黎明 ②

辺りの眩しさに目を覚ます。

懐かしい夢を見ていたような気がする。どんな夢だったかは覚えてないけど。

カーテンの隙間から夕陽が差し込んでいた。眠っていたら、もう日が暮れようとしている、という事実に少し驚く。


今日の夜は眠れないかもしれないなと憂いてみる。

眠れない夜が私は嫌いだ。一度眠れないと感じたが最後、しばらくそのバイアスがかかり続けてしまう。帰納的に、ずっと眠れないということになる。


人は様々なバイアスに絡まれている。昔はバイアスを受けないようにしよう、なんて息巻いていたが、今では分かる。全てのバイアスを受けないようにするなんてことは不可能だ。いや、受けないように出来るバイアスのほうが珍しいだろう。そんなものはもしやバイアスと呼ばないのかもしれない。防げないから、バイアスなのだ。ということなのかも。


そんな感じで、思いを馳せていると、この部屋のドアをノックする音が来た。

誰か来たらしい。...まあ、来る人物を私は一人しか思いつかないのだが。


「今日は起きているんだね。」

そう、幼馴染の黎(レイ)から声を掛けられる。


相変わらず、顔面が整いすぎているが気にしない。

男としてみても、女としても見ても最上級。

学校では夥しい数の視線を釘付けにしているのだろう。

ただ、自分で自分自身の美貌に気づいていないきらいがあるのが気になるが。

それ以外にもこいつは変わっているところが多すぎるから、いちいち指摘する気にもなれない。


「夕陽が差し込んできたんだよね。ついに迎えが来たのかと思ったよ。」

軽口をたたいてみる。


「まだ大丈夫でしょ。元気っぽいし。」なんて、黎は笑いながら、言う。


想像以上に、軽く返されてしまった。

笑うことはないだろうと言いたい。少しは心配してくれてもいいだろうに。

まあ、あんなジョークを言った私が言えることではないが。


「まあ、そんなことよりさ、最近、何か面白いことはあったかい?」

黎の反応が予想外だったために、いつもの話題に切り替える。


「うん、持ってきたよ。何しろ今日、自分自身が遭遇したから。」

「へえ。期待大だね。どんな事だい?」


なんと今回は黎自身が遭遇したらしい。

黎は巻き込まれ体質だったりはしない。


...いや、むしろ、巻き込まれない体質なのかもしれない。


「いつもは全然いないのに、今日は大量の野良犬、野良猫が道にいたんだ。

10匹以上のね、いつもならいて1、2匹ぐらいだから。」


「ふーん、人間が絡んだ事柄が良かったけど、それ結構面白そうだね。

何か変わったところとかなかった?」


「うーん。特にはなかったかな。ただ、昨日大雨が降ったじゃん?その影響だと思うけど、道の傍の用水路がほぼいっぱいになってたね。」


「関係ありそうだけど、どうだろうね。野良犬、野良猫といったけど、本当に野良なのかい?首輪が付いたりとかしてなかった?」


「多分...付いてなかったと思う。自分に吠えてきたし。」


相変わらず、動物たちに嫌われているらしい。たまに許可が出て、黎と一緒に外に出たりするけど、大体の頻度で犬に吠えられている。

まあ、嫌われているから吠えられている、というのが真かどうかは分からないが。


「相変わらず、動物たちに吠えられてるんだね。人間様には受けがいいのに、なんでなんだろう?匂いとかが動物の本能に訴えているのかな。

それで帳尻を合わそうってことなのかもね。」


「自分の匂いが気になるって言いたいの?あんまり匂いについては言われたことないんだけど?」


「別に匂いだとは言ってないさ。現に私も黎の匂いを感じたことはないし。

私たちが知覚できない匂いとかを動物たちは感知するからさ。」


「人に影響を与えてないなら別にいいかな。そりゃ、動物にも好かれるほうが嬉しいけどさ、ペットとかも多分飼わないし。」


話しがひと段落ついたところで、件のことについて考える。情報も揃って、十分推理できる段階にあるかと言われれば全然だ。

...申し訳ないけれど、黎に使われてもらおう。


「ねえ、情報集めのためにさ、もう一度来た道へ行ってさ、何か関係ありそうなものとかをで撮ってきてよ。必ず写真を撮ってきてね。まだ野良犬たちがいるかもしれないし。情報が揃ったら、黎にとって満足のいく、推理をしてあげるからさ。」


黎は、少し面倒そうな顔をしながら「まあ、いいよ。」と答えた。

黎は何か人に頼まれるたびに、面倒くさそうに答えて、こちらに恩を感じさせようとして来る。自分にとって苦じゃないことでも、そうやってくるからたちが悪い。


「今の段階でさ、ある程度の予想とかは付いているのかい?」

なんて、黎は聞いてくる。

...このやり取りにデジャブを感じるのは私だけなのだろうか。

いつもこんな感じのことを言っている気がする。


「十分な情報なしに推理するのは愚策だからね。

かのホームズもそう言ってただろう?」

なんて、何度目かも分からないセリフを吐く。


「...あったね。そんな言葉が。じゃあ、行ってくるよ。一時間くらいで帰ってくると思うから、待っててね。」


「ありがとう。行ってらっしゃい。」

そう言って、黎が出て行ったのを確認すると、私は目を瞑る。目を瞑ると推理に没頭出来る気がするから。実際はどうかなんてのは知ったことでは無い。自分は集中出来ていると思い込めること、それが私にとって大事なんだ。


軽く情報を頭の中でまとめていく。

野良犬や野良猫の大量発生。


どうでもいいといってしまえばそれまでだが、

私は結構心を躍らせている。

なんでも考え方次第では楽しめるものだ。

せっかくなんだから、この世界を楽しみ尽くさないと勿体無い。


野良犬と野良猫の共に出現しているということに意味があると仮定するとどうだろうか。

だから、犬だけ、猫だけが惹かれる何かではなく、骨だったり、猫じゃらしだったりではなく、野生動物全般が惹かれる何かが原因なのかも。全ての動物の中でただ犬と猫にのみ興味を持たれる事柄なんてものはあるのだろうか?

野良といっても昔は飼われていたのかも知れない。その昔の本能が働いた、なんて可能性もあるかも。

まぁ、暫定最有力は雨による影響だけど、何故雨が降ったら犬や猫たちが出てくるのか。山に住んでいて雨で危機を感じたから人通りのある道に出てきた、なんて当たり障りのない結論なのかもしれない。それはそれは私にとって残念なものだけど。出来れば、複雑怪奇な、愉快なものであってほしい。第二次世界大戦中の欧米情勢のように。

これ以上考えてもどうしようもないし、眠くなってきたし少し眠ろうかな。

黎がいくつかの情報を持ってきてくれれば、

そして、私と黎にかかれば謎は解けるだろう。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界の止揚、そして、統合。 ノストレイ @NOstray__

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画