第6話 修行の日々は、重すぎる!?

 俺は神衣志織。ゴールデンウイークに十色達と行ったパレードで、バルーンが全部破裂する事故が起きた。俺達はすぐさま色の魔法使いに変身してバルーンを直し、さらに色とりどりに染めてみんなで町を練り歩いた。


 こうしてカムオリノミコトのチカラで人々を喜ばせられるのも、幼少期から続いてきた修行のおかげなのである。さて、今日は特別過酷な修行の日だ。本心を抑えながらも、俺はやらなければならない事に挑むのである。


   * * * * * * *


 いつも通りの、朝が来た。


「おはようございます、お母様」

「じゃがいもの味噌汁が出来ていますよ、召し上がれ」


 朝食を食べてから、学校へ向かう。今日の俺のやるべき事は、朝8時から15時までの学業の後、神織神社での修行を行う。平日はゆっくり遊んでいる余裕は無い。


「おはよう志織ちゃん、今日はテストの点数出る日だよね」

「ああ、そうだな……」


 俺のテストの点数は、今回も百点満点。一年生の頃から百点以外出た事は無い。このクラスでも飛び抜けた優等生と言われるほどである。


「わたしは、一箇所間違えてた……今度志織ちゃんにも色々教わりたいな!」

「機会があれば指導してみせよう」


 学業もそつなくこなしたり、カムオリのチカラを使うまでもない些細な問題を解決したりして、学校生活をこなしていく。


 昼休みに、十色が話しかけてきた。


「志織ちゃん、今日は学校終わった後デパートのイベント見に行かない?あの大人気キャラのいろどりウサちゃんに会えるんだって!」

「今日は修行の日だから来れぬ」

「そっかあ、じゃあ日曜日に一緒に行く?」

「親と話し合って、行けるなら行くつもりだ」

「そ、それじゃあわたし、今日は一人で見に行くね!」


 平日は決まって学校の後に家での修行がある。だから友達と遊ぶなんて事は出来ない……俺だって、本当は十色と一緒にいろどりウサちゃんに会いに行きたい。けど、そんな事にうつつを抜かす暇があるのなら修行しろというのが幼い頃からの習わしだ。放課後、俺はイベントへ行きたい気持ちを押し潰して、神織神社へと向かうのであった。


「志織ちゃんって、普段どんな修行をしているんだろう……ちょっと見るだけでもいいかな…

…」


・・・


 神織神社に戻ってきた。


「ただいま帰りました」

「さて、この後は私も経験した修行を志織にも体感してもらいますよ」

「よろしくお願いします」


 俺……ここでは、私の本心はというと、先程も言った通り、十色と一緒にデパートのイベントへ行きたかったのである。だがそんな事を親の前で喋る事すら出来ない。今日もいつも通りの修行が始まる。


「まずは石段十往復!」

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……」


 まずは神織神社へと続く石の階段108段を10往復する修行。5歳の頃から続けていているので肺活量と持久力が鍛えられる。学校の体育のスポーツなど、児戯に等しい。


「ん……あんな所に灯籠なんてあったか?」


 赤い灯籠が立ち並ぶ中を走る往復の途中、見慣れない赤い灯籠が置いてあるのに気付いた。住職が置いたものだろうか、それにしても不自然な所にあるな。俺は少し気になるが引き続き修行をした。


「お疲れ様です志織」

「次は、あの滝に打たれるのですね」


 続いて、神社の裏にある山から流れ出る滝に打たれる修行。


ザアアアアアアアアアアアアアアアアアア……


 周囲の景色を見ながら、滝に打たれる私。頭と肩にかかる圧力が身を引き締める。


「……ん?今何か茂みが動いた気がするが……さっきの灯籠の事といい、まさかな……」


 先程から、普段の景色に異変を感じている。この修行を部外者に見られているなんて事は……いや、今は集中だ。


「滝行、終わりました」

「では、次の修行を始めましょう」


 最後は、母の飛ばす式神を相手に、カムオリノミコトのチカラを試す修行だ。


「さあ志織、羽衣を纏いなさい」


 私は羽衣を取り出した。


『神衣顕現!!!』


ティロリラティロリラリン♪


「折り綴る色彩の調べ、カムオリノミコト!!!」


 カムオリノミコトに変身した私。母の表情が本気の顔に変わった。


「では、行きますよ!」


バアッ!!!


 母は、私に向かって沢山の紙の鳥……式神を放った。


「折り鶴たちよ、参れ!」


シュバアッ!!!ズバアッ!!!


 私は念動力で作った折り鶴を大量に飛ばし、母の放った式神を次々と破っていく。十枚、二十枚……そして、最後の一枚が破られた。


「討滅完了」


 地面に散らばる式神の欠片。拍手する母。



「良く出来ましたカムオリノミコトよ。さて、これが本日最後の試練です……さあこちらへ……」

「あの方は、まさか……!?」




 母の後ろから、ただ者ではない印象の白髪の老婆が現れた。何を隠そう、私の祖母なのである。


「お祖母様ばあさま……!」

「わしとてかつてカムオリノミコトとして活躍をした身であるがゆえに、当代のカムオリノミコトに試練を与えよう……」


 祖母は何代目カムオリなのかはさておき、祖母が、姿を現して語った後の、ほんの一瞬の静寂の後に……!


「んんんーーーーーーーーーーーーーーーーーハアーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


ブワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 祖母が気合いを込めると、弾幕と言わんばかりの大量の式神が私めがけて飛んできた。


「私の今のチカラではこれ以上の式神は捌き切れない……だが、折り鶴ひとつが十枚破れれば……いける!!!」


シュバババババババババババババ!!!!!!


 空を飛び交う折り鶴と式神。お互いとめどなく放った折り鶴も式神も、どんどん地面に落ちていく……。


「これで……終わりだ!!!」


ズパァン……!


 こうして私は、祖母の放った式神をかろうじて全て破る事が出来たのだった。私のチカラを認める祖母。


「お見事じゃ、当代のカムオリノミコトよ」

「お母様もお疲れ様でした。あら……カムオリノミコトよ、どうしましたか?」


 修行を一通り終えた後、私は母達の反対方向の茂みに向かって言った。


「……そこで見ているのだろう、スリージェ・クープ!」


ピュン、パシッ!


 私は向いている方向に折り鶴を放つと、隠れていたスリージェに当たった。


「わっ!なんで見つかっちゃったの!?」

「不自然な灯籠といい、変な動きをする茂みといい、さっきから君がいるのは分かっていた」


 スリージェの姿は紺色と赤と緑の姿をしていた。クーピーで描いたもので景色に紛れているつもりでも、カムオリにはお見通しだ。十色は一人でいろどりウサちゃんに会いに行ったかと思ったが、ここに来るとはな。


「スリージェにも、やりたい事はあったんじゃないのか?」

「今は、カムオリノミコトの修行を見るのがやりたい事だから……こっそり来ちゃったの!」

「ここは本来なら部外者が来て良い所ではないが……色の魔法使いであるスリージェなら来ても構わないといった所だ」

「こっそり見に来ちゃったけど、カムオリさん、とってもカッコ良かったよ!わたしもここで修行したらあんな風になれるのかな!」

「さあどうかな……この修行は過酷で、一般的な人間がやればほんの数分で音を上げるぐらいだから、あまりオススメはしない」


 すると、母がスリージェに言った。


「もしよろしければ、スリージェさんもこの修行を体験してみませんか」

「お母様……?」

「今ならわしの式神達も加えてやろう!」

「えっ……えっ……!?」


 そして、スリージェは。


ブワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!


「いやああああっ!!!全部受け止めきれない!!!」

「出来ないと諦めるな!一枚でも多く破って見せよ!!!」

「こんなのわたしには無理だって〜!!!」

「やれやれだ……頑張れスリージェ……」


 スリージェも修行に付き合う事となり、今日はいつもより騒がしい修行となったのであった。


   * * * * * * *


 次の日の学校、俺は十色に言った。


「今度の日曜日、いろどりウサちゃんに会いに行こう!」

「わたしもそれ言おうと思ったの!そういえば昨日言ったイベント、日曜日までやってるみたいだから、今度こそいろどりウサちゃんに会いに行こうよ!」

「ああ。今度の日曜日の修行はお休みだと母は言った。だから一緒に行こうではないか!」

「うんっ!一緒に行こう!」


 すると、俺と十色に近付く緑色の瞳の少年の姿が見えた。染多である。


「昨日はちょっと大袈裟な事が起きたんだけど、スリージェもカムオリも来なかったから一人でなんとかするの大変だったんだよお!」

「そ、そうだったか……すまんな、修行の日だったので」

「でも一人で問題解決出来るのってすごいじゃん!わたしにはすごい友達がこんなにいるって事だよね!」

「あ、ありがとう十色ちゃん!」

「良かったら、染多も神織の修行、体験してみるか?石段登りから滝行、式神祓いまであるぞ」

「それってボクでも出来るの?」

「やった方がいいようなやめた方がいいような……アハハ」


 そんなわけで、俺自身、色の魔法使いとしての日々は続いていく。頼れる仲間が沢山いて、一族が全力で支援している俺に死角は無いと思っている。だが、こんな俺でも束の間の自由が欲しい時だってある。いつかは、志織や染多ともっと楽しい事が出来るのでは無いのだろうか……。


 つづく

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マジックカラーズ 早苗月 令舞 @SANAEZUKI_RAVE

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