特別編 急展開!糞ジジイと糞ババアの同棲日記。ケンジを添えて。「臨場感を出す為に句読点少な目、台詞多めです。」
「クックックッ!」のタカハシ。
「ウフフフフフ!」のフサエ。
「アハハハハハ!」のケンジ。
もうタカハシは此処で一体何杯の珈琲を飲んだのだろうか?あの空白の“四十五分”の時空の隙間に何度も此処を訪れては、フサエと共に穏やかな時間を過ごしたタカハシ。この頃になるとスッカリ二人共に、片仮名で描いた様なギコチナサも無くなり、漢字で描いた様な“大人”の落ち着いた関係になって居た。性的関係を除いて。淡い恋心をフサエに抱くタカハシが座る窓際の定番席、第三話に登場した喫茶店『喫茶 人生の分かれ道』。タカハシが何時も座るのは此の席。お店の料理も、胃腸薬を御供に御品書きの上から下まで、順番に全てを制覇。好き嫌いが激しい男と思われたく無かったタカハシ。
初めはフサエの淹れる珈琲を目当てで通ったタカハシだが、何時の間にか気になる対象はフサエに代わり、そしてフサエの連れ子で在るケンジに取って代わった。二人の過去がチト気になるタカハシで在るが、自分からは野暮な質問などしない漢心、紳士のタカハシ。
「ハハハ、フサエさん。事の顛末は本当で在れば、前回のゴウタ君とアツコさんは未だ死ぬ予定では無かったんじゃ。じゃが彼ら登場人物のクセして、自分達の『意識』が芽生えて来てしまったんじゃな、作者に無断で無理心中してしまった。本来のワシは次の現場に向かう回..それが作者の苦肉の策でワシを急に此処に置いたんじゃ。まぁ然し、急に予告も無しに登場人物が死んでしまったら、作者も大変ですわな..」
「タカハシさん..私とケンジも本当で在れば、今日はお店など開けずに、今頃は新居探しをして居た筈でしたの。でも作者の急な御願いで..流石にお断りする何て酷な事は出来ませんわ、私達も取り急ぎ身支度を整えて、タクシーで此方に馳せ参じたトコロでしたの。」
「..ん?あ、あのぉフサエさん?今、貴女..住む所を探して居ると仰いましたかのォ?」
「エぇ、タカハシさん。私とケンジ、今月一杯で今の住居から退去しなければいけなくなってしまって..。ですから今日も、本当なら呑気に営業なんてして居る場合では無かったんですけど..」
「フゥゥん..一体どんな理由で、急に家を出なくてはいけなくなったんじゃ?」
「ハイ..作者の勝手な都合だと思います。」
(これは作者からの今回の罪滅ぼし、埋め合わせだとワシは勝手に考える..今しか無いじゃろ、チャンスじゃて..)
「あ、あのぉ..フサエさん?如何じゃ、若し貴女達が良ければじゃが、ワシのアパートに一緒に住んでみては..?っも、勿論、部屋は別々ですじゃ!家賃だってホラ![#「!」は縦中横]そのぉ..」
(嗚呼..美しいのォ、今回の為に至急に拵えた化粧と、急いで結った黒髪..綺麗じゃて、溜め息が出る程じゃ..。貴女、フサエさんは別にそんな装いなどせんとも其の儘で充分。何とも美しい女性じゃ..言ってしまったわいコノ糞ジジイ、こんなワシの想いなどドウセ玉砕してしまうじゃろ..)
始めタカハシはフサエの両眼を直視して告白したが、ヤハリ気まずさと恥ずかしさが込み上げてしまい、視線をツイツイ珈琲が入って居る珈琲カップの中に移す。漆黒色の珈琲の表面が困惑して居るタカハシの表情を映し出す。飲みたくも無い珈琲を時間稼ぎの為に、右手で珈琲カップを持ち上げて、ユックリと口に含んだ。珈琲カップの中に映るタカハシの顔面が、振動と共に揺れる。フサエには自分の緊張が絶対にバレない様、何とか右腕の震えは抑えたつもりだが、恐らくバレて居る事だろう。
「..タ、カハシさん..? 宜しいんですの?」
フサエの此の台詞を、タカハシは視線が未だ珈琲カップの中の珈琲に注がれて居た時に聞いた。其の時のタカハシの『意識』は姑息な自己逃避で、珈琲カップの漆黒の“珈琲湖”の真ん中辺りに自分を置いて居た。一人乗りのボートの中で寝そべり、空を眺めて居る分身のタカハシ。其の分身タカハシの視線の先には実在するタカハシの顔面。タカハシの右の鼻穴から鼻毛が二本見えた。自信無さ気なタカハシの青白い表情、ブルームーンタカハシ。顔面がプルプルと震えて居るのが、ボートの中の分身タカハシにも取って分かる程。本家タカハシが全く予想をして居なかったフサエからの返答。驚いたタカハシ。だが矢張りフサエの顔を見るのが怖い。だが今の彼女の真意を確かめる為には、自身の肉眼で勇気を持って彼女の顔、表情を確認する必要が在る。地球の重力がコレ程までに重いと思った事が無いタカハシ。彼女の想いを確認する為に重い頭を少しずつ上げて行くタカハシ、気持ちも重い。冗談では無かろうか..?
(..フサエさんの顔が紅潮しとる..)
フサエの顔が赤らんで見えたタカハシ、思わず窓の外を見て見た。この時間帯、夕暮れ時と表現するにはチト未だ時間は早過ぎた。
「コクリ..」フサエは恥ずかし気に頷く。
「エエ..えぇ、ハイっ勿論!フサエさんとケンジ君が宜しければ、ワシの方は一向に構いませんじゃ!オォそうじゃそうじゃ!引っ越しの方もワシが責任を持ってお手伝いさせて頂きますから、まぁ任せて下さい!この糞ジジイ、未だ未だ其処いら辺のジジイには負けませんて!」
「プっ!ウフフ..あの..タカハシさん? デハこれから私達、其方に御世話になります。本当に宜しいんですの?」
「勿論じゃて!」
タカハシの台詞を聞き終えたフサエが、タカハシに向かって深々と頭を下げた。其れを見たタカハシ、フサエが下げた以上に自身も頭を豪快に下げてしまった。見事、額が目の前の席に在る珈琲カップに直撃。珈琲カップは真っ二つに割れ、勿論タカハシの額も切れて致死量の流血。其れを見たフサエは、今迄にタカハシが見た事も無い位に慌てふためいた。額から激しく流血して居るタカハシは、このフサエの様を見て、初めて『幸福』と云う感情を長い人生生活で学んだ気がした。胸が熱く火照り、気分がとても高揚した心地良い感じ。老人世界で喩えると、藪医者から貰った沢山の不必要な処方箋を致死量飲んだ感じか?そんなタカハシは未だ医者知らずだが。
(何じゃか最高の気分じゃて..フハハ..)
タカハシの記憶はソコで途絶えた。
「タカハシさんッ!?しっかりしてぇ!」
次の瞬間タカハシが眼を覚ますと、其処は病室。タカハシはベッドの上。タカハシの天井を見据えた目線上には、心配そうな表情のフサエとケンジ。
(嗚呼、あれは夢では無かったのじゃな..)
一安心したタカハシ、眼を閉じて又落ちた。
数日して無事に退院したタカハシ、『アパルトメントヘブン』の全部屋の玄関に張り紙をして廻った。『アパルトメントヘブン』にて自殺行為が収まるキッカケとなるか?
