異世界転移したのでとりあえず切る

黒犬狼藉

1

 目が覚めた、ここはどこだ?


 森の中だ、森の中らしい。

 腰に手を回す、いつものように刀があった。

 ということはいつもの山か? どうやら違うらしい、少なくともワレの山にはこんなヒトモドキゴブリンなどいなかった。

 とりあえず、刀を突きつける。


「うぬは敵ぞ? ソレとも人ぞ?」


 嗜虐的な笑みを浮かべて、こちらへ向かってくる。

 どうやら敵らしい、敵ということは切っても良いらしい。


 反応するより、腕が動いた。

 存外、緑人間ゴブリンは赤い血が流れているらしい。

 構造も人に似ている、つまり切り応えがある。

 飛び散る鮮血が綺麗だ、やはり切るという行為はいい。


「##$#$#$#$%%^^^^」

「あー、何言ってるか分かんねぇ?」


 とりあえず仲間のもう一匹も切っておく、大抵切れば解決するのだ。

 まぁ、文明が発達したあっちでは切れば問題になったが。

 どうやらここは森だ、となれば切っても構わんだろう。


「ん? あ、斬られるの嫌ぞ? 気にしゃぁ、命だけしかとらんばい」


 怖がっている様子なので、にっこりと笑いかけてやったのに怯えている。

 何言ってるか分からんので、そのまま切っておいた。

 頭で盃を作っても良かか? だけど、汚らしいからやめておこう。

 ついでに近くの草も切っておく、森の中で迷うと危ないのだ。


 しばらく歩けば、兎がいた。

 ツノが生えていたが肉はうまそうだ、軽く刃を拭き切っておいた。

 うぬ、生肉はうまい。

 爺はやめておけと言っていたが、切ったばかりの肉ほどうまいものはないのだ。

 そういえば人の肉は食ったことがないな……? あの小人ゴブリンを食うか?


 やめておこう、緑人間など美味うない。


 さらに進めば小川があった、そこには女人もいた。

 女人が、水浴びをしている。

 耳が些か長く感じるが、まぁ間違いなく女人だ。


「%$$!! &^&$$$!!!」


 何か言っている、が気にするほどのことでもないだろう。

 とりあえず、刀を突きつけて。

 いつも通り、いつもの質問をした。


「敵ぞ? うぬは敵ぞ?」


 今晩の飯は耳長の肉か、そんな風に涎を垂らしていたのが悪かったらしい。

 首を全力で振るその様子に、残念と思いつつ足を切る。

 襲われては敵わない、ついでに獲物だ。

 ワレは獲物を逃さない、人肉には大層興味があるのだ。


「敵でなくば致し方なし、しばし御命預けておこう」


 怯えている、なぜだ? だいぶ優しい対応だろう。

 仕方ない、髪を掴んで引っ張っておく。

 何か喚いているが知らぬ、知っても興味がない。

 切れぬ肉塊に意味はなし、と思っていたが。


 髪が切れる、首を狙った一撃。

 空気が、つむじが巻いている。

 鎌鼬、その類だろう。

 目下の女人が、ワレを睨んで何かを唱えている。


「うぬ、敵ぞ?」


 続け様に鎌鼬、軽く避けてそのまま首を切る。

 ふむ、人の味噌は美味いのか? 蟹味噌は美味いと知っているが。

 そう思いながら、首の断面を見ようとすれば矢が届いた。

 足に向けて、なるほど狩人がいるらしい。

 敵、敵だ。

 問うまでもなく、敵がいる。


「うぬ、否。汝等は敵ぞ? 敵であるぞ?」


 ああ、楽しい。

 弓が、恐怖が、恐怖の嬌声が聞こえる。

 殺意が届いた、これを待っていた。

 蹂躙なんぞ戦にあらず、ワレの求める戦いにあらず。

 殺させろ、殺させろ。

 目を向ければ殺意が剥かれた、だからワレは切り裂くように。


「うぬ、敵であるな?」


 楽しい、間違いなく。

 だからこそ、溢れるように出てくるヒトモドキエルフを切り裂き続け。

 気がつけば、ワレは森を飛び出していた。

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異世界転移したのでとりあえず切る 黒犬狼藉 @KRouzeki

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