2ー8

【アズside】


一ヶ月前、俺は、炎夜殿に、久し振りに逢った。

幼い頃に、亡き父親に紹介されて以来、色んな伝説があるのを知る。幼稚園年長組の息子に、聞かせる話では無い。

数々の愚行ぶりは、世間を騒がせるんじゃないかと思う。

よく、下界で、生まれて魔術を使おうと、考えたもんだ。あの人、規模が広い。


「アズ?」


「あ、すみません。母さん」


「ねっ、今日は、どの香水が、良いと思う?」


「そうですね。折角の親睦会ですし、少し、甘い系で、だけど、男を惹きつけないムスク類が、良いんじゃないんですか。例えば、ブルガリ系でも、爽やかな女性をイメージした匂いが、存在しますし」


母は、出掛ける時、俺に、香水を選ばせる。

大人な女性をイメージした薫り、初恋の薫り、大叔母を、否、これは、秘密にしておこうかな。

後で、知ったら、嫌がらせが付いてくる。

俺の鼻は、覚えているんだ。大叔母の身体から漂う甘い感じの匂い。

あれは、彼女特有なんだろう。

仄かに薫る匂いは、鼻が、ツーンと、刺激されず、控えめな薫り。

流石は“靉流”の母親だ。身だしなみをしっかりしている。


王族界の憧れの的だもんな…。


俺の記憶の中にある大叔母は、優雅で、常に、綺麗を保っている正に、淑女。


「うふふっ、アズに聞いて良かったわ…」


「父さんが生きている頃は『これが、君に似合うよ杏樹(あんじゅ)』と、選んできてましたもんね」


父は、そいゆう人だった。


人とは、一瞬にして命を落とす。


俺は、それを、目の当たりにした時、絶望した。力があっても、護れなければ意味が無いのだと。

何の為に、人間として生まれたのかを悔いた。

神として、天界で生きていたら幸せだったんじゃないかと。だけど、彼が、曾ての許婚が、それを変えた。


『母は、試練を与えるが、何も、残酷じゃない。僕は、それを、一番知っている。だから…失望しないで…。楸ちゃん』


あ、その時に、随分、昔に跳ねた想いが、目覚める。




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