第一.五〇話 ミチオ ミーツ ゴータ
ドモドモ。
俺はゴウタって云います。住所は『アパルトメント ヘブン』、部屋は二〇一号室、二階の角部屋。読者のミンナの為にココの物件の詳細を教えると、一階の一〇一号室から一〇三室迄の三世帯。で二階も同じく三世帯の二〇一号室から二〇三号室。建物全体で云うと合計六世帯になってんの。
前回の二〇二室のミチオ君からバトンを渡されたんだけど、オレ超鬱病でさ。基本一人行動が好きだから、リレーみたいな団体競技オレ苦手何だけど、マァ仕様が無いよね、こう云う台本なんだから。パッと見、俺って早口で話し好きって感じの描写でしょ?ハハっ、こん為にイッパイ致死量の抗鬱剤飲んでやってんの。でなきゃ無理ムリ、こんな役柄。
ミチオ君の事?
「ウン、知ってる!聞いた聞いたッ!ミチオ君ヤッタんでしょ?腹切ったんだってね?ヤルよねェ..今の時代にさァ、切腹ってスゲぇ格好良いよね!初めて会った時は
(ウワっ、こいつ超地味だなぁ..)
って思ってたんだけど、全く以て勘違いだったね。超見直したよ。割腹自殺は恐らく『アパルトヘブン』でも“初”じゃ無いかな? 其の話を『自殺クラブ』の奴等から聞いてさ、俺も負けらんねェッ!って、闘争本能に火が点いちゃったモン。」
「ン?何に対しての闘争本能かって?モォ、冗談で言ってるんでしょ?チミ達。自殺だよ、ジ.サ.ツっ!俺もミチオ君みたく、渋い死に方したいよねェ..」
ミチオ君が逝く“四十九日”前、偶然と云う必然、『アパルトメントヘブン』玄関の踊り場でバッタリ会ったんだよね、夕方。初めて。初対面。普段の俺だったら絶対に玄関出る時、隣りのミチオ君の部屋から雑音聞いたりしたら、俺、玄関口で呼吸と動きの一切を止めて静止すんの。だってオモテで搗ち合いたく無いじゃん?お互い。コレ、超鬱病の奴の主な特徴の一つ。病的にまで相手を避ける忍術の一つ也。彼はチョウド仕事から帰って来てさぁ、俺は其の日は夜勤の仕事が非番だったの。昼過ぎに起きてダラダラグダグダ過ごして、何時の間にかトキは夕方ナリ。
(晩飯でも軽く食いに行くか?)
何て油断して構えてたらウッカリ会っちゃったの。玄関を出てバッタリ出会しちゃったの。玄関の踊り場で。
(やっちゃった..カッタリぃ..)なんて最初は思ってさ、だけど無視は出来ないでしょ?流石に。俺も一応は社会人なんだからさ、一通りの挨拶はしたさ。
「..アッ、どうもコンニチハ。多分初めましてっスよね?俺、隣りの二〇一号室に住んでるゴウタ。って云います」
「ああッ、ハっハィッ!..はっ初めましてッ。ボ、僕はミチオと云います..。きゅ、急に人間と会うと、『ビクッ!』としますよね?なんて返して良いのか?分からなくなってしまう..だから一瞬、混乱してしまいました..」
「..プッ、ウケる!分かる分かる、チミの言ってる事!其の考え方って正に“鬱”気質だよね、俺も一緒だから良く分かる!オレ今日までズット玄関のミチオ君の音、気にして生きてたんだ。」
「え..?僕、もです..」
「じゃあ、チミは鬱?其れとも躁鬱?どっちなの?俺はね、鬱。で、ミチオ君?ミチオ君は何時ヤンの?自分で?」
「?..ヤルって一体..どう云う事ですか?」
「ン?えッ!?ヤンないの?ワザワザこんな所に住んでて?ココ、俺ら落伍者達の聖地だぜ?世界中の自殺したい奴等の名所よ?」
「アっ!(あの雑誌が書いて居た事と同じ事をゴウタさんも言ってる..)」
「“アっ!”って、如何したのミチオ君?ナンカ俺、変な事でも言った?」
「あ、イエぇ..手に入れた最近の本の中で、ゴウタさんが今言った内容と、全く同じ事が書いて在る記事を読んだばかりだったんでビックリしたんです。ビックリさせたらスミマセン..」
俺、ミチオ君の台詞を聞いてビビっちゃったよ(まさか..若しかしてミチオ君、噂に聞いたアレ、持ってんのかよ..)。
「アノ、その、さぁ..ミチオ君?そのォ本って..今ぁ在んの?家に?[#「?」は縦中横]」
「エぇ、ハイ..部屋に在りますけどぉ」
オレもぅ腰が抜ける寸前だったよ。そん位に超衝撃的!この小っちゃえ六畳一間の俺の部屋の壁を挟んだ向こうの六畳一間の住人がアノ『自殺倶楽部』持ってんだぜえ?思わず息継ぎすんの忘れて“句読点”抜かしちゃった位だもん!
