私とあなたが愛し合ってできた子が私だったなんて思ってもみなかった。
専業プウタ
第1話
私とあなたが愛し合ってできた子が私だったなんて思っても見なかった。
私、フローラはずっと大好きだったケント・モンステラ侯爵と結ばれて待望の赤ちゃんをもうけた。
出産と同時に私は死んだ。
私が産んだマリア・モンステラが私の人格を引き継いだ。
あれから、7年ケントは私のことが忘れられず、誰とも会おうとせず家に引きこもっている。
私は私を失ったケントの絶望に、これほど愛されていたのかと最初こそ感動した。
しかし、全く彼の心が回復しないのに気がつき今ではありとあらゆる手段で彼の心を呼び覚まそうとしている。
現在、彼の娘となった私に彼は全く興味がなく、私の面影があるせい顔を見ると辛くなるのか避けてさえいる。
「お父様、今日は彼氏ができたので紹介しようと思います。ジョナサン・バーグ公子です」
今日は、娘が彼氏を家に連れてきたという設定でケントの興味を引こうと思った。
「そうですか、それは良かったですね⋯⋯」
7歳という幼い娘が彼氏などを連れてきたのに全く興味がないようだ。
それは良かったというより、どうでも良いというのが正解だろう。
「マリアを愛しています。結婚をお許しください」
同じ年のジョナサンは私の友人に過ぎないが、私が父の興味を引くために彼氏の演技をして欲しいと言うと快く引き受けてくれた。
しかも、本当に娘に興味がないケントを見て、私を哀れに思ったのか結婚の申し込みという刺激的なことまで言ってくれている。
「そうでしたか、私はすることがあるので部屋に戻ります」
ケントはジョナサンを一瞥だけすると、部屋に戻ってしまった。
彼は広く事業をやっていたけれど、この7年はほとんど下の人間に仕事を任せている。
部屋で一体何をしているというのだ。
娘という立場だと彼の部屋に入れないので不安になる。
もし、私を追って命を絶つ方法を探しているのなら、頭がおかしくなったと思われても今の状況を説明したい。
「マリア、ごめんな。なんの役にも立たなくて。お前の母上が深く愛されていた証拠だから元気出せよ。素敵な夫婦愛じゃないか⋯⋯」
私を慰めるように言ってくるジョナサンの言葉に私は罪悪感が込み上げてくる。
彼に彼氏役を頼んだのは、彼が私に気があることを知っていたからだ。
しかし、27歳で亡くなった私が7歳の彼を好きになることはありえない。
「おかしな演劇につきあわせてしまって申し訳なかったわ。まあ、父親に干渉され過ぎても困るから自由だと思って今を謳歌するから安心して」
私はジョナサンに精一杯明るく言った。
私はケントが今、娘である私に興味があろうと、無かろうとどちらでも良い。
ただ、彼には以前の彼を取り戻して欲しいだけだ。
このまま彼は死ぬまで彼は私を引きずり部屋に引き篭もるつもりなのだろうか。
「マリアのお父上、部屋で召喚術の研究でもしているんじゃないのか? お前の母上を蘇らせるためにさ」
ジョナサンの言葉に背筋が凍る。
そのようなことはできるはずがないけれど、彼の妻だった私が娘になっているこの状況はもっと信じられない。
それならば死人を蘇らせることもできてしまうのではないだろうか。
その時、今の私マリアはどうなるのだ。
今度は娘としての私が死ぬことになるのではないだろうか。
「ごめん、変なこと言った。泣くなよ、マリア⋯⋯」
ジョナサンが慌てて、私の頬をつたう涙を手で拭ってくる。
「私のお父様ってカッコ良いでしょ。昔はかなりモテたらしいのよ。きっと、今だってモテるわ。新しいお母様がきて欲しいなんてこと考えることもあるの」
彼は引きこもってはいるが、下のものに事業の運営を任せているだけで高収入だ。
その上、このモンステラ侯爵家は国一番の資産家であることは有名だ。
だから、妻を失った彼が外にさえ出れば、彼に寄ってくる女性はいるはずだ。
私だけを思い続けてくれていることは嬉しいけれど、彼には立ち直って欲しい。
「マリア、寂しいよな。モンステラ侯爵がすごいモテた話は俺も知っているぞ。俺たちでマリアの母親候補を侯爵に斡旋してみないか。俺、結構心当たりあるかも⋯⋯」
ジョナサンが彼の翡翠色の瞳を輝かせて明るい声で言ってきた。
ケントに別の愛する人ができるなんて、本当は絶対に嫌だ。
でも、このまま残りの長い人生を彼が私を想うだけで無駄にするのはもっと嫌だと思った。
私とあなたが愛し合ってできた子が私だったなんて思ってもみなかった。 専業プウタ @RIHIRO2023
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます