205号室の浴室について聞く事。

あたたかみ

1人目:髪の長い老人

おーいこっちこっち、後ろの席だよ。

嫌、気にしないでくれ。最近早起きなんだ。

とりあえず注文するか、何がいい?

…あぁ、そう。それじゃコーヒー2人分。
















___早速本題に入るが、お前205号室について聞きたいんだろ?あっこは最悪だったな。

当時は金が無かったから無理だったけどよ、出来ることならすぐにでも逃げたかったぜ。

はは、今住んでるやつに言うことじゃねえか。

悪いな。

でも、俺に話を聞きに来たってことは少なくとも何かあったんだろ?

…やっぱりな。


あの部屋はさ、風呂場が変なんだ。

気付いたか?部屋自体はオンボロなのに、風呂場だけ妙に新しくてピカピカしてんの。

管理人に聞いたら「古びていたから改装した」らしいんだけど、絶対にそれだけじゃ無ぇ。

気味が悪ぃんだよ、誰かに見られてる気がしてさ、とにかく長居したくない雰囲気だった。


しかもそれだけじゃねぇんだ。

あれは俺が住み始めて一ヶ月くらい経ったか、いつも通り風呂に入ってたんだよ。

当時はかなりの肉体労働しててさ、ストレスで抜け毛が酷かったから、シャンプーを洗い流す時間が嫌で嫌でたまらなくってよ。

それでも泡だらけのままってにもいかねぇから、いつもみたいに下向いて、目ぇ開けて洗い流してたんだけど。

そしたら凄ぇ量が抜けてくの。しかも中に大量の白髪が混じっててさ。

俺、ショックで凹んで、しばらくぼーっと眺めてたんだよ。そんで気付いたんだよな。

長いんだよ、毛が。

そん時は短髪だったんだけど、流れてくんのは女みたいな長い白髪。それをぐちゃっとまとめた毛糸玉みたいのが、手を止めてもずっと流れてくんだよ。

そんで多分後ろから。

意を決して勢いよく振り返ったんだけど、何も居ない。むしろ居てくれたほうが助かったよ。

その時の俺にとっては、見えない何かがいる方が怖かったみたいでさ。限界が来ちゃったんだよ。

大声出しながらリビングに飛び出して、ビチャビチャのまま服着て、近所の薬局に走って行ってさ。ブリーチ剤買ったんだよ。

そんでさ、家帰ってベチャベチャ塗ったんだ。

もうあの白髪を見たくなかったんだよ。

今まで短髪だったのも伸ばし始めて、肩まで伸びた頃にはどれが俺の毛かも分かんなくなって、気にもならなくなったんだ。

…それで終わり。めでたしめでたしだな。
















…今?

ははは。この前さ、医者に、

「もう抜け毛は治ってる」って言われたんだ。

でも、まだ、流れてくるんだよ。


だから、治ってねえんだ。

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205号室の浴室について聞く事。 あたたかみ @atatakami__

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