第四章 キミとの約束

オレは不思議な体験をして来た。

17年という歳月を娘と2人で過ごしている違う世界の体験…。


そこには愛する妻は居ない…。

娘を出産しそのまま帰らぬ人になった。


それをキミに話したらきっと笑うだろう。

あの時にオレはキミと2つ約束した…。


1つは私が死んだら私のことを忘れて欲しい…。


2つめは娘が3歳になった時に私の話をしてあげて…。


今思うと矛盾した約束であった。

なぜならキミが死んだらキミのことは忘れなければいけないのに

3歳になったらキミとの思い出を娘に話すなど…。


いや、キミは最初からわかっていたのだろうな…忘れられることは無いと…。

今オレたち家族が生きてるこの世界がどの分岐の世界なのか

今となってはどうでも良かった。

愛する妻…美代がいて愛娘の秀美がいるそれが全てだから…。


『パパ〜。』

『どうした?秀美?』

『えへへっ…。』


『ホント秀美はパパが大好きなのね。』

『うん!』

『だって秀美はパパと結婚するんだも〜ん!』

『残念でした~パパはママの旦那様だも〜ん!』


だからキミは娘と張り合うなよ…。

だけど…いつかは秀美もオレたちから羽ばたいて行く日がくるんだろうな…。


“そんな人いないよ?”

“だってパパは世界一だから!”


あの日の秀美はそう言ったな…。

嬉しかった…。


あれ…ちょっと待てよ…。

今まで考えもしなかったことが、ふと過ぎった…。

オレはもう一つの世界では意識不明になった…。

そして一度目を開けた時は違う世界と繋がっていた…。


秀美のいない世界…。


再び眠りについた時にいまのこの世界に戻って来た…。

本当にこれが正しいオレの居場所なのか?

向うの世界ではオレが目覚めるのを待っている

秀美がいるんじゃないのか?


どの分岐に行ってもオレは1人だった…。

もしかすると…世界は分岐していても

オレはオレ自身しか居ないんじゃないか?

並行世界だから交わることがないのはわかるが…。


美代のいない世界…秀美のいない世界…。

そして美代がいて、まだ小さな秀美がいる世界…。

オレ以外は存在している…。


昔どこかで聞いたことがあるパラレルワールドに迷い込んだら

自分には会わないのがルールだと…。

もし会えばどちらかが消滅あるいは対消滅すると…。

(※諸説あり)


そんなある日、オレは明日から北海道に3日間の出張を命じられた。


『ホントこの会社っていきなり出張をいわれるよね~』

『前からそうだったからさ…。』

『そうなんだ?オレは今回初めて出張を言われたから…。』


そうこう話しながら準備をしていた。

『パパどこか行くの?』

『お仕事で北海道に行かなきゃならないんだよ…。』

『すぐ帰って来るからママのいう事聞いてイイ子にしてるんだぞ?』

『うん!おみやげ買って来てね~。』

『おみやげかぁ…なにがいい?』


秀美は少し考えて…。


『木彫りの熊!』


は?木彫りの熊?

どこからそんなものを…。


『あぁ…わかったよ見つけたら買って来るよ。』

『うん!』


“パパお別れだね…。”

え…?秀美?

“いってらっしゃい…。”


翌日…羽田発AM8;45分発千歳行きの便に搭乗した…。

天候は晴れだった…。

何の問題も無いフライトのはずだった…。

離陸から3、40分が経った時…CAさんが少しザワザワしていた…。

シートベルト着用のランプも点きっぱなしだった。

何かおかしい…。


乗客の中には異常に気がついて騒ぎ出す人もいた…。

それをなだめるCA…。

その時突如として機体が揺れた…。


ガクン!!ガタガタガタ…。


CAさんは乱気流に入ったと説明したが…。

そんなハズは無かった…。

あきらかに高度が下がって来てるのがわかる。

これは…堕ちると思った…。


機長から機内にアナウンスがあった…。

当機は機材トラブルのため山形空港に緊急着陸を行います。


機内はいっきにざわつきはじめた…。

大丈夫です!大丈夫です!

落ち着いてください!!


だが…オレの乗った飛行機は山形空港にたどり着くことなく墜落した…。

乗客240名全員死亡のニュースはスグに流れたそうだ…。

祈る間も無かったと思う…。

昼夜にわたって遺体や遺留品の回収作業が行われたが

オレの遺体は見つからなかったらしい…。

           ・

           ・

           ・

           ・

ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・。

シュー…カコ…シュー…。


北村さんの容態は…?

