桜井カモメの最強論

はにゃ姫

第1話 序文

 剣士と呼ばれる人々が暮らす世界というのは日々目まぐるしく変化していく。


 変わらないものは一つとしてなく、驕るだけのような剣士の家は次の日には埃を被り、そして埃をかぶっているはずの家がある日栄華を掴むこともある。


 そんな世間の中で名家と呼ばれ続けるには相当な努力と才能があるのだろう。


 国ヶ原と呼ばれる家はまさにその一例で、古の時代、剣士が武を示し地位を得たその時代から今に至るまで人後に落ちることのなかった数少ない家の一つだった。


 それを支えるのは多くの門をくぐり選ばれる当主の実力と、くぐれなかった彼らの献身、そして初代の教えであった。


 その教えというのはひどく単純で「全てに優れよ、一人で優れぬのであればそれに優れるものを使え」というものだった。


 この教えはどうやら現当主のなにより大切なものらしく、これが守られ続けたおかげでどうやら彼らは生き残ったらしい。


 そんな家がある一方で、数十代の賢者の道をたった一代の愚者が潰した家も多くある。


 そして今その道を突き進んでいる家が桜井家であった。


 開祖は月喰鯨という伝説上の怪物を倒し、剣士の道を開いたとされる男で、まさに全ての剣士の父とも呼べる偉大な男だった。


 そしてそんな偉大な男に続くように、桜井の家は強くあり続けた。


 人を守り、人を信じ、人に報い、ときに人を挫く。


 最盛期こそ開祖の時代ではあったが、だがそれでも優れた剣士の家であり続けた。


 だが、その功績はある男によってドブに消え去ることとなる。


 その男の名はもはや語るほどの価値もないが、あえて呼ぶのなら人は彼をドブネズミと呼ぶ。


 そのネズミは人を信じず、金に溺れ、女に溺れ、力に溺れ、そして自らの不注意でなにも残さず死んだ。


 これまでの桜井が気づいた人も名誉も富も何もかも使い果たし、唯一残したと言えるのはただの不名誉と凡人としか言いようがない有象無象との間に残したと子供たちだけだった。


 そしてネズミの子はネズミというわけなのか、残った子供のほとんどがもう消えかけた桜井の柱を齧り、屋根を齧り、名前を齧り、残ったのは食べられもしないクズばかり。


 今は一人正妻との子が一人戦うのみである。


 だが、どんな時にも希望があるというのだろうか。


 この一人息子が中々に傑物なのであったが、それを語るにはまだ早い。


 ひとまず、これより語られるはそんな剣士の話であり、そんな剣士たちの導く未来の話であろう。


 その剣士の名は桜井カモメ、ドブネズミの血を持ちながら、人の道を決して離れなかった、いや離れられなかった男である。


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