(見てえ..今見てえ..今超見てぇ、今この瞬間超見てえッ!)
「ミ、ミチオ君?もし..モシお邪魔じゃ無かったら俺、其の本を是非、拝見してみたいんだけど..大丈夫?」
「エ、えぇハイ。僕は別に構わないですけど、ココでチョット待っててくれたら、直ぐに本持って来ますけど..」
「エ?!良いの!?」
一瞬の永遠、あん時の焦ったい時間の経ち方ったら無かったよね。そっから近い未来の事何だけど、俺が首吊り自殺を自分の部屋で決行する時に費やした時間位に、短くて長いトキは無かったよ。ミチオ君は自分の家に入ってって、俺は玄関前で暫く待った。
「コレです。ゴウタさんの云ってる内容の本だったら良いんですけど..」
「..おォォぉ..スゲ..」
俺、言葉を発声出来る状態じゃ無かったね。心臓はバクバク、口はパクパク、血管もピクピクし捲ってさ、自殺する前に心臓麻痺で逝く寸前だったね。アブねぇアブねぇ..。俺は震える両手で、ミチオ君が手渡す『自殺倶楽部』やっと触れたかと思うと、先ずは其の雑誌の手触りをジックリと味わったの(..良かったァ未だ自殺してなくて..感激)。
「あの..良かったら其の本、どうぞ持って行って下さい。僕的にはソンナに必要な物では無いし、本当に欲しい人が持ってた方が良いでしょ?」
「マジ、で?良いの?コレ貰っちゃって?」「ハイ、遠慮無くどうぞ」
「ミ..ミチオ君さぁ、この『自殺倶楽部』ね、俺ら自殺志願者達の世界ではマボロシの雑誌何だよ。コレさ、地球上でタッタの一〇部しか刷られて無い、スッゴイ貴重な文献なの!良かったァ、まさか俺の人生でコレが見れる何て全然思わなかった。然も俺のモノになるなんてさ!ホンット有難うねミチオ君!本当に有難う!」
「ミチオ君さ、もし良かったら今度、俺等の寄り合いに来なよ。皆んなココの住人だから、全然緊張する事無いよ。皆んな鬱病か、躁鬱病持ちの連中だけだから、ミチオ君もシックリ来るよ、キット。けどミチオ君の場合、ナカナカ接点が無かったから、今まで敢えて誘わなかったんだよね。グループの名前はね、『自殺クラブ』。そうそう、名前の由来はミチオ君がくれた『自殺倶楽部』、ソコから取ってんの。場所はねぇ、駅前の二十四時間ファミリーレストランの『未来のチャンピオン』。其処でさ、深夜の丑三つ時、自殺に付いて“アアでも無いコウでも無い”、只ダベるだけ何だけどね。」
「ア、はい..多分、ですね、僕の方が極力、他人との接触を避けてたので、今まで会う事が無かったんだと思いますよ..。そして、もしもお邪魔で無ければ、一度お邪魔したいです(人生で初めて、僕が人間から感謝をされた..人生で初めて他人から誘われた)..。」
「ウン分かった。ミチオ君、そん時になったら勝手に玄関ノックすんね。居留守は厳禁だぜ?俺達モゥ友達だかんね!」
「ハイ、其れで結構です!(トモダチ..)」
『自殺倶楽部』が引き寄せた螺旋自殺の運命の出逢い、ココから更に物語は加速して行く。
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