もう1年眠ったまま…。

娘さんも大変よね…このままだったらどうするのかしら?


話し声が聞こえる…。

ここは…?オレは…助かったのか?


「パパ?いつになったら目覚めるの?」


秀美…?

そうか…オレは…向こうの世界のオレが死んだのか…。

またこっちの世界に戻って来たんだな…。

秀美が…パパお別れだねと言ったのを思い出した…。

そういうことだったのか…秀美にはわかっていたんだな…。


ピクッ…。


「え?パパ?」


「ひ…ひでみ…。」


ぐす…。

うわぁぁん…。

「パパ…死んじゃうんじゃないかと…思ったよ…?」

「生きてるんだな…オレは…。」


先生!!北村さんの意識が戻りました!!


オレはトラックと衝突した事故を思い出した…。

あの時からずっと眠ったままだったのか…。

その間、向こうの世界にいたんだな…。


「パパ…斎藤先生にちゃんとお礼いってね?」

「斎藤…先生?」

「ずっとパパの事を見ててくれたんだよ?」

「え…先生は…内科医じゃ…?」

「仕事が終わったあとずっとパパについてくれてたんだよ…。」

「そう…なのか…?」


などと話してると斎藤先生と担当医が駆けつけて来た。

このあと検査があると説明を受け…。

看護師さんが来るのを待っていた。


「北村さん…よかった…。」

斎藤先生は泣いていた…。


「あの…先生…?」

「ぐす…はい…。」

「娘から…聞きました…ありがとう…ございました…。」

「い、いえ…。」

「パパが眠っている間に先生と色々話したんだよ?」

「やっぱり先生はパパのこと…。」

「ちょっと…秀美さん…。」


検査の結果内臓などに異常はなし。

身体機能も足が少し不自由だが生活には問題なかった…。


しばらく体力が戻るのを待つのとリハビリで

1週間ほどそのまま入院したのち

退院した…。

しばらくぶりの我が家だった…。


「秀美…オレが寝てるうちに高校3年生になってたのか…?」

「うん…来春卒業だよ?」

「そうか…進路は決まってるのか?」

「うん…パパが良いなら進学したい…。」

「いいんじゃないか?」

「ほんと?医大にいきたいの勉強もずっと頑張ってて模試も受けてたんだよ!」

「医大か…ママのことがあったからか?」


そうか…秀美は巣立ちの準備を着々としているんだな…。

オレは応援してやるべきなんだろうな。

ホント良い父親では無いな…オレは…。


「ん~それもあるけど…先生に勧められたから…。」

「斎藤先生か?」

「うん…。」

「そっか…勉強も大変だろうが頑張れよ!」

「ありがとう…受験頑張るね!」


この時オレは秀美にいままでの不思議な体験を話すか悩んでいた。

そういえば…こっちの世界に戻ってから美代の声が聞こえないことに

気がついた。

なんだろうな…本当のオレの居場所はここなんだろうな…。


「なあ秀美…前にパパと約束したの覚えてるか?」

「約束?」

「あはは…さすがに覚えてないか10歳の時の話しだしな…。」


パパより良い人を見つけて幸せになること?

それは無理だよ…。

だって、パパはいまも秀美にとって世界一だから…。


じゃあ、パパが秀美と約束して?

なんだ?オレに出来ることなら…。


もう、どこにも行かないって…約束して?


その恋人同士みたいな約束はどうなんだ?

良いから…約束するのしないの?

あぁ…わかったよパパはもうどこにも行かないよ。

ずっとキミと一緒にいるよ…キミがこれから出会うであろう誰かに

出会うまでは…!


オレたちは親子だから…。

キミはいつまでもオレの自慢の娘だから。

パパからも言わせてくれるか?

え?なにを?

秀美は世界一の娘だ!

え~なにその親バカ発言


オレが言うとそうなるのか?

美代…キミが居なくなってから18年の月日が流れた

もう…いいよ…ありがとう美代…。

キミも本当の意味で休んでくれ


“そうね…秀人も秀美も…もう大丈夫よね?”


いつか生まれ変わったら…。

今度こそ幸せになろう…。

その日までさようなら…だ。


“うん…わかった。”


これがキミと出来る最後の約束だ…。




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キミとの約束 涼宮 真代 @masiro_suzumiya

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