第一.二五話 「皆さん、ミチオです。なんか、こんな登場の仕方。恥ずかしいモノですね!」

「へへ..どうも皆さん、ミチオです。皆さん、この僕の自殺の原因って、未だ不透明のママですよね?若しかしたら、ミチオファンの読者の方もチラホラ、此処に若干名は居るんじゃ無いかなぁ..?何て淡い期待の表現なんかしちゃって!そう思って、今回は描写させて頂きます。お付き合い下さいね!ア、あと..読み終わった後、絶対ボクに同情はしないで下さいね!?僕が惨めになりますから。」

 

 あのぉですね、僕の人生の始まりは捨て子です。僕の人生、最初に意識が芽生えた場所は孤児院です。って云っても、初めて感じた“家”の感覚が孤児院だったので、僕は暫くズット孤児院が“実家”だと思ってました。沢山の年齢がズレたお母さん達や、兄弟姉妹達がワンサカ戯れる地獄絵図。日替わりで兄弟姉妹が消えたり増えたり、色々な知らない人間の夫婦が、僕達を品定めにやって来たり..この下りは“保健所の犬猫に皆さんの意識を注入したら、より一層、惨めさを体感出来る事でしょう。僕はダカラ本当の両親の事は知りません。年齢は覚えてません、僕が幼い頃に里子として、僕が引き取られた義理の中年夫婦は、初めはとても僕の事を可愛がってくれて、嗚呼..あの時が一番人生で幸せだったなァ。何をしても全然叱られなかったし。其れがですねぇ、或る日を境に関係性が逆転しちゃったんですよね。

 皮肉と嫌味を込めて、彼等の名称にはトコトン“義理”を付けますね。僕の義理の両親は、長年に亘って子作り運動をしてたんですけど、全然良い結果が出なかったんです。そして幼い僕が“慰め物”として貰われたんです。

 このペースで行ったら、僕は勝つ続ける人生の勝者でした。義理の両親の愛情を独り占めして、将来も安泰、大学にも行ける最高の人生。弟が出来る迄は..。

 義理の母親のお腹に、待望の赤ん坊が宿ったんです。初めは僕も「弟が出来るッ」と心から嬉しくて、本当に喜びました。義理の両親も、愛情は僕と弟とで公平に“半分こ”ずつ、与えてくれると信じてました。

 ですが僕が甘かったぁ!弟が産まれてからは、手に取って分かる程に、義理の両親の僕に対する態度が硬化。奴等の関心は自分達の子供にだけ意識を注入、僕の事は既にソッチノケ。大人となった今では、奴等の気持ちも分からないでも無いですが、産みの両親も含めて、人間失格ですよね?

 (奴等全員、死んだら良いのに)って、ズット願ってたら、アハっ!僕が死んじゃいましたァ!弟が産まれても、義理の両親は世間体を気にして、僕を孤児院に返す事は無かったんですけど、中学を卒業する迄は毎日が地獄でしたよ。弟も奴等から聞いたのか、僕の事を「野良犬。」とか「ゴミ。」って呼ぶし、もう最悪な家庭環境でした。

 エっ?高校?勿論、高校何かには進学はしませんでした。中学校を卒業した後は、早く家から出たくて就職の道を選びました。僕が野良犬として過ごして来た地域は、とても田舎で中卒の学歴では仕事を探すのがチト困難だったし、とっとと家を捨てたかったので、都会の方に出たんです。そしてソコで仕事が見つかったんです。古本屋とレンタルビデオ店の掛け持ちです。どっちの仕事も、ごく限られた人間関係の接触で済むので決めたんです。本もタダで借りれるし、性欲の方も店のビデオで処理出来ますからね。だけど僕は未だ未成年だから、保証人の存在が必要ですよね?コレに関しては奴等、義理の両親が快く保証人になってくれましたよ。条件付きでしたけどね。

 “もう二度と此処には帰って来るな”

 

 いざ都会に出て来たところで住む所が無かったんですが、暫くお金を貯まる迄、公園とかで野宿してました。この大胆な行動が出来た僕の状態は、モロに“躁”。実家を出る決意を持てたのもソウ、躁なんです。“鬱”の状態だったら、中学を卒業しても、恐らく其のママ我慢して実家から出なかったでしょう。僕の躁がソウやって、僕に勇気と後押しをしてくれたんです。だったら“躁”がズット続いたら人生怖いモノ無しジャン?って事になるんですけど、イエ、なりません。とても疲れるんですよ、躁状態が続くって。僕の日中の仕事中は鬱状態で、仕事が捌けると躁になる

 “躁鬱”コンビネーションでサバイバル。稀に“重症躁”状態になると、公園でジッとして居る事が出来なくて、コンビニを掛け持ちして、雑誌本を朝まで立ち読みしたり、無人の路上を日が明けるまで徘徊してたりもシバシバ。朝を迎えると公園から仕事に出てました。未だ十六歳の少年だったから出来た荒技ですよ!今では絶対に出来ませんよ。

