第6話 動き出す歯車

俺は次の日、病院へ行った。

初めて行く系統の病院だったためいろいろと調べて決めた。


受付で問診票をもらい記入していく。

体の不調についての項目で思い当たる節しかないことに憂鬱さを感じた。


平日の午前中だったが、意外と空いているようですぐに名前が呼ばれた。


医師と話をしながら診察をしていく。

俺を担当してくれた先生は、穏やかそうな背の小さいおばあちゃん先生だった。

ご飯は食べられているかや睡眠はどうかなど聞かれ、ありのままを話していく。

最後医師から


「ほかに気になる点はありませんか?」


と言われたところで俺は奥さんの言葉を思い出していた。


「…大人でも知能検査?心理検査?…ってできますか?」


医師は、にこやかに


「できますよ。明日以降準備でき次第進めていきましょうか。」


と話してくれた。

これは、会社に提出するものではないが。

不安感はあったが、

自分の生きづらさの答えを得られる気がした。


一通り医師と話し終えた後、カウンセラーと話をする。


「あなたのこれまでを教えていただけますか?」


物腰の柔らかな若い男性が担当だった。

俺は話をしながら泣いていた。

つらさをどこにも吐き出せないまま過ごしていた。

これが日常となっていた…

全てを吐き出してしまっていた。


カウンセラーとの話が終わり、待合室で待っていると

また名前が呼ばれた。

初めに話をした医師のいる部屋に通された。


医師はゆっくりと語り始めた。


「あなたの今の状態は、

 鬱による適応障害。

 その他症状がおきている状態にあります。

 今後のことですが、週に1〜2回通院をしてください。

 通院日については受付や電話にて予約を入れてください。

 そして、今の状態での無理はよくないので、無理だと感じたらすぐに休んでください。

 投薬治療も考えていますが、どうしましょうか?」


俺は、話を聞きながら自分の事でないような感覚に陥っていた。

聞いたことのある病名…まさか俺が…


「…わかりました。投薬治療は少し待ってください…」


とは言ったが、とても上の空で現状を受け入れるのに時間がかかった。

病院に行ったとはいえ、疲れですね。

休んでください。と言われて帰されると思っていた。

昨日、部長が診断書を取ってきて。と言っていたのは、俺が心身ともに疲弊している証拠が欲しいというだけじゃなかった…

俺は、周りから見ても様子がおかしかったんだ…


「…診断書…いただけますか?」


医師は、俺を落ち着かせるように笑顔を見せた。


「大丈夫ですよ。

 待合室でお待ち下さいね。」


俺は、待合室のソファーに座った。

ゆったりと体の重みに合わせて沈むタイプのソファーだった。

はぁ…急に眠くなってきた。

仕事初めてから今まで、気を抜けずにいた事をしみじみかみしめた。

あの頃。ほんと。おかしかったんだな…

俺は、天上を見上げた。

特に何かあるわけでもない天上を見つめていたら受付から名前を呼ばれた。


支払いを済ませ、診断書を受け取った。

病院を出たあと、部長の個人スマホに連絡を入れた。

3コール目で電話に出てくれた。

俺は手短に用件を伝えた。


「…部長。診断書。受け取りました。」


部長は、すぐには返事をしなかった。

いっとき待ったあと返事が返ってきた。


「…すまない。了解した。明日まで休んで次の日から来れるかな。今後のシフトについて話があるから。」


「わかりました。」


俺は、部長の電話が切れるのを待ってから電話を切った。

車に乗り込み、大きく息を吐いた。

座席に体を預けて目からボタボタと落ちる雫をそのままにして気持ちが落ち着くのを待った。


…俺は…こんなになるまで何してたんだよ…


俺はわけもわからないまま泣いた。

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別に死んでもないし転生もしてないけどいっぺん死んだと思って人生やり直します。 @wataru-kaiki

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