バ美肉転生天才銀髪美少女に処刑道具を

「水無月A級の兄ィィィ!!! キミは来月からになるんですよォォォ!!!」


 銀髪美少女に一目惚れして物理的に死んだ俺が目を覚ましたら銀髪美少女になっていて、頭の中に銀髪美少女がいる状況下というバ美肉転生をしたと思ったら、俺を過労死させてきた職場の上司がそんな事を言ってきた。


「室長。俺は教職員の資格なんて持ち合わせていないのですが」


「おやァァァ……? おやおやおやァァァ……? でも安心ですよォォォ……! だってコレ塾講師みたいなモンですから何ら問題はありませんねェェェ……! ですのでどうかご安心なさってくださいねェェェ……?」


 自分の中にお住まいになられていらっしゃる銀髪美少女もまた、俺と同等以上の驚きの感情に支配されているらしく、先ほどから【え? 私は生徒になる筈じゃなかったっけ? あれ? このままじゃ私が先生になっちゃう感じ? だよね? あれ? 私、1週間前に誕生したばかりの人生エアプなんだけど? いやでも、まぁ……先生にはちょっとだけ憧れはあったけどぅ……えへへ……! 先生……! マキナ先生……! そう言われる事を想像したら……えへへ……! って笑っている場合じゃないよ⁉ この人も結構博士に負けず劣らず頭がおかしいよ⁉ だって銀髪を舐めるんだよ⁉ こんな人が教職員になったら普通に問題じゃないのかな⁉ もしも仮に銀髪の生徒がいたら大問題になっちゃうよ⁉ しかも私の身体でそれをされるんだよ⁉ とんだ風評被害だよ⁉】とぶつぶつと脳内での独り言を垂れ流していたりするが、俺も彼女に負けず劣らずの動揺を見せていると思う。


「大丈夫大丈夫ゥゥゥ……これは国単位で初めてやるプロジェクトですからァァァ……何事も初めてやる事はガバだらけですよォォォ……! 故に初めてやる事で大事なのは取り敢えず最後までやってみる事ですからァァァ……要は完走した感想を数多く入手する事にありますからねェェェ……?」


 これはどれだけ自分が非難の声を出してもまともに聞かれないな、と諦める他なかった。


 こういう時のこの人は、そういう人になる。

 良くも悪くも俺はこのイカレ野郎の下で働いていた所為で骨髄の隅々までそういう諦めのようなものが染み付いていたようで、自分の諦めの早さに対して物悲しくならざるを得なかった。


【いやいや⁉ 何でそこで普通に諦めるんですか深海さん⁉ もうちょっと、こう……! 抗議しましょうよ抗議! 働きたくないって!】


「社畜としての性根は中々に治らないんだ。悲しい事にな」


【切実っ……! それは普通に可哀想……なんですけどっ! 思い出してくださいよ、社畜になる前のご自身を!】


「社畜になる前の、俺……?」


【えぇ、えぇ! 夢に向かって努力を積み重ねていた青春時代を思い出してください! 上の偉い人から言われる事ではなく、内なるご自身の衝動のままに動いていたあの日の事を! それとお願いですから考え事をする度に私の銀髪を口の中に突っ込んでしゃぶるのやめてくれませんかぁ……⁉ 涎の感触が非常に気持ち悪いんですよぉ……⁉】


ふむぺろ……」


 当時の自分を、学生時代の俺を思い出す。


 と言っても、俺は普通の人間だ。

 学校には銀髪のウィッグを持参してペロペロと舐めているだけの何処にでもいるような普通極まりない学生で、これと言った面白いエピソードが無い。


 そんな俺が色々な事情と社会背景があって教職員になるというのはとても想像がつかない事なのだが……そもそもの話として、俺個人がA級エグゼキューターという国家資格を取ろうと志したのは一体全体何のためだったか。


 生活……金の為。

 それは建前か。


 では、夢の為に?

 多分、そういう側面もあっただろうけれども、余りにも昔の事すぎて覚えていないのが正直なところ。

 

 では、何の為に?

 どうして俺はA級エグゼキューターとして、日々身を削る思いで労働を、電脳世界に広がる人間社会を守ろうとしているのか?