『アパルトメントヘブンの各方々へ。
注意事項: 本日仏滅より、永遠に自殺行為を此処では一切禁ずる。
管理人件大家 タカハシ』
この張り紙をした動機は極めて不純。折角の擬似同棲生活を、住人達の自殺によって邪魔をされたく無いとのタカハシの想いからだ。そしてコノ日以降、新しい住人も入れるのを止めた。其れは物語の終焉が近い事も意味するのは此処だけの話。
物語の中盤過ぎて、其れ迄は鉄仮面だったタカハシの内面に人間の心が住み着く様になった。今日現在『アパルトメントヘブン』に残る住人は、一〇一号室の住人モリタ。そして、一〇三号室の住人キミエを残すのみ。
自ら喫茶店を営むフサエ、普段、店で着る洋服も、毎日同じや、似た様な内容の服を着たくないと云う女心からやって来る膨大な数の洋服や着物。一階の一〇二号室をタカハシはフサエの衣装部屋にした。活字にすると、厄介な衣装持ちの糞ババアみたく捉えられるかも知れないが、女性は何歳になっても女性。何時までも廻りから美しく見られたい。店は疎か、私生活でも必ず小綺麗な格好を貫くフサエ。背筋も伸びて居て姿勢も良い。実際タカハシは、日々衣装を変えては気を決して抜かないフサエを見詰めては溜め息、鼻の下が伸び、大安の日が伸び伸びと続く事になる。
二階、空室の二〇一号室と二〇二号室は、壁をブチ抜いて一部屋の大きな部屋に変えた。其の理由はケンジに在った。彼は常にフサエの愛が必要で、独りぼっちにはさせては置けない性質を持つ。吃りが酷くて極度の顔見知り。沢山に同時な事を出来ないが、フサエに与えられた一つの事が嵌まると神業を発揮するケンジ。フサエ以外の事は絶対に聞かない。この様に彼を表現すると、読者の皆さんも大体のケンジ像が掴めたのでは?因みにケンジはタカハシには非常に懐いて居る。恐らくはタカハシが偽善者では無いからだろう。ケンジは心が繊細で、人間の持つ波動にとても敏感に反応する聖者。タカハシは合格の様だ。
部屋の畳は全て新品に張り替えられ、唯一の玄関、二〇三号室の戸を開けたフサエ。其の瞬間、彼女の鼻腔に入り込んで来た畳の新鮮な井草の芳ばしい香り。新生活に相応しい匂い。フサエは暫くの間、玄関先で立ち止まり、両眼を瞑って其の香りを愉しんだ。流石は美味しいコーヒーを淹れる才能を持つフサエ、鼻でモノと会話する事が出来る稀な能力の持ち主。タカハシが二階の三部屋をブチ抜いた事をフサエは知らない。他の二部屋の玄関は閉じて、台所と厠は畳に変えた。間取りと云うと巨大な一DK。
「素敵!素敵なお部屋..タカハシさん、今回は本当に有難う御座います..何だか私、お店のお客様とコノ様な関係になってしまうだなんて..恥ずかしいですわ..」
フサエの顔が赤らむと同時にタカハシの頬も赤らむ。ケンジは無表情。
「さあさあさあ、フサエさん。ケンジ君。これからは此処がアナタ達の家になりますじゃ。遠慮無く使って下さいな。」
今日の引越しは簡単に終わった。実はタカハシ、運転免許を持って居らず、車の運転は出来ない。そこは流石は未知なる能力を持つケンジ、「ぼッ僕に任せて..」テレパシーで全ての荷物を此処に飛ばして来た。
「ウフフ、ケンジ君、良い子ねェ..」
フサエは優しくケンジの頭を撫でた。ケンジは年の功、五〇歳前後。本当の年齢はフサエにも定かでは無い。ケンジは当時の『喫茶店 人生の分かれ道。』の玄関の前に、段ボールに入った状態で捨てられて居た。フサエに勝手に託されたと解釈した方が良いだろう。フサエはこの赤ん坊の事を知って居た。常連だった店の若い夫婦の赤ん坊では無いか!
「この子はケンジちゃん..だとしたら両親のゴウタ君とアツコさんは一体..」
後に鬱が原因で、彼等は無理心中したと聞いたフサエ、其の時も独身で恋愛経験が一つも無かったが、其の儘ケンジを自分で育てる事にした。
フサエに関しての、過去をほじくる様な描写は必要無いと思われる。違うかい?初老の女神。永遠の処女。これらの表現が一番シックリと来る現在進行形乙女、フサエ。
この日タカハシ達がフサエ宅から、此処に荷物を全て搬入し終えたのは午後の十六時頃(実際にはケンジのテレパシーによるものだったが..)。ここまで来れば、後の事はユックリ時間と掛けて荷物をバラして行けば良い。タカハシの明日はチト早い。時空を遡って過去の世界に行かなければ。時空の歪んだ『自殺倶楽部』の何処かの世界に置き去りにされたミチオが、真空パックの中で不貞腐れて居るに違い無い。
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