第24話 デートの誘い
「ニャアー! ニャアーーー!」
退院して真っすぐに渡会さんの部屋に向かい、インターホンを鳴らすと、
『おかえりなさい、笹井君』
と言った渡会さんの後ろで、幸一郎さんが激しく鳴いていた。
「足音でわかっちゃったみたいで。大興奮」
すぐにドアが開かれたが、玄関に出てきたのは笑顔の渡会さんだけだ。幸一郎さんは、渡会さんの背後のドアにはめ込まれたすりガラスにつかまり立ちして鳴き続けている。
「悪いんだけど、お部屋からキャリーバッグ、取ってきてくれる?」
もしかして。
「渡会さんも東原さんに注意、されたんですか」
「ええ。それで、これまで不用心だったなって反省して。笹井君との受け渡しも、手渡しじゃなくてキャリーバッグ使うべきだなって、気付いたの」
部屋に戻ってキャリーバッグの蓋を開けてやると、幸一郎さんはあっという間に箱から飛び出して俺の肩に抱きついた。
「ごめんな、怖い思いさせて。それに寂しかっただろ」
冷房のスイッチを入れたばかりの蒸し暑い部屋の中で、俺たちはひしと抱き合った。これじゃまるで恋人どうした。幸一郎さんは何度もその狭い額を俺の頬にこすりつけ、顔を舐め、これまで聞いたことのないような爆音で喉をゴロゴロ鳴らしている。そうかそんなに俺のことが恋しかったかと思うとかわいさもひとしおで、彼が少し落ち着いてから、ちゅーるを二本も与えてしまった。
新しいスマホを買いに出たのは夕食を終え、幸一郎さんがうとうとし始めてからだ。修理できないこともないだろうが、けっこうな代金がかかるだろうし、五年ほど使っていた機種だったので、思い切って買い替えることにした。
そして携帯ショップを出てすぐにカフェに入り、あらかじめ渡会さんにきいておいた電話番号を入力し、東原さんにメッセージを送った。
『退院しました。お見舞いと幸一郎さんのお世話、ありがとうございました。ちょっとしたお礼をお渡ししたいのですが、週末にでもお会いできませんか』
返信はすぐに来た。
『退院、おめでとうございます。よかったです。お礼の件はどうぞ気にしないでください』
『――そういうわけには。今回だけでなく、今までもお世話になっているし。今度こそ、お礼させてください。東原さん、好きなお菓子ってありますか? お菓子じゃなくてお酒でもいいし』
さらに送信し、俺は付け足した。
『食事でもいいです。というか、僕は食事がいいです。近いうちにご馳走させてもらえませんか』
きっと断られるだろうと思いつつ、俺は送信ボタンをタップせずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます