第7話 前世の約束

 二学期の終わりのある日の夕方。

 いつものように僕は絵梨花と帰路についていた。

 短い秋は終わり、本格的な冬が訪れようとしていた。すっかり寒くなったのに絵梨花は制服のスカートを短くし、その長くて魅力的な足を惜しげもなく外気にさらしていた。

 まだ午後五時すぎだというのに日が落ちかけていた。

 

 僕は意を決して絵梨花に話しかける。

 ぎゅっとつないでいた手に力がこもってしまう。

 絵梨花はだまってその手を握り返してくる。


「え、絵梨花……」

 彼女の名前を呼び、僕はごくりとつばを飲み込む。

 幾度となく絵梨花と会ううちに僕の中で彼女の存在は欠かせないものになっていた。あのよく見る夢で絵梨花のことが気になっていたところを声をかけられた。そして僕は絵梨花と再会した気持ちになった。随分とまえから絵梨花のことを知っていた気がする。単に夢ででてきたダークエルフに絵梨花が似ているだけだというのに、僕は勝手に親近感以上のものを持つようになっていた。

 絵梨花のことを知れば知るほど僕は彼女のことを好きになっていく。

 絵梨花と一緒にいることが生きている中で一番楽しい時間であった。

 たまにどっかに消えるのが気になるところではあったが、絵梨花は必ず戻ってきてくれた。 


「何、優真っち」

 歩みを止めて、絵梨花は僕の向かいに立つ。

 ほとんど抱きしめあうのではないかというような距離感だ。絵梨花のとんでもなくきれいな顔が息が触れ合う距離にある。


 僕は大きく息を吸い、吐く。

 絵梨花は僕の様子をじっと見つめている。

 僕の言葉を待っているように思う。


「絵梨花、好きだ。付き合ってほしい」

 文字にすると随分短いけど、かなりの勇気が必要だった。今なら魔王だって倒せそうな気がする。


 僕の言葉を聞き、かわいらしい笑みを絵梨花は浮かべる。

「前に約束したよね。結婚してくれるって。アタシと結婚してくれるならいいよ」

 絵梨花は僕を強く抱きしめる。絵梨花の体は世界一柔らかくて、気持ちいい。それに髪からは花のようないい匂いがする。

 結婚とかまでは考えてなかったけど、でも、絵梨花とはずっといつまでも一緒にいたい。

「わかった。絵梨花、結婚しよう」

 気が付けば僕はそう言っていた。

「今度は私のこと離さないでね、ユーマ」

 絵梨花は僕にキスをした。

 心地よい唇の感触に僕は意識を失いかける。

 僕の目に絵梨花の耳がとがって見えた。

 それはあの夢で見たダークエルフと同じものであった。

 

 

 

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前世の思い出は陽キャの君と共に 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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