に自然とララが並び立つ。


しかし、よく見るとララの口元は微妙に緩み、今から始まるであろう断罪イベントのクライマックスに向けて顔がニヤけてしまっている。

対して、セドリックの表情は憎々しげに歪み、その瞳には怒りが満ちていた。


「あなたと出会ってから、あなたのよき婚約者であるよう僕は努力を重ねてきたつもりだ。それなのに、そんな僕の想いを裏切り、ララに嫌がらせをするなんて……」


そこにララが口を挟む。


「きっとレティシア様は嫉妬に駆られてこんな愚かな真似を……。どうか許してあげて!」

「許す? レティシアがララをいじめたなんて……許せるわけがないだろう!」


怒りのままにセドリックは叫ぶ。


「レティシア!」


セドリックは私の目を真っ直ぐに見据えると、一歩前に出て右腕を伸ばし、その人差し指を……ララに向ける。


「どうして、こんな女をいじめるのですか? レティシアがいじめるのは僕だけだと仰ったじゃないですかっっ!!」


セドリックの怒りに任せた魂の叫びに、ララはおろか、他の攻略対象者や周りの野次馬たちもが、ポカンと口を開けた。


しかし、当のセドリックはそんなことはお構いなしに、ララを指差したまま怒りの主張を続ける。


「この女に、レティシアからいじめられたと聞かされた時の僕の気持ち……あなたにわかりますか?」

「…………」

「この女は……いつも、いつも、レティシアからどんな風にいじめられたのかを自慢気に話してくるんですよ?」


セドリックは怒りのあまり、怒鳴りながらも涙目になっている。


「声が大きいわよ。駄犬」


私がそう吐き捨てると、セドリックは嬉しそうに目を輝かせた。


「私はララさんをいじめたりしていないわ」

「そうですか! やはり、そうでしたか!」

「当たり前でしょ?」

「わかってはいたのですが……レティシアの口から直接聞きたかったのです」


さっきまでの怒りは何処へやら、セドリックは満足気にうんうんと頷いている。


「せ、セドリック様? あの、何を言っておられるのですか?」


そんな私たちのやり取りに、我に返ったララが口を挟んだ。

私との楽しい会話を邪魔されたセドリックは、またも不機嫌そうに眉間のシワを深く刻む。


「うるさい! ララ。お前の狙いはわかっているんだからな?」

「え……? 狙い?」


ララがギクリと肩を揺らす。


「お前は『どうしてあんな格好をしてるのよ!』と言いながら、ずっとレティシアのことを調べ回っていたじゃないか」

「………っ!」


どうやら、ララは私のあずかり知らぬところで、私のことを調べていたらしい。


(あら? 私のこの姿に疑問を持つということは……もしかしてララも転生者なのかしら?)


そのまま黙り込むララに、セドリックは言葉を続ける。


「それからはレティシアの婚約者である僕に何度も接触し、レティシアからこんな風にいじめられた、あんな風にいじめられたと僕にマウントを取る日々……」

「え? マウント?」

「さすがの僕も気づくよ。ああ、この女は僕を押し退けてレティシアの犬になりたいんだな……って」

「はあ?」


全くもって意味がわからないと、ララの表情が物語っている。


「お前もレティシアの犬になりたいんだろう?」

「そんなはずないじゃない!」


セドリックのドヤ顔と確信に満ちた台詞に、ララが怒りに任せて反論の言葉を叫んだ。


すると、そこに攻略対象者の一人……深緑の髪にメガネの男が口を挟む。


「ララはレティシアから様々な嫌がらせを受けて傷ついていたのです。それなのにレティシアを慕うはずがないでしょう?」


至極真っ当な意見なのだが、それをセドリックは鼻で笑った。


「その嫌がらせが本当にあったことならな」

「どういうことです?」

「この女が言っていたレティシアからの嫌がらせを調べたら、そのほとんどが自作自演だということがわかった。まあ、中には本当に嫌がらせをされたこともあったようだが、それはレティシアじゃない他の生徒がやったものだ」

「なっ!?」


メガネは驚いて目を見開いている。


「そ、そんなの嘘よ!」


ララは慌てて否定の言葉を口にしたが、セドリックは止まらない。


「嘘じゃないさ。ずっとお前のことを側で見張っていたんだからな。すでに証拠も揃えて学園長に提出済みだ」

「そ、そんな……。ずっと私の側に居てくれたのは私のことが好きだからじゃ……?」

「そんなはずがないだろう? お前のことは、レティシアの犬になりたいがために愚かな真似をする女だとしか思っていない。どうせレティシアに構われたかったのだろうが……残念だったな。レティシアが構うのは、この僕だけだ」


セドリックが自慢気な顔でそう告げると、ララはその場にへなへなと座り込んでしまった。


「…………」


あまりにも私だけが蚊帳の外で、ちょっとだけ面白くない。

それに、セドリックがララとのあれこれを私に隠していたという事実がさらに面白くない。


(これはちょっとお仕置きが必要かしら?)


そう考えた私は、ゆっくりと口を開く。


「あら、先程ララさんに『セドリックは婚約を解消したがっている』と聞いたのだけれど?」

「はあ!?」


急に口を挟んだ私の方向に、セドリックは首をグルッと向けて驚愕の表情を見せる。


「ララさんはセドリックの気持ちがよくわかっているそうよ? 今まで気づかなくてごめんなさいね」

「何を言っているんですか! そんなものはレティシアの犬になるための、あの女の妄言です!」

「婚約解消をするのなら、あなたとの約束も守らなくていいわよね?」

「ちょ、待って下さい! ダメです!」


セドリックの制止も聞かずに、私は結っていた三つ編みを解き、分厚いメガネを外す。

そして真っ赤な長い髪をかきあげ、背すじを伸ばし、ゆっくりと微笑んでみせた。


そこには、妖艶な色気をたたえた美女が現れる。


野次馬の生徒たちだけではなく、攻略対象者の三人もそんな私を見て顔を赤らめていた。

ララだけは驚くこともなく、恨めしそうな目でこちらを睨んでいたが……。


──そう、ヒロインのライバルである悪役令嬢が地味であるはずがないのだ。


素の姿のまま学園に通うと犬志望のやからが寄ってくるからと、セドリックに泣いて頼まれ、仕方なくあのような姿をしていただけだった。


「ああ、レティシア! その姿を見せちゃダメです!」


セドリックが涙目で取り乱している。


(ふふっ、やっぱりセドリックはこの顔のほうが可愛いわね……)


私は心の内で満足気にほくそ笑んだ。



◇◇◇◇◇◇



前世での私はしがない地味なOLだったが、あまり大きな声では言えない性癖を持っていた。


だが、例え特殊なへきでも、需要があれば供給があるように世の中はうまくできていて、それなりに気の合うパートナーを見つけては発散していた。


しかし、転生してきたこの世界は男尊女卑が横行し、ネットもなく娯楽も少ない。

しかも貴族令嬢だなんて、行動や出会う相手すらも制限される立場。


こんな世界でどうやってパートナーを見つけろというのか……。


溜めに溜めたこのフラストレーションを発散する場の無さに、私は絶望していた。


そんな時、親同士によって婚約が決まり、その初顔合わせの場が設けられる。

初めて会った婚約者のセドリックは、私を見下す傲慢さに満ちたワガママなクソガキだった。


「おい! 聞いているのか?」


クソガキ様が喚いている。


「この僕が庭園を案内してやると言っているんだ。さっさと来いっ!」


そう言うと、セドリックは私の手を強い力でぐいぐい引っ張っていく。


悪役令嬢だからって、何が悲しくてこんなクソガキの相手をしなくてはならないのか……。


その時、ふと、あることを思いつく。


前世では、自身のへきをすでに理解している相手としか出会ったことがなかった。

しかし、ネットのないこの世界でそのような相手と出会うのは至難の技のように思える。


──だったら、私好みのへきを持つように育ててみるのはどうだろうか?


私の手を無理矢理引っ張りながら、庭園の奥へと向かう婚約者の横顔をじっと見つめる……。

そして庭園の奥に着き、二人きりになったことを確認してから、私はセドリックに上下関係をしっかりと叩き込む。


まさか、見下していた婚約者からこんな仕打ちを受けるとは夢にも思わなかったのだろう。

セドリックは恐怖と屈辱で涙と鼻水まみれになっていた。


「うふふっ、さっきの威張り散らしていたあなたより、今の無様ぶざまなあなたのほうがとっても素敵だわ」

「ば、馬鹿にするな!」

「あら、馬鹿になんてしていないわ。今のあなたのほうが私好みで可愛いもの」

「なっ………!」


公爵家の嫡男として厳しく育てられた反動なのか、それとも元々素質があったのか、はたまた私の調きょ……もとい、教育が良かったのか……。

それから何年もかけてセドリックは私好みの立派な犬になっていった。



◇◇◇◇◇◇



「ララさんとのあれこれを私に隠していた罰よ。全てを飼い主にさらけ出さない犬なんていらないわ」

「ち、違うんです! ララに興味を持って欲しくなかっただけで……」


そう言ってセドリックはしゅんと項垂れている。


そんな私たちの楽しい会話に、今度はオレンジの髪の可愛らしい攻略対象者が口を挟む。


「ねぇ、本当に君がララに嫌がらせをしたんじゃないの?」


どうやら、悪役令嬢らしくなった今の私を見てまた不安になったようだ。


「ええ。そんなことはしていないわ」

「でも……」

「だって私、ララさんは好みのタイプじゃないもの」

「…………」


そうはっきりと告げる。

可憐で儚げなララのようなタイプはあまり好みではない。


「そうね、ララさんなんかよりも……」


攻略対象者の一人、藍色の髪を短く刈り上げた筋骨隆々な男子生徒に私は目を留める。

そして、上から下までジットリとその体躯を視線で舐め回す。


(こんなにいい筋肉の男が四つん這いになる姿もなかなか素敵よね……)


私の視線の意味に気づいた筋肉男が顔を真っ赤にした。

その様子に気づいたセドリックが、敵意を剥き出しにする。


「レティシア、ダメです! こっちを見て下さい」


セドリックが私の前に立ち、筋肉への視線を遮った。

どんな色の首輪が似合うかまで考えていたのに……。


「そうだ、レティシア。久し振りに我が家に寄りませんか? 庭師が花を植え替えたので一緒に庭園を散歩しましょう」

「でも、今日はリードを持って来ていないわよ?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと僕が自分で用意してありますから」

「あら、そんなに一緒にお散歩したかったの? ふふっ、可愛いわ」


私がセドリックの頭を撫でると、彼はうっとりと目を細めた。


そんな私たちをドン引きしたように見つめる野次馬たち……。


しかし、私は見逃さなかった。

そんな野次馬の中に、私たちのやり取りを熱の籠もった目で見つめる視線がいくつかあることを。


(素質のありそうな子がこの学園にもいるのね)


てっきり、貴族には自分のような性質の人間はいないのだと思っていた。

だから、断罪イベントで平民になったほうが、自由にパートナーを探しやすいのではと考えていたのだが……。


(よくよく考えてみたら、ゲームとはいえ貴族だろうが平民だろうが中身は同じ人間なのよね)


身分という皮を剥いでしまえば、皆が何かしらの欲望を抱えたただの動物だ。


(さっきのアレも、結局断罪イベントじゃなかったのよね? やっぱり卒業パーティーが断罪イベント本番なのかしら?)


前世の妹から聞いた話では、断罪イベントは卒業パーティーで行われていることが多かった。

つまり、断罪まであと一年以上は猶予がある。

それまでは、この学園で色々楽しむのもアリなのかもしれない。


そんなことを考えていると、やけに勘のいい愛犬が自分を構えとキャンキャン吠えてくる。


私はセドリックの頭を再び撫で、前世では叶えられなかった夢の多頭飼いに向けて歩みだした。


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