 困った事に……その理由はもう、無い。

 正確に言うのであれば綺麗に消えてしまった。

 お気に入りのゲームをクリアした時のような虚無感があるだけ。


 毎日毎日、辛い労働というものに勤しむようになってしまうと、労働をする為の目的だったり目標だったり野望というものが次第に消えていくようになってしまうのが人間というものだ。


 明日は昨日よりも楽な仕事だと良いな――就寝前にそんな思いに駆られながら、泥のように眠るのが当たり前になってしまったのが今の自分。


 そんな自分を恥ずかしいとは思えないし、そもそもの話として、そんな自分がおかしいとも思えないし、そんな自分を変えないといけないという思いに駆られる事もない。


「…………」


 生きる為に労働をする。

 それ以外の答えが見つからない。

 それ以外の答えを見つけるべきなのに、それ以外の答えが見つからなくてどうしようもない。


【あ、あの……? 深海さん? そろそろ私の銀髪を口から出しても良いんですよ……?】


「マキナ。俺の話を聞いてくれないか?」

 

【いや、あの、私なんかで良ければ話ぐらい聞きますけど……! 話す時ぐらいは私の髪を口から出してくれませんかっ……⁉】

 

「社畜になる前の俺は……綺麗な銀髪を舐めたいだけというささやかな夢を持つ普通の学生だった」


【……あぁ駄目だこの人、全然変わってない。純粋すぎるぐらいに変わってない。救いようがないぐらいに変わってない。どうしようもないぐらいに変わってない】


「だけど、そのなんやかんやで俺はA級エグゼキューターになった」


【なんやかんやでA級エグゼキューターになるって……えぇ……? A級って数十人しかいない最上級の国家資格の筈じゃないの……? 私の感覚がおかしいの……? いや、この人がおかしいだけなんだ……。変態と天才は紙一重って本当なんだ……】


「俺は変態じゃないし、天才でもない。取り敢えず努力を積み重ねてきただけだ。毎日毎日頑張って、毎日毎日そうしただけだ。そうしたらこの職業に就けれた訳なんだが……どうも、俺は、その


 正直にその事を告白すると、病室内がしんと静まり返る。

 大人になると、そういう子供の時に想像なんて絶対にしなかった事を想像しがちになってしまう。


 当時の俺に言って聞かせても、笑って聞き流すだろう。

 それぐらいの、取るに足らない事。

 他人からしてみれば、余りにも小さ過ぎる事。


 だけど、俺個人からしてみれば余りにも大きすぎる事だったと思う。

 いや、こうして大きい事だと自分で言っているけれども、そもそもの話としてその問題の規模が大きい事なのかどうかも分からない。


 言うなれば、謎の空白。

 まるで人生におけるバグのようなモノだな、と自認する他なかった。


「今の自分がそうなんだ。俺は自分が分からない。俺は自身を分かりかねている。そんな人間が教職について、未来を生きる人材を助けるAIを教え導けるとはとても思えない」


【……深海さん……】


 とても意外だと言わんばかりに言葉を振り絞って見せる彼女は心優しい人物……いやAIだという事が手に取るように分かる。

 

 色々な諸事情が重なって今の俺が彼女の電脳体を操作しているからだという事実が関係しているからというのもあるだろうが、このAIは今までに接してきたAIの中でも上位の人間らしさを有している。


 AIが人間のパートナーになるという話も現実味を帯びてきたものだ――そう1人でに感慨に浸ろうとしたその瞬間。


『緊急警報。緊急警報。緊急警報。電脳化新宿エリア内にて違法の敵性プログラムが確認されました。一般市民は直ちに当該地区から避難してください。繰り返します――』


 職業柄すっかり聞き慣れてしまった人工音声が病室内にて響き回る。

 

【え、え、え……⁉ ウ、ウイルス……⁉】


 突然の警報に対して脳内でパニックになっている銀髪美少女だが、まぁ無理もないのは当然だが……今にして思えば、自分の業務用端末機が近くに無いなと今更ながらに気がつく。


 恐らく、病室に寝かされていた関係上、没収されていたのだろうが……それに今更気がつくというのは職業柄とても許されない類の凡ミスだ、以後気を付けよう。


「さて、室長。それでは俺はこれより電脳戦に移行しますが……敵規模は?」


「B級で対応できる程度の規模ォォォ……日常的に現れるようなクソザコですぅぅぅ……ですので寝ていなさいなァァァ……」 


「流石に寝たきりですと身体がなまります。銀髪美少女になったがてら運動をしてきますよ」


「いや待ちなさいよキミィィィ……さっき過労死したばかりでしょうがァァァ……流石に見過ごせませんしィィィ……そもそもの話として、今のキミはA級エグゼキューターではなく、C級エグゼキューターにもなっていないマキナくんの身体に入っているんですよォォォ……? 無免許で捕まるつもりですかァァァ……?」


「おっと、危うく無免許での処刑を始めるところでした。ご助言ありがとうございます……が、A・B級のエグゼキューターならばC級や仮免と言った無免許の人間に戦闘許可を与える事も可能ですよね?」


「……確かにワタシの許可で出来なくもありませんがァァァ……」


「それに室長、いえ博士と言った方がいいですか。博士としましてもC級以下の電脳体を操るA級エグゼキューターのデータは欲しいでしょうし、博士の作品むすめであるマキナの初白星は見たくはありませんか?」


「………………。……全く仕方ないですねェェェ……いいですかァァァ……? 今のキミは仮免ですらない違法エグゼキューターですゥゥゥ……いつも使っているような使のでそのつもりでェェェ……後ォォォ……他のエグゼキューターに見つからないようにもお願いしますねェェェ……?」


 バグ技の使用はA級特権であるのだから、それは流石に仕方ないだろう。

 それに今の自分は色々と不安定な状態にある以上、そんな状態で危険極まりないバグ技を使って取り返しのつかない事を引き起こしてしまえば目の当てようがないし……そもそもの話としてこんな綺麗な銀髪美少女の身体をぐちゃぐちゃにする訳にもいかない。


「それではコードA23……いや、謎の銀髪美少女にして期待の大型新人マキナちゃん、出撃します」


「謎が出来ても駄目なんですけどねェェェ……? 本当に分かってますゥゥゥ……?」


「えぇ、只の冗談です」


「なら構いませんよォォォ……マキナくんもちゃんとA級の戦闘を学習するように頑張ってくださいねェェェ……?」


【え、え、え……⁉ い、い、い、いや⁉ 深海さん⁉ 深海さんは過労でお疲れなのに働き過ぎは駄目に決まっているじゃないですか⁉ というか本当に私の身体で戦闘行為を⁉ 怪我しちゃったら私の内部に入っている深海さんの生体データが吹き飛ぶ可能性もあるんですよ⁉ 危ないですよ⁉ すっごく危ないんですよね⁉ そういう訳で他の人に任せましょう⁉ ね⁉】


「攻撃は全て躱せば問題ない」


【いや、あの、そのですね……⁉ は、は、は、白状しますっ! 私、戦闘がすっごく苦手なんですよ⁉ 戦闘向き用に開発されてないんですっ!】


「そうか」


【そうか、ではありませんよっ⁉ 自慢ではありませんがさっきだって散歩中にウイルスに襲われたから抵抗したら秒で瞬殺されちゃうぐらい弱いんですよ⁉】


「最初は誰だって弱いに決まっているだろう。それにあの蜘蛛型ウイルスはB級下位でも瞬殺されるから気にするだけ時間の無駄だ」


【クソザコですよ⁉ 私、クソザコなんですよ⁉ こう見えても運動音痴なんですよ⁉】


「なら学習しろ。銀髪美少女は強キャラだ」


 そう断言した俺は電脳戦闘用の装束に……いつものビジネススーツではない事に多少の違和感を感じつつも、この銀髪美少女AIマキナが日常的に使っている戦闘用装束に、新宿御園で彼女と会った際の格好に変換する。


【お願いですから私の話を聞いてくださいよ深海さん⁉ どうして私の話はいつもいつも聞かれないんです⁉ 誰か私の主張を聞いてよお願いですからぁ! 後、いい加減私の髪を舐めないでよこの変態――きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉ そ、そ、そ、空⁉ 病室の窓から直接⁉ わ、わた、わた、私っ⁉ 空飛んでるの⁉ え、あ、ちょ、ま、待って⁉ 私に飛行能力なんてありませんよ⁉ 落ちる落ちる落ちる落ちるこれ絶対に落ちるってば⁉ 


 い

 や

 あ 

 あ

 あ

 あ

 あ

 あ 

 あ

 あ

 あ

 あ

 あ

 あ

 !

 !

 !


 誰

 か

 助 

 け 

 て

 ぇ 

 ぇ

 ぇ 

 ぇ

 ぇ 

 ぇ

 ぇ 

 ぇ

 ぇ 

 ぇ

 ⁉】  





~~

銀髪美少女苦労AIマキナちゃんの戦闘装束(イラストAI)

https://kakuyomu.jp/users/doromi/news/16818093090174323695


銀髪美少女苦労AIマキナちゃんの電脳情報維持装置付き黒インナー(イラストAI)

https://kakuyomu.jp/users/doromi/news/16818093084688920302

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