15歳の初恋

専業プウタ

第1話

 ずっとあなたに会いたかった。

 鈴木太郎⋯⋯私の初恋の人。


 30歳を迎えた日、中学校の同窓会の案内が届いて私は会場へと向かった。

 鈴木太郎は2人いた。


 私の初恋の人⋯⋯背が高く足が速い鈴木太郎。

 彼は同窓会には来なかった。


 そこにいたのは、もう1人の鈴木太郎。

 高身長の私からは許せないレベルの身長にだらしのない体。

 中学の時から、目立たぬモブだった。


「未夢ちゃん。本当に、ずっと綺麗だね」

 私が存在さえ忘れていた鈴木太郎は私に頬を染めて近づいてくる。


 昔は虐められていた彼がなぜか今は周囲の注目の的。

 IT分野で成功をし、時代の寵児となっていた。


(今なら、少しは相手してやっても良いか⋯⋯)


「太郎君、今ならあなたと付き合って良いかも」

 私も三十路でそろそろ落ち着こうと精一杯の譲歩で言った言葉だった。

「ごめん⋯⋯君レベルの女、相手にする程落ちぶれているつもりはないから」


 一瞬聞き違えたかと思った彼の言葉。

 周囲を見回すと周りは私を嘲笑していた。

 私はその場にいられなくなり、外に出た。


 外はバケツをひっくり返したような土砂降り。

 地面にできた水たまりで自分の顔を見る。


 30歳とは思えぬ美しさ。

 整形も加工もしていないのに私はまだ美人だった。


「未夢ちゃん? 相変わらず綺麗だね。俺のこと、覚えている? 鈴木太郎⋯⋯俺たちって理想のカップルって言われてたよね」

 頭の上からくぐもった声が聞こえて頭を上げる。


「鈴木君なの?」

 思わず出た声が震えた。


 力士でもないのに、動きずらそうな風船のように膨らんだ体。

 顔は吹き出物だらけで、月のクレーター状態。

 スウェット姿で、ニート丸出し。


 彼は学年で1番足が速くて、クラスのほぼ全員の女子が惚れた鈴木太郎だ。

(ヤバい! ほとんど面影ない、化け物じゃん!)


「あんたと私が理想? 鏡見ろよ! ニートでしょ! 終わってるじゃん。私と釣り合うと思ってるの?」

「お前は変わんねーな。お前も終わってるんだよ。馬鹿にすんじゃねーぞ!」


 私は気がつけば、ずっと会いたかった初恋の鈴木太郎に首を絞められていた。

 15歳の初恋⋯⋯そこからの時を、変わらず過去の栄光を糧に過ごした私たちはそっくりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

15歳の初恋 専業プウタ @RIHIRO2023

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画