第6話 一か八か!
《エリカ・トラヴィリナside》
「そういえばエリカよ。どうもネルソン帝国もファフニールを発見したらしい」
父ランド王と共に、執務作業をしていた時の事。
書類の整理をしていた私に対して、お父様がそう話しかけてきたのだ。
しかも聞き捨てならない内容でもある。
「本当なのですか、お父様?」
「ああ、そういう噂が我が国に広まっている。きっと今頃、血眼になって搭乗できる聖女を探している事だろう……手段を選ばずにな」
「きな臭い噂が絶えないですからね……。その帝国が聖女を見つけてしまったら……」
「ああ、パワーバランスが崩れる。もしかしたら聖女が率いた軍団が、こちらにやって来るのかもしれなんな」
「……そんな事があってほしくないですね」
我が国から3日ほど離れた距離に、ネルソン帝国が存在する。
あの国は悪い噂がしょっちゅう絶えず、さらに言えば帝国の独裁政治によって国民が困窮しているという。
今現在、ジェラルド皇帝が亡き父に代わって政治を行っているというが、正直に言って私はあの男を好かない。
事あるごとに「私と結婚し、国を併合をする必要がある」という電文を送ってると言えば、その悪辣さがよく分かるはず。
どう考えても下心満載だし、当然お父様も「娘を渡す訳にはいかない」と突っぱねている。
幸いにも、トラヴィス王国とネルソン帝国は国力兵力と共に均等であり、よほどの事がない限りは戦争は起きない事になっている。
しかしここに来てファフニールという「よほどの事」が発生した以上、何が起こるのか分かったものではない。
「気にするなエリカよ。我が軍には優秀な『ナイトライダー』が大勢いる。そう簡単にネルソン帝国に落とされまいさ」
「お父様……ええ、おっしゃる通りですね」
トラヴィス王国の軍は強く、そして誇り高い。
彼らなら、必ずネルソン帝国を撃退してくれるはずだ。
バンッ!!
安心した所でそろそろ執務作業をと思っていたら、急に扉が開き始める。
結構大きい音なので思わず飛び上がってしまった。
王女としてこれは恥ずかしい……。
「ほ、報告!! 倉庫に保管されていたファフニールが……突然独りでに動き出し、逃走した模様です!!」
「な、何だと!?」
しかし兵士のその言葉に、私は呆気に取られてしまった
これは恥ずかしがっている場合ではない。
すぐに私とお父様が倉庫に向かうと、そこにあるはずのファフニールの姿がなかった。
代わりに、壁に大きな穴が開いていて光が差し込んでいる。
「まさか……ファフニールには自我があるというのか……」
これはお父様はもちろん、私でさえ予想できなかった。
ファフニールに逃げ出すほどの自我があるとは……。
「……まだ遠くには行っていないはず! すぐに捜索隊を編成、ファフニールを捕獲するんだ!! 不可能なら破壊しても構わない!!」
「御意!!」
お父様の一言で、城内が急に慌ただしくなってしまった。
これでは執務作業どころではない。
しかしあのファフニール、一体どこに向かったのかしら……?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《釈城優愛side》
「……ドラゴン?」
私の目の前に、ドラゴン型ロボットが現れた件。
今さっき私やゴブリンが吹き飛ばされたのは、このロボットが勢いよく着地したかららしい。
乱暴なやり方だけど、そのおかげでゴブリンに襲われずに済んだので怪我の功名と言うべきか。
それよりもこれ、もしかしてファフニールの一種だろうか?
しかしそんな上手い話が……。
「おい、あれって!!」
「ああ間違いねぇ!! ファフニールだ!! まさかドラゴンの姿があるなんて!!」
「……えっ?」
逃げようとしていた冒険者達が足を止め、そう叫んでいる。
あれ? 私の読みが当たっていたという事なの?
でも何でそれが、私の元に来たのやら。
中のパイロットさんに考えがあっての事かもしれないけど……。
バシュン!!
その時、空気が破裂するような音と共に胸ハッチが開き始めた。
すぐに中の操縦席を覗いてみると、
「……パイロットがいない……」
いるはずのパイロットが影も形もない。
つまり……無人で動いていたって事? 何それ新手のホラー!?
――ゴルウウ……!
いや、驚いている場合じゃない。
倒れていたゴブリン達が、怒りの形相で起き上がろうとしているのだ。
すぐに逃げようと背を向けようとした私だけど、その時身体がふわりと浮かんでしまう。
ファフニールの手に捕まったのだ!
「うわああ!?」
いきなり何!?
一応鷲掴みというか掬い上げる感じだけど、いや本当にいきなり何なの!?
パニくってしまった私はそのまま操縦席に押し込まれてしまい、胸ハッチが閉じられてしまう。
その胸ハッチの裏側が点灯したかと思えば、ロボットアニメよろしく外の風景が映し出された……が。
――ゴオオオオオオオオオ!!!
「ヒイイ!?」
ゴブリンが向かってきて棍棒を振り下ろしてくる!!?
思わず操縦席の中で後ずさりしてしまうも、次の瞬間ドラゴン型ファフニールが棍棒を受け止めたのだ。
な、何て頼もしい人……! ……人?
何て冗談はともかく、ファフニールは棍棒を握ったままそのまま動かない。
攻撃1つもしないし、ゴブリンも棍棒を引き抜こうと悪戦苦闘しているようだ。
「……もしかして、私が操縦しないと攻撃できない?」
状況からの推測だ。
それが本当かは分からない。
ただこうしてファフニールが私を乗らせたのは、「攻撃」という手段が必要だからなのかもしれない。
現に操縦桿らしき物がちゃんとあるし、これで動かせばあるいは……。
「……一か八か!」
ここで考えても仕方がない!
すぐに攻撃しようと操縦桿を握り込むと、その瞬間違和感が感じた。
まるで自分が大きくなったような……いやファフニールと一体化したような感覚だ。
これって?
何か変な感覚なんだけど、でも動かし方が分かるような気がする。
試しに私が「左腕を動かしたい」と念じれば、
――キュオオオオオオオオオオ!!
まるで咆哮のような機械音を鳴らしながら、ファフニールが左腕を勢いよく振り下ろしていった。
――!? ゴアアアアアアアアアアアアア!!!
そうしてゴブリンが左腕の鉤爪を喰らい、大きくのけぞらせる。
大量の血しぶきを噴水のように上げながら。
「…………」
……あれ、私はパンチのつもりでやったんだけどなぁ……?
あっ、ドラゴン型だから鉤爪を使うのは道理か。
それなら納得……納得?
――ゴルウルルルツウウ!!!
首を傾げる私を尻目に、もう1体のゴブリンが襲いかかってくる。
とにかく迎撃をしなければ。
そう思っていたら急に「腕を振り下ろすと良い」と声的な物が浮かんできて、その通りにやってみれば、
ズゾオオオオオオオ!!!
爪から……何あれカマイタチか真空波?
というか思わず応じちゃったけど、今の声って……?
戸惑っている私をよそに、爪から放たれたエネルギーの斬撃がゴブリンに直撃。
一瞬にして奴の身体が四散していった。
悲鳴1つも残せずに。
「………………」
ボトボトと落ちるゴブリンだった物。
私の近くに倒れるゴブリンの血まみれの死体。
何でこのファフニールが私の元に来たのとか、今さっきの声みたいなのは何なのかとか、とにかく気になる事がたくさんあるのだけど。
「……えげつない……」
これはさすがにバイオレンス過ぎじゃないですかね……。
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