「アっ、って云うか、僕ゥ自殺しちゃったから物理的に出来ないや!ハハっ。」

 数ヶ月間位、こんな生活をしてお金を貯めて見付けた物件が、タカハシさんの『アパルトメントヘブン』だったんです。何故か大家さんのタカハシさんが、未成年の僕でも大目に見てくれて、二階の二〇二号室に部屋を貸してくれました。ココの物件をドコで見付けたか?と云うと『自殺倶楽部』。同人誌みたいな薄くて、印刷が粗い雑誌でした。

 僕は『自殺倶楽部』を働いてた古本屋で、飛び込みのお客さんが売りに来たんです。『自殺倶楽部』と一緒に、『切腹の美学』って云う分厚い、オールカラーの紙が上質な写真集も持って来てました。

『切腹の美学』は、沢山のカラー写真と細かな説明文が、数々の無名の切腹者に関する紹介文と共に添えられて居ます。あの美しくも、儚さの影も帯びた自決者の聖なる真紅の血。そして内臓部分や、体内からドロドロと溢れ出て来る各部位の臓器。其れ等が鮮烈に鮮やかな原色で記載。カラー写真で無ければコレ程までの臨場感は表現出来ないでしょう。モゥ全てのページの内容に圧巻。僕は圧倒されまくりました。僕の全身に鳥肌が気が付いたら立ち捲ってて(コレだっ!)って思いました。 多分、このお客さんは自殺する前に、次の自殺志願者にコレ等を託したんでしょうね。そして自殺を決行した..筈です。経験者の僕には分かります。だから僕も自殺する前に、同じ『アパルトメントヘブン』に住んで居た、ゴウタさんに差し上げたんです。スッゴイ喜んでくれてたのを覚えて居ます。

 この二冊、実はコッソリ自分の為に購入しました。買取り価格で其のママ買えたので、ラッキーでしたね!

 

『アパルトメントヘブン』と『自殺倶楽部』の接点ですよね?『自殺倶楽部』の一番後ろの広告欄の所に、この『アパルトメントヘブン』の部屋情報が載ってた、只それだけの話です。未成年だった僕はダメ元で、記載されてた電話番号に掛けたらタカハシさんが出て、そこからトントン拍子に決まりました。だけど、チト訳が分からなかったのが、タカハシさんが僕に対して、執拗に「チミは本当に重度の躁鬱病なのか?」聞いて来た事。僕は「そうです。この医者の診断書を見ても分かりますよね?」と返したんですが、タカハシさんはワザワザ医者に連絡をして、確認してました。

『自殺倶楽部』に載って居たココの入居条件として、

 “身内が居ない者。そして重度で末期の鬱病、若しくは躁鬱病の方のみ入居可能”

 と書いてたので、(コレは僕でもイケる!)と思ったんです。中学の頃から、実は精神科医に通ってましたから。学校に行くよりも熱心に通ってた位です。鬱も躁鬱も、何だか精神世界と繋がってる神秘的な感覚に気付いたんですね。その体験を境に、僕は自殺に付いて深く追求する様になったんです。

  

 後の事は皆さんも大体お分かりですよね!其の数年後?位に僕は晴れて切腹自殺をしたつもりが..「トホホのホ」出血多量で憤死してしまいました。刺す勢いが足りなかったのと、意外と僕の腹筋が硬かったのが理由です。この様になる事も予測して、鉄棒をやったり、自分の腕をカッターで切り刻んで度胸を付けたりと、猛特訓を生前はして居たのですが、残念!

 

 エっ?文体が明るく愉快で、とても割腹自殺を実行した者とは思えないですか?

「ハハっ!答えは簡単。今、恐らく僕の状態は躁状態だからですよ!」

 暫くすると直ぐに落ちて“鬱”の状態になり、もう時期ココから姿を消します。

 元々この疾患は無かったんですけど、やっぱり子供の頃の体験から“躁鬱”気味になったんだと思います。

「健康なアナタ?もしも僕みたいになりたくなかったら、廻りに合わせて生きてはイケマセンよ!アナタが思って居る以上に、他人は

 アナタを思っても居ないし、愛しても居ません。だからアナタも一生懸命になって、好かれようとか、愛されようとかの無駄な努力はしちゃダメ!自分だけを強く愛して下さい。躁鬱病は一度罹ったら、アナタが死ぬまで何処にも行きません。皆さんの深層世界の奥底に深く宿ります。」

 

 あっ、最後に!

「鬱病の方が自殺をする瞬間って、実は激しい躁状態の時だって、皆んな知ってましたァ?ハハっ!」

「鬱だから自殺するんじゃ無いんです。躁だから自殺するんです。僕はコレを、脳味噌が恐怖や激痛を麻痺させてくれる、優しい防衛本能だと思ってます。」

 

                        ———ミチオ、享年二十六歳

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