第7話 何でもしますので!!

 戦闘……というより一方的な攻撃が終わった後、ファフニールの胸ハッチが開けられた。

 降りろという事だろうか。


 私はお言葉に甘えて降りた後、改めてファフニールへと振り返る。

 ……うむ、いわゆる人型じゃないから何か怖く見えてしまうな。顔も凶暴そうだし。


「あの……助けてくれてありがとうございます。ほんと助かりました」


 と言うものの、この機体は私を救ってくれた恩人……もとい恩機でもある。

 感謝の意を込めて頭を下げると、ファフニールの顔がこちらへと見下ろしていった。


「へぇ、『ディオネス』って言うんだ。…………あれっ?」

 

 何か……頭の中にファフニールの返事が浮かんだような?

 さっきも腕を振り下ろせとか聞こえたし、もしかしてこれってこのファフニールの声? 

 

 ……何か混乱しちゃうけど、まぁあり得なくもない。


 さっき操縦する時にファフニール……改めディオネスと一体化したような感触があったし、それを境に例の声が浮かんできた。


 一体化した事で、ディオネスと脳内会話できると言えば辻褄が合う。

 ここ異世界ファンタジーだし。


 というか、ファフニールにも自我のような物があったとは。

 ネルソン帝国のファフニールにはそういうのなかったけど、単に相性がよくなかったとかそんな感じかな?


「お、おい、あんた……」


 考え事をしていた私へと声がかけられた。

 冒険者3人とワイバーンだ。


 ……そういえば私、この人達にゴブリンへと差し出されたんだっけ?


 ディオネスが来てくれたからよかったものの、あまりこの人達とは関わりたくないかな。

 何で逃げなかったのやら。


「どうしました? というか、腕を怪我したそっちの人は?」

 

「いや、俺の方は何ともない……こんなの冒険者をしていれば日常茶飯事だ」


「それよりもあんた、さっきまでファフニールを動かしたよな? って事は……もしかして聖女なのか?」


「えっ?」


 その言葉の意味を理解できなかった私に対し、冒険者達がかしこまるようにひざまずいてきた。

 急に何事?

 

「ファフニールに選ばれた聖女に対し、俺達はとんでもない無礼を……本当に申し訳ない!!」


「知らなかったとは言え、とんだ過ちを犯してしまいました!! お許し下さい!! 何でもしますので!!」


「お許し下さい!!」


 だから急に何事!?


 こんなたわいもない私に跪くなんて……聖女ってそんなに凄いの?

 というかそもそも私、聖女になるって決めた訳じゃないんだけど……。


「いやそんな大袈裟な……私は乗って操縦しただけですし……」


「あんた何言ってんすか!? ファフニールの聖女って言やぁ、膨大な魔力を持った女性ってのが相場なんですぜ!? 謙遜する理由なんてねぇだろ!!?」


「馬鹿! 彼女からすりゃ、ゴブリンなど造作もないって事なんだよ!! 少しは空気読め!!」


「そ、そうだったのか……申し訳ありません!! 俺、頭悪いから言葉の意味理解できなくて!!」


 いやいや、そういう意味で言ったんじゃないんですが。

 さすがにそれは曲解でしかないのですが。


「本当に申し訳ないです!! 命だけはお許しを!!」


「お許しを!! 聖女様!!」


「何でもしますので!!」


 何でもと言われても……。


 こういう場合王族なら不敬罪とか働きそうだけど、あいにく私にはそんなのを突き付ける度胸などない。

 かと言って許したとしても、この様子じゃ納得できなさそうだ。

 

「……でしたら、トラヴィス王国に着くまで案内役をしてもらえますか? あっ、案内費は無いんですけど、後に何とかしますんで」


「案内……? それだけでいいんすか……?」


「まぁはい、そもそもさっきそういう話してましたし」


「…………」


 ポカンとした表情を浮かばせる冒険者達。

 かと思いきや、やがて嬉しそうな表情を浮かべていった。


「あ、ありがとうございます!! 案内役だけではなく護衛もやらせていただきます!!」


「何て優しい聖女なんだ……!!」


「本当にありがとうございます!! よかったら食料も分け与えますんで!!」


「てか案内費なんていりません!! 無償でやりますんで!!」


「……は、はぁ」


 解決……したよね?

 何か偉い方向になっちゃけど。

 

 しかしこれでやっと、安全にトラヴィス王国に行けるようになった。

 行き倒れる事もないはずだ。


「ディオネスも付いて行く?」


 とりあえず場が収まったところで、私はディオネスへと振り向く。


 ディオネスは私の言葉に対し、「付いて行く」と答えてくれた。


 もちろん口に出したりはしていないけど、自然と頭の中にそういうのが浮かんでくる。

 アニメとかによくある「念話」とも言ってもいい。


「……あっ、何かディオネス……このファフニールが言っているんですけど」


「ファフニールが? 会話できるんすか?」


「ええまぁ。私に手を出したら即座に対応するって……」


「「「絶対に手を出しません!! 約束します!!」」」


「あっはい……」


 先ほど圧倒的な戦闘力を見せられたのだから、こう即答するのはおかしくないけど……。

 こうして私は、彼らと共にトラヴィス王国へと出発する事となったのだった。

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最強ロボットに乗れたら聖女らしいけど失敗して追放された私、いつの間にか追放先の国で国力を牛耳る事になってしまった件 ミレニあん @yaranaikasan

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