未練
余ったご飯一合
第1話
今日、小学校のときからずっと好意を寄せていた幼馴染が自殺した。
駅のホームで線路に飛び込む彼女にあと一歩手が届かなかった。
原因は隣のクラスのAだ。
幼馴染とAは付き合っていた。
幼馴染が自殺する前日、教室でAと口論になっているのを見た。
幼馴染は、「あなたが守ってくれないと…。」と助けを求めていたのにAは知らんぷりをしていた。
Aはここらでは有名なヤンキーで、他校の生徒ともしょっちゅう揉め事を起こしていた。
きっと幼馴染にも色んな迷惑がかかっていたのだろう。
僕はずっと幼馴染のことが忘れられない。
死んだ人間は未練があると幽霊として残り続けるというが、幼馴染は一向に僕の前に現れてはくれない。
そもそもすでにこの世界には居ないのか。
そんなことを考えて毎日を過ごしていたら、一年が経った。
とうとう高校の受験シーズンがやってきた。
Aはあの事件以来心を入れ替え、真面目に勉強や部活動に取り組むようになったらしい。
その甲斐もあってか一年前とは一変して、クラスではみんなに頼られる人気者になった。
将来は政治家になって世の中を良くすることが絶対に叶えたい夢だそうだ。
反吐が出る。
幼馴染を死に追いやっておいて、あいつは自分の人生を謳歌しようとしている。
こんな姿を彼女が見たらどう思うだろうか。
『全てお前のせいだ。お前だけ幸せなのは許せない。』
そう思うはずだ。
だから僕は絶対にAを許す気はない。
人に優しくなったAだが、僕には絶対に関わろうとしない。
目が合うといつも逸らしてどこかへいってしまう。
自殺した彼女の幼馴染だからきっと気まずいのだろう。
そういった所も許せない。
謝罪の一つくらいするべきだ。
そこで僕はいいことを思いついた。
「受験を失敗させて人生を狂わせてやろう。」
復讐を決意した。
半年かけてAが嫌がることをたくさんやった。
いつも使っているシャーペンを隠したり、勉強ノートをびしょ濡れにしたり、試験中に背中をつついたり…。
考えられることは全てやった。
とくに夜、Aが家で勉強している最中に外から大きな声で叫んで妨害したときは最高だった。
「いつもいつも何なんだよお前!」
散々無視してきたAが焦った様子で窓を勢いよく開けて叫び返してきたときは笑い転げそうになった。
順調に受験を邪魔できている。
そう思っていたが、僕の邪魔をもろともせず、Aの成績はぐんぐん上がっていった。
地域で一番の高校への合格もほぼ確実というラインまでいっているらしい。
僕は復讐に失敗したのだ。
いや、まだだ。
僕は最終手段に出ることにした。
今日はAの志望校の受験当日。
Aは電車に乗るため駅に向かった。
Aはここ最近僕が現れないこともあってか、安心しきっている様子で単語帳に集中していた。
残念。僕はすぐ後ろにいるのだよ。
電車が来る。
ここはホームの端。
電車が一番速く通過するところ。
幼馴染が死を選んだ場所…。
ああ、ようやく復讐が遂げられるのか。
僕は安堵した。
電車が通過する直前、僕はAの背中を思いっきり押した。
Aは電車に轢かれた。
僕はAに言った。
『やあ。これで復讐完了だ。』
僕だけがふっと消えた。
未練 余ったご飯一合 @kazehikuyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます