大和魂、モンスターを穿つ!

和扇

大和魂、現代で怪物を討つ!

 一九四五年八月、大日本帝国。

 ラジヲから流れる戦いの終わりを聞きながら、一人の技術者が机を殴りつけた。


「糞ッ、クソッ!」


 机に広げられた設計図。そこに描かれていたのは救国の秘密兵器、となるはずのものだった。間に合わなかったのだ、皇国は負けたのだ。


「あと半年、いやあと三ヶ月あれば……ッ」


 設計そのものは既に終わっている、あとは生産するだけだった。製造が始まれば、一日で数百の数を揃えられた。全国に配備出来れば、紫電改でも届かなかった超空の要塞B―29を易々と墜とせる、はずだった。


 本土決戦に至ったとしても、ビルマミャンマーで帝国陸軍が大きな損害を被った憎きリーM3中戦車だろうが、チハ車九七式中戦車が全く倒せなかった怨敵シャーマンM4中戦車だろうが打ち倒せる、はずだった。


 資源の乏しい大日本帝国がボロボロの生産力でも量産できる最強兵器。それが戦局を激変させる、その目前で世界は平和となったのだ。


「いや、まだだ」


 決意を瞳に宿し、彼は顔を上げる。


こん大戦には間に合わなかった。だが後の世で、れが必要となる可能性もある。子孫を救う一手となる事も考えられる……鬼畜米英に渡してなるものか……!」


 設計図を丸め、彼は部屋を後にした。






 現代、日本国。


「正面ッ、来ます!」

キャリバー12.7mm重機関銃M2、撃て!!」


 ダガガガガッと連続した重い発砲音が山間の道路に響く。弾丸は迫りくる目標へ真っすぐに飛び、そして直撃した。


 しかし。


「命中ッ!……!目標停止せず!!」


 道路を封鎖する形で、中隊の火力を集中させても敵は止まらない。砲撃も銃撃も全弾が命中しているにもかかわらず、多少の足止めにしかなっていなかった。


「クソッ!無駄に頑丈な……ッ」


 隊長がギリリと歯ぎしりする。

 武装は最新、練度は最上。他国軍に負けるような事はあり得ないと言えるほどの実力を、自衛隊は持っている。そんな彼らでありながら、いま対峙する相手には碌にダメージを与えられていない。


「ガルム、来ますッ!」

「おのれ魔物め!総員、我々の意地を見せてやれ!ただでやられてなるものかッ!!」


 魔物。

 現代日本に突然現れた脅威であり、銃火器が碌に通用しない超常の存在だ。


 迫りくる鈍い銀色毛のオオカミは戦車と同等の大きさの怪物、それが意思を持って襲ってくる。恐怖心は勿論ある、だがそれよりも国家国民を守る矜持が勝った。隊員は誰一人として怯む事無く、砲撃銃撃を以って一秒でも長くガルムを足止めしようと奮戦する。


「遅参、失礼ッッッ!」


 場違いな、凛とした少女の声が響く。上だ、空からだ。


 遥か上空を飛ぶのは二本尾翼の戦闘機F15

 その背に乗って、彼女は戦場へとやってきた。目標地点へと到達した所で飛び降りたのだ、背中にパラシュートなど装着せずに。


 中隊とガルムの間に、少女は着地する。


 艶やかな黒の髪。白衣しらぎぬ緋袴ひばかま巫女装束、白の足袋に草履を履いて。

 およそ戦場に相応しからぬ、可憐な姿だ。


「おお、来てくれたか!いくさ巫女!」


 隊長が声を上げた。

 彼はすぐさま中隊に後退指示を出し、戦場の主役を少女に譲る。


「日本を国民を脅かす邪なる魔物よ」


 戦巫女は背に複数、まるで後光のように負ったソレを一本抜いた。

 青々としていて綺麗で、先端は斜めに切られて鋭利となっている。


「大和魂を」


 目標、前方の巨大オオカミ。

 しかし狙いを付けるのに照準器も何も必要ない。ただただそれは、たった一つの動作で最強の威力を発揮するのだから。そして戦巫女は、その戦法に特化して鍛えられた護国の士なのだから。


「見るがいいッ!!!」


 投げる。

 野球ボールを投げるように、少女はそれを投擲した。ただの棒、そんな物を投げても意味はない。しかしソレは違う、大和魂を込めたその兵器は。


けッ!ジェット竹槍!!!!」


 筒状の中に詰められているのは火薬にあらず。

 日本にだけ存在する世界最強の力、大和魂である。人類科学が生み出した物質の何よりも硬く何よりも強い、不可視の力。それこそが先人が子孫に残した秘密兵器の動力であり、魔物を斃す唯一の術となったのだ。


 ジェット竹槍がガルムの眉間に突き刺さる。が、その程度で終わるわけがない。あまりの威力に巨大オオカミの体は爆発四散、大和魂満載の槍は遥か遠くまで飛んでいった。


「滅殺、完了ッ!」


 こうして此度の戦は、国民に誰一人の被害も出さずに終結した。


 戦巫女の戦いは、魔物全てを討つまで続く―――




― 完 ―

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