第3話 冒険者になる

 あれから、数日が経った頃、俺は、帝国の検問所に差し掛かった。どうやら、城塞都市と一体になっているらしく、街の入り口も兼ねているらしかった。

 別にやましいこともないので、普通に列に並び、順番が来るのを待つことにした。


 干し肉をガジガジすること1時間ちょい、ようやく俺の番が回ってきた。


「身分証の提示を」

「すみません…なにぶん遠くからきたばかりですので、身分証を持っていないのです」


 嘘は言っていないぞ、嘘は。世界を跨ぐほどに遠いところから俺はきたんだからな。と、それで納得してくれたのか、門兵は『分かった』と言って、言葉を続けた。


「街に入るには銀貨1枚いるが、あるか?」

「金貨ならば」

「うむ。では釣りを持ってくるから、ちょっと待っていろ」


 門兵はくるりと後ろを向き、控え室であろう場所に入って行った。

 少しして、門兵が出てきて、俺に銀貨49枚と、こっちの文字で『仮身分証』と書かれた木の板を手渡した。

 どうやら、金貨1枚が銀貨50枚に相当するらしい。

 王様は俺に国の関を200回越えるだけの金額を与えたということか。これが安いのか高いのかはわからないが、街に入って確かめればいいか。


「それは10日で期限が切れるから、それまでに正規の身分証を発行しておけよ」


 と、いけない。考え事をしていると聞き逃してしまうところだ。


「はい、ありがとうございます。ところで、身分証作るとこってどこです?」

「ん?ああ、冒険者協会なら、街の中心だ」

「ありがとうございます!」


 俺は、門兵に礼を言って、意気揚々と街に入った。


 さて、冒険者協会へ向かう途中、街で売っているものに目を向けた結果、おおよその金銭基準を掴むことができた。

 まず、最小の硬貨が鉄貨。そしてこれが50枚集まって、銅貨1枚になる。さらに、これが20枚で銀貨、また20枚で金貨という感じだ。これより上の硬貨は未だ目にしていないので、あるかはわからない。

 だが、街を見て回って、金貨での取引が滅多に行われていないところを見るに、金貨はそれなりの価値があるのだろう。


「おう兄ちゃん、これ食ってくかい?」

「いえ、遠慮しときます」

「そうかい。気が向いたらきてくれよ」


 この街の人たちは、こんな感じで道ゆく人に声をかけまくる。まあ、それが一種商売の仕方なのだろう。

 そのうち、門兵に聞いていた冒険者教会に辿り着いた。街の建物の中でも一回りほど大きい建物である。その入り口付近には、厳しい鎧を着た者や、ローブにとんがり帽といった、いかにも魔法を使いそうな者、弓を背負った者など、ラノベでお馴染みの冒険者っぽい人たちが群がっていた。

 入るのに少し勇気がいったが、身分証がないとどうにもならないので、意を決して中に入る。

 協会の中は、酒場が一体になったような様で、真昼間っから酒を浴びるように飲む輩が数多くいた。そのせいで、内部はかなり酒の匂いが充満している上に、馬鹿騒ぎする連中どもの叫び声が飛び交い、混沌とした様子だった。


「冒険者登録ですか?」


 そんな中、俺は受付と書かれたカウンターまで人ごみを縫っていき、身分証を作りたいと伝えた。


「はい。できますかね」

「もちろん、構いませんよ。では、こちらの書類にお名前と職業を…あ、代筆にしましょうか?」

「いえ、書けますんで」

「そうでしたか。いらぬ気遣い、申し訳ありません」


 今の気遣いから察するに、この世界の識字率はそれほど高くはないのだろう。実際、街中でも時と言うよりイラストでの説明が多かった気がする。


「かけました」


 俺は、必要事項を記入した紙を、受付の女の人に渡した。


「お名前は…シュンヤさん…職業は…短剣使い…はい、かしこまりました」


 お、職業とかわかんないから適当に書いたけど、それでいいんか。その後、登録料として、銅貨10枚を要求されたので、銀貨1枚を渡し、その後、説明を受ける運びとなった。

 それによると、冒険者の階級分けは、G〜Sとあり、それぞれで受けられる依頼が異なる。Cランク以上になると、重要度の高い緊急依頼には参加が強制。信用が命の冒険者稼業なので、ランクを上げるには一定数の依頼達成と、試験が必要になる。と、基本的な要素はこんなもんだ。


「それでは、パーティーの募集をかけますか?今、駆け出し冒険者がまとまって登録されたので、初心者パーティー結成のラッシュに入ってるんですよ」

「パーティーですか」


 これも説明にあったことだが、冒険者の中にはパーティーを組んで活動する者がいるらしい。というか、そちらがマジョリティだ。メリットとしては、自分のランクより上の依頼を受けれたり、依頼の達成率を上昇させたりすることで、逆にデメリットは、一人当たりの報酬が少なると言うことだろう。

 正直、パーティーは組まなくてもいいと思っている。下手なことをして俺が異世界人だとバレたら厄介なことになりそうだし、そもそも人付き合いが苦手なのだ。それに、安全な依頼をとっていれば、危険な目に遭うと言うこともそうそうないだろう。いやまあ、盗賊みたいに向こうから危険が向かってくる場合はその限りではないだろうが。


「パーティーを組むのは遠慮しときます」

「わかりました。あ、協会証ができたみたいですね。お渡ししますので、少々お待ちください」


 そういって、受付のお姉さんは奥に引っ込んで行き、ちょっとして、金属でできたプレートを持ってきた。それには、俺の名前と職業、そしてGとおおきく書かれていた。


「はい、協会証です。お受け取りください」

「ありがとうございます。あ、早速依頼を受けたいんですけど、いいですか?」

「構いませんよ。初めでしたら、薬草採取なんかがおすすめです」


 ここもテンプレートである。薬草採取。なんて聞き慣れた響きだろうか。


「では、それをお願いします」

「はい、かしこまりました。依頼の方は、コリン草の採取でお願い致しますね」


 受付のお姉さんは、羊皮紙に似た依頼書にはんこを押し、俺に手渡してきた。俺はそれに目を落とす。確かに、コリン草の採取で間違いない。

 俺は、教会を出て、そこに書かれた採取ポイントに向けて歩き始めた。

 ガラの悪い冒険者連中に絡まれるイベントを体験してみたかったが、それはもう少し実力を身につけてからのお楽しみと思いとっておくことにしたのは秘密である。

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